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昔を懐かしく思い返せるそんな平和な日々。ふと中庭を眺めていると思い出すことがある。僕が幼かった頃、一番傍にいたのがコンラートだった。


母上も兄上も多忙な時期だったので、あいつしか頼る奴がなかったんだ。



ぼくの本意ではない。



多分当時のぼくはあいつのことをそれなりに慕っていたのだろう。そのへんのメイドより気が効いてたし、剣の技術だってあいつから教わった。何でも軽々こなしていくあいつに憧れさえ抱いていた。

そんなコンラートと一つだけ約束したことがあった。


今でも鮮明に思い出せる。夕暮れの中庭で遊び疲れた時だった。何かを決心したようにコンラートは語りかけた。


「全てを知っても、ヴォルフは俺のこと嫌いにならないでくれる?」


無知だったぼくは何も知らずに
そう何も知らなかったから…

「うん。だってちっちゃな兄上好きだもん」


と答えた。


「ありがとう、ヴォルフラム」


年に似合わない、大人っぽく微笑んだあいつの顔が忘れられない。



だって知らなかった。




自分が憎み続けていた人間の血が兄に混ざっているなんて。


たまに人間の話をすると寂しげな顔をするコンラートを急に思い出したが、幼いぼくの頭には『うらぎられた』という言葉で頭がいっぱいになった。



ぼくはあいつとの約束を破ったのだ。



それからはいくらコンラートがぼくに関わろうとしても、避けて、逃げ続けていた。


悲しくて、淋しくて、コンラートの人間の血を恨み続けた。優しく髪を撫でる大きな手を拒み続けたのであった。大好きな兄だったのに。


それから幾年が過ぎ、ユーリと出会った。ユーリとの出会いにより、人間は悪い奴ばかりではないと、憎むべきものではないと理解するようになった。


そして幼いあの日、人間の血が混ざっていると言うだけで、毛嫌いしていたコンラートに罪悪感すら覚えるようになった。



コンラートの顔を見る度に、守れなかった約束を思い出す。




そんな物思いに耽りながら、血盟城の廊下の柱にもたれ掛かって中庭を眺めていると、コンラートが偶然通りかかった。




喧嘩したら謝るに決まってるだろう?そんなことを言ってたユーリの言葉が脳裏に浮かぶ。



「おいっ兄上」



思わずそう呼びかけると、コンラートは立ち止まり、珍しく顔には動揺が表れていた。コンラートを兄だと呼ぶのは何十年ぶりだ。かなりの勇気が必要だった。



「どうしたんだ。ヴォルフラム…「ぼくはお前が嫌いではないからなー!!」



それはもう相手が覚えていないかもしれない昔の話の続き。謝ることは出来なくてもこれだけは伝えたかった。


コンラートは目をまん丸くしていたが、


「そんなの昔から知ってたよ…」

余裕しゃくしゃくにあいつが笑った。笑い方はあの頃と少しも変わらない。なんだか妙に腹立たしくなってきた。



「おっお前なんてやっぱり大嫌いだーー!!」



ぼくの声が血盟城中に響きわたる。心底おかしそうに笑うコンラートを置いて、反対側の廊下を歩き始めた。



すっと胸のしこりが取れた気がした。





オマケ


渋「どうしたの?ヴォルフ。眉間に皺なんて寄せちゃってさ」

ヴ「ユーリ…何だお前か」

渋「なんか悩み事でもあるのか?」

ヴ「お前は喧嘩したらどうする?」

渋「そんなの決まってんじゃん。謝るに決まっているだろう」

ヴ「そ…だよな」

渋「あっもしかしてコンラッド?」

ヴ「なっ!!何故ウェラー卿なんだ!?別にあいつだとは誰も言ってないだろう」

渋「まぁ隠すなって〜兄弟喧嘩なんて、巷じゃよくある話なんだから」

ヴ「なっ兄弟!?」

渋「それじゃあおれが兄貴と喧嘩したときに使うとっておきの言葉を教えちゃおうかな?」

ヴ「だからユーリ、話をっ」

渋「コンラッドのことお兄ちゃんって呼んでみ?きっと喜ぶよ」

ヴ「そんなの呼べるか!」

渋「いいから、いいから。騙されたと思って使ってみろって」



兄上で妥協した、ヴォルラムでした。


End





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