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会いたくて、でも会えなくて…。
不安で胸が苦しくなって、ぎゅっと魔石を握り締めた。

ふいに涙が一筋。


早く連れてってよ、眞王様?


そろそろ限界。



何故スタツアとは行きたいときに行けないんだろう…あっちからお呼ばれしなくなってから3ヶ月が過ぎた。


3ヶ月といってもこちらの時間軸なので、あちらでどれだけの時間が経っているかおれにはわからない。


1週間しか過ぎてない時もあれば、2〜3ヶ月経っているときもある。


まあ、あっちの世界が本来魂の在るべき場所だというから、ホームシックと言ってもおかしくないだろう。



今頃みんなどうしてるだろうか?国政はグウェンやギュンターがやってくれてるので、おれがいなくても大丈夫だろう。

グウェンは働きすぎて、過労死してなければ良いが、ギュンターはおれがいない時は有能らしいから、うまくフォローしてくれているだろう。

そういえばヴォルフラムは普段何の仕事をしているのだろうか?

どうしても真剣に働いている姿が浮かばなかった。しかし相変わらずわがままプーっぷりを発揮しているのだろう。



そして…コンラッドは何してるのかな?


おれのボディガード兼親友兼恋人は…。

こーいうのも遠距離恋愛って言うのだろうか?


逢いたいときに逢えないことがこんなにつらいことだとは思わなかった。

だって眞魔国にいるときは、逢いたいって思う前には、おれの隣にいてくれたから。心を読んだみたいに、おれのことをおれ以上に理解してくれたから。


心地よかったんだ。


コンラッドと一緒にいた時間が。
これってひょっとしてホームシックじゃなくて、コンラッドシック?!


つまりは恋人に会いたいだけじゃないか。


気付くと顔が水に付くくらい身を乗り出していた。そうして水にはおれの顔ともうひとつのメガネの……。


メガネ?


「し〜ぶやっ池なんか見つめてなにやってるの?」


村田が歌舞伎焼きを食べながら面白そうにおれのの顔をのぞき込んできた。


「うおっ村田健。いつのまにぃ」
「いつのまにじゃないよ〜僕は君の隣に30分以上前からいたじゃないか」

「全然気付かなかった…って言うかそれなら早く声を掛けてくれ!!」


悪趣味だ。半ば冷ややかな目で村田を見つめた。



村田はおれがこの公園に来た当初から隣にいて、延々悩み続けるおれを眺めていたということになる。


「なんだよその態度。ゆーちゃんが最近おかしいのよ。なんか知ってる健ちゃん。なぁ〜んてジェニファーさんに言われたから探しにきたのに!」

「…わざわざ口まねしなくっても」

微妙に似てると思えるのが恐ろしい。

「ちなみにこれはジェニファーさんからの差し入れね」


どうやらこれは今日の渋谷家のおやつだったらしい。

「ど〜したんだ?あっちに呼ばれないってことは平和ってことで…」

「そんなことわかってるよ!ただ…」


どうやら村田は何も言わずともおれが眞魔国に行きたがっていることを勘付いているらしい。

だけど、眞魔国に行きたい理由がただコンラッドに会いたくなったんだっな〜んて言えないっ絶対に。


「ふぅ〜ん、なるほどねぇ」

「なっ何がっ」

「はははーん、やっぱりねぇ」

「何だよ!!」


おれが後ずさりした直後に強い力で池に突き落とされた。この引き込まれて行くカンジ…まさか。


「地球から眞魔国へのスターツアーズ、1名様ご招待〜♪」


村田はこちらに器用そうにウィンクを投げて寄越した。


「会ってこいよ!渋谷の名付け親に」


ダイケンジャー様は何でもお見通しですか!沈んでいく体、返事のできない代わりに心の中で村田にお礼を言っといた。


眞魔国へやっと行ける。


ありがとう大親友の村田様☆


ついでに様まで付けちゃうおれって現金?





