お忍びで城下町に出るのは俺の趣味みたいなもので、今日も眞魔国探索ツアーとの名目でコンラッドをお供に出かけていた。
秘密の恋人同士のコンラッドとおれ的には、御忍びデートとも言うけれど。
自分の国とは言え知らないことだらけなので、見て回るだけでも充分楽しい。
「ねえねえコンラッド、あの食べ物っておいしい?」
「あれはカーナですね。地球で言うフルーツみたいなものです」
「へぇ〜そうなんだ」
「食べたいんですか?」
「えっいいよ〜ギュンターにも迂闊にも街で買った食べ物を口にしないようにって言われてるし」
「でも食べたいんでしょう?」
「うっ」
丁度そのときおれの腹の虫が鳴いた。
ぐうぅ〜う〜。
おれの腹からのSOSサインだ。いくらなんでもタイミング良すぎデショ?
コンラッドはツボにハマッたのか、ずっと笑ってるし。んもー勘弁してくれってカンジ?
「陛下が口にする前に俺がちゃんと毒味するんで大丈夫ですよ」
「…おれが嫌なんだよ。毒味。もし毒が入ってたらコンラッドが死んじゃうじゃん」
「気持ちは嬉しいけど、俺は平気ですよ。ある程度軍で毒の耐性とか訓練していましたし」
おれの返事を聞く前にコンラッドは八百屋(?)のおじさんからカーナを1つ購入した。
「どうやら毒は入ってないようです。安心して食べてください」
にこやかにコンラッドが少しカーナをかじったものを渡してきた。食欲もあるし、カーナからは甘い匂いが漂っている。
なのに、な〜の〜にっ。
これってひょっとして間接キス!?なんて小学生みたいなこと考えている。
そんなこと意識するなら、中学の野球部時代に野郎十数人とポカリの回し飲みしたじゃん。それに血盟城の毒味係はどうなんだよ!?
「食べないんですか?」
「いや、食べるよ〜おいしそうだなぁ」
変な思考に陥らないように黙々とカーナを食べ始めた。
地球の果物で味を表現するとしたら食感がりんごで味は桃ってところだろう。変な感じ。
「でもこれって…間接キスですね?」
おれは激しく咳き込んだ。
コンラッドはおれの背中をさすってくれたけど…コイツ絶対カーナ渡した瞬間からおれの反応見て楽しんでいたんだ!!
「コンラッドって悪趣味」
意趣返しでコンラッドに涙目で睨んだ。
「そうですか?自分では結構いい趣味していると思うんですが」
「どこがだよ!!」
「今、キスしたらユーリはカーナ味ですね」
は!?なんかとっても嫌な予感がするんですけど…
「少し分けてもらえますか?」
やっぱし!!
「お断りします」
「まあ、そう言わずに」
なんかコンラッドさんが物凄い笑顔で近づいてくるんですけど。
明日のシンニチが目に浮かぶ…アオリ文は『魔王陛下、お忍びで熱愛発覚。御相手は婚約者の兄!?』
やめてやめてコンラッド。
肩を掴まないで。公衆の面前で破廉恥な行為は禁止です〜!
おれの抵抗も虚しく…というか抵抗して勝った記憶も無いけど。
とにかく昼間の城下でたっぷり10秒のディープキス。
「ってやめろって!!あんたって最低」
パシッ
思わずコンラッドを殴る。周りでは、野次馬が集まる始末。
「おーっーー!」「きゃっー」とか理解不明な歓声まで聞こえてくる。
確かに真昼間からホモカップルがキス&痴話喧嘩してたら目立つだろうけど、ここは恋愛自由主義の国だし、おれは変装してるしそんな騒ぎになることでは…
「求婚成立ですね!」
超爽やかな笑顔でコンラッドは言いやがった。
やられた!!一回目の失敗で懲りていたハズなのにぃ学習能力の無い脳みそを心から恨んだ。
おれが目を白黒していると、周りから一斉に拍手がおれとコンラッドに送られた。
「ちょちょっとコンラッド〜待てってあれは物の弾みで…」
「ヴォルフのときと違って、相手の左頬を平手で打つのは求婚の行為だってわかっていたでしょう」
「そうだけどさ〜一応おれ一人自称婚約者抱えてる身だし」
「大丈夫ですよ、そう真剣に考えなくても。周りには俺達はただのカップルに見えてるんですから」
ただのカップル。そう普通の恋人同士なら素直に喜べたのかもしれない。
でも今はおれは肩書きのない普通の高校生の渋谷有利だし、コンラッドだって普通の恋人だ。
ならいいんじゃないの?今日くらいは…。
「みなさーん。おれたち結婚しまーす」
おれはコンラッドの手を握り、野次馬に来ていた人々に明るく手を振った。
「ユーリはこれでいいんですか?」
「いいんです。あんたはおれの恋人だろ!」
「そうですね」
コンラッドは嬉しそうに目を細めた。
みんなから送られたお祝いの言葉。本当に結婚したくなるのが不思議だ。
結婚なんて自分にはとても遠いものに感じたけれど、しあわせなんだ。とてもしあわせな気分になれたんだ。
そうか結婚ってしあわせの集まりだから、嬉しく清らかなになれるんだ。みんなの歓声を漠然と聞きながらそんなことを思った。
するとコンラッドがおれの手を取りいきなりひざまづいた。ギャラリーがより一層はやし立てる。
「今はまだ無理かもしれないけど、いつかこの指に指輪を贈ってもいいですか?」
コンラッドはおれの左手の薬指に口付けした。
この世界でおれとコンラッドだけがわかる左手の薬指の意味。
永遠の愛の約束を…。
「エンゲージリング、待ってるから」
この指にはめる日が来るまで
おれが魔王として一人前になるまで
頑張るから。
それからおれたちはもう一回公衆の面前でキスをした。
とてもしあわせでした。
End
加護満茄様からのリクエストでした。
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