今日は貴方がこの世に誕生した日。生まれてきただけで満たされるぐらい貴方の存在が愛おしかった。
だから自分を何を引き替えにしても守りたい。そう思うのは貴方にとってはエゴなのだろうか…。
「陛下、何故私の気持ちがわかってくれないのですか〜！もしや私のことが嫌いなんですか？」
ギュンターの声が血盟城中に響きわたる。この麗しい教育係は非常に熱心だ。久しぶりに眞魔国に帰ってきたとはいえ、熱のこもった授業は１週間も続きおれ的にももう限界が近づいてきていた。
「だってギュンター、昨日もおとといもその前もずっと勉強だったじゃないか。少しぐらい外へ行っても‥あっ、ちょっとギュン汁出てるって」
「しかしですね、陛下は良き王になるために、もう少し国のことを知っていただかなければいけないのです。ただでさえ、陛下は異世界に長く居られたのですから」
いつもベタ甘な王佐もおれの勉強面になると非常に厳しい。頭の８割が筋肉で構成されているおれにとっては、ギュンターが悪魔にも見えてきていた。
いや、おれたち魔族だから間違っているとは言えないと思うけど…。スパルタギュンターここにあり。
今日は外が抜けるように青い。野球をしたらさぞ気持ち良いだろう。飛んでいるコッヒーとも目が合う。こっちへおいでとでも言っているようだった。
「陛下、聞いていらっしゃるのですか？」
聞いていない。
んもー白馬に乗った上様でも、水戸黄門でもいいからここから連れ出して！
おれがそう心の中で助けを呼んだ瞬間だった。救いの手が差し伸べられたのは…
「おや、これは何の騒ぎですか？」
上様でも水戸黄門でもなく現れたのは、おれの保護者で名付け親のウェラー卿コンラートだった。
それにプラスアルファで説明を付けたしするなら、秘密の恋人だったりもする。
スパルタ教育オーラで血走った目のギュンターと比べると極端なくらい爽やかだ。今のおれにとって一種の清涼剤だ。
「コンラッド〜」
少し困ったような顔で見上げると、それで理解したのか助け船を出してくれた。
「まあ、いいじゃないかギュンター。陛下は少しお疲れだ。少し息抜きさせてさしあげても…」
「しかしですねぇ。陛下はこれから王としてふさわしい教育を‥」
まだ、渋るギュンターに村田に教わったギュンター攻略法を思い出す。
キャッチフレーズは『これでギュンターもイチコロ☆』だ。
「ダメなのか、ギュンター？？？」
上目遣いで小首をかしげてみる。こんなぶりっこ小さな頃に新しいミットをおねだりした以来だ。
かなりわざとらしかったので、駄目かと思ったケド…効果抜群だったらしくフォンクライスト卿ギュンター陥落。
見事おれは勉強地獄から抜け出した。
久しぶりのコンラッドとのキャッチボールは出来たばかりのボールパークでできる事になった。万年補欠のおれにとってこんな広く球場を使えるチャンスは滅多に無いのでキャッチボールにも力が入る。
「ありがとな、コンラッド！俺ってば脳筋族なもんだから、こんなに天気がいいと、うずうずしちゃってさ」
天気の日は外で野球に限る。昔から植え込まれた習慣は恐ろしいもので、机に座っていたら体が動かしたくてたまらなくなった。
「気持ちはわかりますよ。昔はよく天気がいいときはヨザとかけまわったものです」
「ああ、そっか！ヨザックと幼なじみだっけ」
「ええ、ヨザは俺より年上だからって兄貴風吹かして色々ひっぱっていかれましたよ」
じゃあ、いつから女装を…寸前まで喉に出かかった疑問を飲み込んだ。一瞬頭にコンラッドと女装したヨザックが原っぱで駆け回っている姿が浮かんだからだ。
「…へぇ〜でもいいな」
きっとヨザックはおれの知らないコンラッドを沢山知っているんだろう。ちょっと妬けてしまう。この２人には誰も近づけなさそうな絆をたまに感じるからだ。
「幼なじみが、ですか？」
少し強めに投げ込まれたボールをミットから思わずこぼす。
「ああ、そうそう。おれ、兄貴はいたけど、幼なじみはいなかったからな〜」
慌てて転がったボールを拾いながら平静を装う。全く違う意図で取られたみたいだが、ほっとする。
ヨザック相手にヤキモチを妬いていたなんて知られたくはない。
「陛下のお兄さんってどんな方なんですか？」
「えっーおれとは正反対のインドア大学生。顔も親父似だし〜頭は鬼みたいにいいケド、ちょっと変人というか」
ギャルゲー好き。と、心の中で付け加える。
「へぇーショーマに？会ってみたいな陛下のお兄さんに」
「あまり会わない方が良いと思う…」
勝利が何を考えているかはわからないけど、とにかくおれの友達は気にくわないらしい。おれは女の子じゃないんだから、彼氏を連れてきた娘の父親みたいな反応をするのはよして欲しい。
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