久しぶりのスタツア着地点は池だった。どうりで見覚えがあると思ったら、ここは血盟城の中庭だった。


おれの真横ではニシキゴイが迷惑そうに泳いでいた。ごめんっ!ニシキゴイ。君たちの生活を邪魔するつもりは無かったんだ。


とりあえずニシキゴイに謝って、池から這い上がった。心なしか小学校にあった金魚の水槽臭い。


ずぶ濡れの髪をかき上げ、洋服の水分を絞っていると、パタパタと足音が聞こえてきた。


「陛下〜ああこんなにずぶ濡れになって…」

ほぼ錯乱したままでギュンターが抱きついてきた。

「ずぶ濡っていつものことじゃん。ギュンターっや〜め〜ろっ!頬をすり寄せるな」


とりあえず、ギュンターが持ってきたタオルで体を拭いていると、後ろからおれが知ってる気配を感じた。



振り向かなくってもわかるよ


「陛下…おかえりなさい」


コンラッドがおれの大好きな声で言った。この暖かい光に包まれるようなこの瞬間がたまらない。


「ただいまコンラッド」


ああやっとこの人の元に帰ってきたんだ。



涙が出そうだった。





おれのデジアナGショックの時間で言うなら、11時。


おれはコンラッドの部屋の前まで来ていた。


せっかく3ヶ月ぶりにコンラッドに会えたのに、ヴォルフやギュンターに邪魔されて全然話せなかったからだ。


その上にツェリ様やらグウェンダルに挨拶に行き、そのうえ帰還パーティなどが盛大に開かれて忙しかった。

その盛り上がるパーティをなんとかお開きにしたのが、10時半。
それからグレタとヴォルフを寝かしつけやっとここまで辿り着いた。危うく一緒に眠るところだったが、どうしても今日中にコンラッドに会いたかった。


静まれおれの心臓ーさっきからなかなかノックできずにいた。勢いで来てしまったけど、勇気が出ずにうろうろしている。

なんか昔の少女マンガで好きな人になかなか電話できない女の子の気持ちがわかったような‥。最後のプッシュボタンが押せないって奴。

だからと言ってここであきらめたら男がすたる。せっかく村田が気を効かせて、眞魔国に送ってもらったのだ。行けっ渋谷有利!

一度大きく深呼吸をしてドアを叩いた。


コンコン。

……。

コンコン……。


いくらノックしても静寂が辺りを包むだけだった。ひょっとしてコンラッド今いない?コンラッドが不在のことを考えなかった自分を恨めしく思う。

バカみたいだ。

なんかほっとしたようで、がっかりした気分になった。何気なくノブを回してみると、不用心にもドアが開いた。

コンラッドにしては珍しい話だけど、鍵をかけてないということはすぐ戻ってくるのかもしれない。ちょっとぐらい待たせてもらってもいいだろう。

コンラッドのベットに寝ころんだ。コンラッドの匂いが染みついたベットはなんだか安心する。

埼玉の実家にこのベットがあったら少しは寂しさも紛れるかも…貰えるか頼んでみようかな〜。

しかしスタツアするときにどうやって持って帰ろうか。そんなくだらない事を考えているうちにどんどん意識が途切れてきた。あまりに心地良すぎたんだ、好きな人の匂いが染み付いた部屋にベッド。

この部屋はまるでコンラッドに抱き締められているような気分にさえなる。安心したおれは意識が闇に落ちた。





「……か…陛下、何故こんなところに」

温厚ポーカーフェイスのコンラッドが困惑した顔をしている。知らないうちに少し眠ってしまったようだ。


「あ〜こんらっどおかえり〜」

両手を伸ばすとコンラッドはおれの体を起こしてくれた。

「何かありました?」

コンラッドがおれの顔をのぞき込んできた。ヴォルフラムやグウェンダルみたいな派手さはないけれど、整った顔立ちに薄茶色に散らされた銀の虹彩はなかなかのものだと思う。


コンラッドはおれが何の用があって来たのか探っているようだが、いつも無駄に鋭いのに何故こんな時に限って鈍いんだ。ちょっとムッとした。


コンラッドがおれが来たことが歓迎より困惑ムードだったからだ。

「こっ恋人に会いに来ちゃいけないワケ?あんたに会いに来たに決まっているだろう!って言うか久しぶりなのに、久しぶりに2人きりなのに陛下って呼ぶな!」


勢いで今まで溜りに溜った会えなかったストレスをぶちまけた。



熱い、体の芯から。

体全身の血液が巡って顔に集まっているみたいに。

顔を見なくてもわかる。

おれの顔…絶対真っ赤だ。

「ユーリは本当に可愛いこと言ってくれるね」

コンラッドはクシャっと髪をかきあげた一つ一つの仕草が自然にかっこいい。


あ〜だめだ。


おれコンラッドにベタボレじゃん!?

「…その言葉はおれみたいな野球少年には使いませーん。可愛いって言うのはヴォルフみたいな奴に…」

「ユーリは可愛いよ…今夜は帰したくなくなるくらい。」


わざわざおれの耳元でささやいた。
低く、甘く、かすれた声で。

ゾクゾクっと腰にクる。


見上げればコンラッドが確信犯的な笑みを浮かべていた。


「これからどうします?」


全てわかった上でそんなことを聞くコンラッドは人が悪い。勿論、おれの行動は決まっていた。



「帰してくれないんだろ?」



と言ってコンラッドに抱きついた。これがおれの精一杯の勇気。


たまには甘えてみるのも悪くないかもしれない。



end



響セツナ様からのリクエストでした。




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