【海風】
ここ最近のおれは随分大人になったと思う。
気持ちを抑えることも覚えたし、何より眞魔国のことを考えるようになったし。自分でいうのもなんだけど、少し魔王らしくなったと思う。
だけど、だけど…
「陛下、何を考えているんですか？」
あの人かと思ってとっさに振り向いてしまった。
「ヨザック…」
あの人のわけがない。
もうこの船ではおれを「陛下」と呼ぶのはヨザックしかいないから。
あの人はもうおれのこと「陛下」と呼ばないから…
「陛下」って呼ばれるのが嫌だったはずなのに…おれ以外の「陛下」に嫉妬している。
溢れ出しそうな想いだけぎゅっと閉じ込める。
いつもと変わらないのに、あの笑いかただって些細な仕草だって、なんにも変わらないのに、あんたとおれの距離は遠すぎて気が狂いそうなんだ。
信じられない、信じたくない。
あんたの心が戻ってきますように…叶わなくても祈ることしか出来なかった。
儚い想い出だけを抱いて
End
．
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