[携帯モード] [URL送信]




フォンヴォルテール卿グウェンダルは堅物な男である。


その堅物な男と付き合いだしたのが、眞魔国第27代魔王こと渋谷有利、つまりおれだ。


「ほーんと堅物だよな〜グウェンって…」

グウェンから貰ったシロブタちゃん(本人はライオンと言い張ってる)をつつきながら、軽くため息をつく。


スヴェレラの駆け落ち騒動からなんとなくいい感じになり、どちらとなく告白してお付き合いという経緯に行き着くまでは良かったのだけど…。

おれとグウェンの関係は1ミリも進展せず、寧ろ一歩下がって二歩下がる…三歩も下がって後退モードだ。別に仲が悪くなったとか、他に好きな人がいると言うわけではない。


ただグウェンの仕事が忙しいのと、真面目過ぎる性格のせいで、恋人らしいことをしていない。というか手を出してこないと言うか…。


本当におれたち付き合っているのかな?


という疑問から、


そもそも付き合うって何?


という根本的なところに考えが行き着いて、頭を抱えてしまった。

モテない歴=年齢のおれにとって、お付き合いというのは未知の領域だ。今頃、グウェンは何をしているのだろう?付き合いだしてから、グウェンの私室に出入りするようにはなったが、眉間に皺を寄せて、おれの一方的な会話が続くだけだ。


ひょっとしておれ、グウェンにとって迷惑なのかな…?


誰もいない執務室は静かだった。珍しい話だが、ギュンターもヴォルフラムも出払っている。普段は慌ただしく、こんな事じっくり考える暇も無かった。



「グウェンのばぁか…」



おれは机に突っ伏して考えることを放棄し、意識を闇に預けた。







波のような地面が揺らぐ振動、まるで船にいるような感覚がおれを襲った。


船?おれ、誘拐されてどこかに出荷されている途中!?


現状を把握できないおれは恐る恐る目を開けてみると、飛び込んできたのは、多分おれの恋人グウェンダルの顔だった。

「うわっ、グウェンー!!」

船ではなく、グウェンがおれを横抱きに抱えているだけであった。
「おいっ暴れるな、落ちるぞ」

完璧に落ち着き払っているグウェンに、


「だって、何でグウェンがおれの目の前にぃ!てか何でおれを抱えてんの!?重いからっおーもーいからっ」


パニック状態を引き起こしているおれ。



「お前が執務室で寝ていたから部屋に運ぶ途中だ」


おれを落ち着かせようと髪を撫でながら、グウェンはふっと笑った。


グウェンスマイルに渋谷有利、200のダメージ。


半ばグウェンの希少価値的なあの笑顔に惚れてしまったおれ的には顔を赤くするには充分だった。


「おい、ユーリ。大丈夫か」

「うっうん!バッチリだって」


グウェンが眉間に皺を寄せて心配してくれたが、それどころじゃない!この体勢じゃバッチリ目が合ってしまうし、視線をどこに合わせていいのか。それよりなにより、グウェンがおれのこと名前で呼んだ!!


小僧とかお前とか陛下とかで滅多にグウェンはおれの名前を呼ばないので、それだけで動揺した。あんたは自覚ないかもしれないけど、腰にクる低音ボイスなんだって!!


「今日はもう休んでいいぞ」


そう言うとグウェンはおれの部屋の前で降ろしてくれた。


「でも、まだ仕事残ってるから…」

そうちょっと休むつもりが、結構寝てしまったのだ。

「それなら心配ない。もう、終わらせておいた」

「えっ、ごめん…またグウェンに負担掛けちゃって」

「そんなこと気にしなくていい。それより、なんか悩み事でもあるのか?」

「えっ…悩み?どうしたの、いきなり」


唐突で核心を突いたグウェンの発言に驚いてしまった。


「コンラートがお前が悩みがあるようだから聞いてやれ…と」


少し恥ずかしげにグウェンは横を向いた。


あっありがとう〜コンラッド!!心の中で理解のある名付け親にお礼を言った。グウェンとのことを話した記憶は無いが、やはり勘の鋭いコンラッドは気づいていたらしい。


コンラッドがくれたチャンスは無駄にしないからなっ。


心に誓いを立てた。


「グウェンはおれの悩み、聞いてくれるの?」

じっとグウェンを見つめた。首を上げないと視線が合わないくらい、身長差がある。

「ああ、出来る限り力になろう」
おれは深く深呼吸した。
二千年の経験をお持ちになるダイケンジャーだって言ってたではないか。
人生思い切りが大事だと。
躊躇している場合ではない。


精一杯背伸びして、グウェンの髪を掴んで自分の顔まで引き寄せた。


「なっ…」


ひどく動揺しているグウェンの顔が目の前にある。


「キスして…?」


そしてゆっくり目を閉じた。




これは一種の賭けでもある。奥手堅物で真面目なグウェンだ。断られる確率の方が高い。



「いいのか?」


わざわざ確認しなくてもいいのに。思わず吹き出しそうになったが、そこがグウェンのいいところだ。


「だって好きだから」


それが合図だった。

おれの髪を撫で、耳に手がかかる。胸が早鐘のように高鳴ってどうにかなりそうだ。


スローモーションのように時がゆっくり流れる。





自分の中でカウントを取りはじめる。



3…2…1…


唇が重なり合う。

一歩下がって二歩下がる。

合計三歩も下がっていたおれたちがやっと最初の一歩を踏み出した。



End





第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[グループ][ナビ]
[HPリング]
[管理]

無料HPエムペ!