あんたがおれの名前を付けたのに、何度直しても『陛下』って呼ぶ。
それなのにたまに不意を付いたみたいに『ユーリ』って…コンラッドはずるい。
おれをこんなにドキドキさせておいて、一人涼しい顔しちゃってさ。名前呼ばれただけで、こんなに嬉しくなるなんて知らなかった。
いつもより熱のこもった1トーン低い声。おれの好きなコンラッドの声。
だからもっともっと名前で呼んで…?
いつもと変わらない日常。
おれはギュンターの毎度お馴染み勉強地獄から逃れて、この部屋に逃げ込んできた。
「陛下〜陛下ぁー!!どこにいらっしゃるのですか?」
遠くから必死でおれを呼ぶ声が聞こえるけど、首を横にふるふる振って聞こえないフリをする。
まさか言えるはずがない。
勉強が嫌だと言うよりは、ギュンターが興奮したときに起こるギュン汁の洪水が怖いからなんて。
「陛下、ギュンターが呼んでますよ」
部屋の隅で体育座りをしているおれに、どこからともなく現れたのはコンラッドだった。
「陛下って呼ぶなー!!!名付け親っ」
このセリフは言っておかなければならない。
「失礼、つい癖で」
悪気が無さそうににっこり笑顔で謝っているけども、当分直す気がなさそうだ。
「そんな癖付けるなよ〜最初から言ってるだろ。ユーリでいいって…」
「すみません、ユーリ」
よく耳に馴染むおれの大好きな声。聞き慣れた名前がこんなにも特別に聞こえるなんて不思議だ。
「ねぇコンラッド。おれの名前呼ぶときなんかしてる?」
「何かって?」
いかぶしげな表情で聞き返された。
おれだって具体的に説明はできない。
だけどなんとなく…
「他の人に呼ばれてるのとは違うカンジかするんだよな〜」
家族でも友達に呼ばれても感じない。
不思議な感覚。
数秒間が空いて、コンラッドは緩く微笑んだ。
そしておれの耳にぐっと顔を近づけてきた。
「それは愛がこもってますから…ユーリ」
そう耳元でささやくと、おれの耳朶にちゅっと軽くキスをした。
「コココ…っコンラッド!!」
毎度馴れない不意打ちに顔を赤くしながら狼狽えまくるおれ。コンラッドがユーリは本当に赤面症ですねと言うが、あんたのせいだろーー!!と叫んでやりたい。
そもそもモテない人生16年が確実にモテていただろう人生100歳+αを相手にするのでは、経験値が足り無すぎる。
「好きな人から呼ばれる名前には魔法がかかっているんですよ」
自信たっぷりに自惚れる恋人に呆れ半分、嬉しさ半分。あまりしれっと言うものだから何も言い返せない。
…だって当たっているし。
だからと言って、鵜呑みにするのはムカつくのでコンラッドを軽く睨んだ。
「そんな顔をしないでください。俺にとってもユーリは特別なんですから」
コンラッドはおれの手を取り、自分の指を絡めた。
「例えば貴方がどこで俺を呼んでも、すぐに解ります」
コンラッドの瞳は真っ直ぐおれを貫いて、呼吸を苦しくさせる。
常識的に考えて、そんなのありえないだろうと思うはずなのに…コンラッドが言うと本当に聞こえる。
どこで、コンラッドを呼んでも気づいてくれる気がする。
離れていても、つながっていられる。
好きな人の名前は魔法。
呼ばれた名前は特別。
そんな事を考えているおれは、村田曰く恋の病に侵されているようだ。
「コンラッド」
「何ですか?」
口には出せないけれど、この想いをつないだ手に託す。
「もうちょっと手をつないでて、いい?」
「勿論です」
もっと、もっと名前で呼んで…?
つないだ手にぎゅっと力を込めた。
伝わるといいな…。
END
灰谷シンリ様からのリクエストでした。
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