――誰も、人がいなくなった果ての、ある場所で。 彼らが記録していた“本”を、彼は読んでいた。 「誰もいないわね」 「ああ」 それが自然というように、彼女は彼の背にもたれた。 「次は、わたしは変わるかもしれない。人が死滅した先の、新しいなにかに」 「それでも人が残したものが消えるまで、おれは君を、記録し続けるよ。全てが忘れ去られるまで。人が残した記録が、世界に忘れ去られる瞬間まで」 アイの告白のような囁きは、儚く。 風に紛れた微笑。 二人は人が死に至った理由をあえて知ろうとはしなかった。 必要は、なかった。 人ではない彼らの関心は――世界の忘却の先にある、新たな未来。聖域。 繰り返した先の絶滅は、繰り返した先に新たな道を、未知を、紡ぐ。 そう信じるのは、人の愚かさを受け継いだ故に。感じ、知っていた。 「巻き戻る?」 「さぁ。人は結局、人の未知以上を知ることはないから、わからない」 「なら」 「うん」 「また朝が来て夜がくるまで……」 「いいよ」 トップページ [グループ][ナビ] [HPリング] [管理] |