余裕なんてあるわけない。
いつも貴方の心をつなぎ止めようと必死なんだ。
くるくる変わる表情、
無邪気だと思えば年不相応の大人びた面を見せたりする。
俺だけが知ってるユーリ。
誰にも見せたくない。
誰にも触れさせたくない。
嫉妬の力で人を殺せるなら、軽く2〜3人は殺しているだろう。
そんな物騒なことを考えて軽く溜息をつく。
膨らんでいく独占欲はもう自分でコントロールできるものではない。
こんな面をユーリには見せたくない。自分を隠すのは幸い得意だった。
「随分、余裕があるんだね。ウェラー卿」
すれ違いざまに猊下が一言囁いた。
貴方にまで嫉妬しているのに、余裕なんてあるわけがない。
会う約束をしていた裏庭の木の下で、ユーリと猊下が仲良さそうに笑っていた。何を話しているかは、わからなけど、とても楽しそうにはしゃいでいる。
この2人にはいつも入り込めないものがある。地球でも眞魔国でも、常に一緒に居ることが出来て、立場的にも釣り合っている。
猊下がいらっしゃるまでは、この世界でユーリのことを一番理解しているのは、自分だと自負していた。
だけど、ユーリが俺の知らない話を猊下と楽しそうに話をしている姿を見る度に、不安になる。
ユーリに必要なのは、俺ではなく、猊下なのではないかと…。
話しかけるタイミングを完全に無くして、2人の姿を眺めていると、猊下だけが、俺の存在に気づいたのか、目だけをこちらに向け薄く微笑んだ。
猊下がユーリの腕を掴むと、顔が重なる。とっさの出来事で動くことも出来なかった。
思考回路が完全に停止して立ち尽くしていると、同じく思考回路が停止したと思われる、泣き出しそうなユーリと目が合った。
「あっその…」
何か言いたげなユーリを無言で手を引っ張っていくことしか出来なかった。
「ちょっと…コンラッドっ手ぇ痛いって」
わかっている。あのキスがユーリの意志じゃないことくらい。
それでも…
自分が人に対して嫉妬するなんて事は、ユーリと会うまで無かったことだ。
望むものなんて、最初から諦めていた。
手に入らなくて足掻く事なんて、出来なかった。
こんなに恋い焦がれる、俺の心を焦がす、貴方は本当に罪作りな方だ。
早めていた足を止め、廊下の壁にユーリの両腕を縫いつけた。
ユーリは怯えたように俺から視線を外す。
それがより一層煽っていることに貴方は気づいていない。
「俺より、猊下のキスのほうがうまかった?」
「だから、あれはっ」
ユーリの弁解も聞かずに唇を貪る。
「んっ…ふぅ」
人気のない血盟城の廊下に俺とユーリの息づかいだけが響いてる。
余裕なんて無い。
名付け親・保護者・ボディガード・理解者・親友…自分の出来る限りの全てのことでユーリをつなぎ止めることが精一杯だ。
最初は抵抗していたユーリもだんだん力が抜けて、頬がほんのり赤くなる。押さえていた両腕を離すと、恐る恐るおれの首に手を回してきた。
キスなんて数え切れないくらいしたのに、まるで初めてのような初々しさがユーリの可愛いところだ。
たまに漏れる微かな吐息やしっとりとした柔らかな唇が緩く動く度、何も考えられなくなる。
絡めた舌をユーリが応えてくれるようになった頃には、醜い嫉妬心は消えていた。
ゆっくり唇を離すと、ユーリの体はがくっと力が抜けた。
「っ…はぁ〜あんた、おれを窒息死させる気ぃ?」
「すみません。少し気が動転してました」
今にも崩れそうな身体を支えると、ユーリはもたれかかってきた。
「いいよ…あれはおれが悪かったんだし」
「ユーリが悪かったわけじゃないでしょ」
どう見ても猊下からの不可抗力にしか見えなかった。
「まさか…村田が本当にするとは思わなかったんだ」
小さく俯いて、ぼそっと言った一言で、収まったはずの嫉妬心がまた沸々と湧き上がる。
「どういうことですか?ユーリ」
「うわっだから笑顔で怒るなって、だからそのっ…キスする振りの予定だったんだ」
「何でそんなことを…」
「おればっかヤキモチ妬いてて、不安だったんだ。コンラッドモテるし」
ユーリは小さくごめんと呟いて、俺の胸に顔を埋めてきた。
「貴方って人は…」
無意識に甘えるのが上手なユーリにやられてばかりいる。そんな可愛いことされると、何もかも許してしまいそうだ。
「俺も嫉妬してばかりいるんですよ。堂々と貴方の傍にいるヴォルフとか、地球でも共にいられる猊下に」
「なっ!!…じゃあ」
ユーリは豆鉄砲を食らったような顔で、見上げきた。
「お互い様ですね」
目の前にいるユーリがみるみる顔色が変わっていくのが、わかる。
「うわっ何それ!!おれ、馬鹿みたいだ〜」
顔をりんごの様に赤くしたユーリが、俺の胸の中でジタバタ暴れていた。
「ちょっと落ち着いてください」
いつものように宥めようと、真っ直ぐな癖のない髪を撫でるが、それでは気持ちが治まらないらしい。
「だって勝手に不安になって、ヤキモチ妬いて!本当にごめん。おれのこと一発殴っていいから」
相当混乱しているらしく、そんな突飛な提案をしてきた。恋人である前に俺がボディガードだと言うことを忘れているようだ。
自分が魔王であること、そして一番大切なことも…。!
俺の腕の中からすっと抜けると一歩離れたところで、目を閉じた。正常な状態なら、俺が貴方を殴れないことぐらい分かる筈なのに、どうやらユーリは本気らしい。
「早くしろよ!」
すっかりお待ちかねのユーリの肩に手を掛けた。
「本当にいいんですか?」
再度確認すると、いいから早くとユーリが急かす。俺は少し考えて、ユーリの頬に送ったのはビンタではなく、キスだった。
「ココココンラッド、今、あんた何やったの?殴っていいって言ったじゃん!」
「俺が貴方を殴れるわけないでしょう。でも、それじゃあユーリの気が済みそうに無かったから。それに…」
付け足した言葉にユーリはまた、動揺する羽目になる。
「求婚するときは、もっとロマンチックなところで行う予定なので」
3秒ほど、行動停止したユーリはその言葉を理解するなり叫び声をあげた。
「あーーーー!?また、やっちゃった!!」
二度あることは、三度ある。
血盟城の廊下のど真ん中で行われた盛大な痴話喧嘩はその日のうちに国中に知られることと合いなった。
End
彩様からのリクエストでした。
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