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自分が朝から浮き足立っていた事を指摘され、鉢屋は赤い顔でそれを否定した。
が、相手の方がどうやら一歩上手だったみたいで、それ以上を隠す事はできなかった。


寒い廊下が、若干火照った身体には心地良い。寒がりな筈の彼には、珍しい事だ。



「…雷蔵め」


どうやってもかなわないその相手は、幼なじみのそれだった。
昔から、そうだ。

ぽそりと呟いた口をマフラーで隠すと、まだ少し熱い顔をゆっくりと上げた。




『…三郎、今日何だか嬉しそうだね』
『……え…、いや、普通だけど』
『…そう?…ん〜…、あ、わかった!竹谷さんとデート…んむっ…』
『わあああっ』



包み隠そうともせずに言うものだから、正直焦った。
そこが彼らしい所でもあり、いい所でもあって悪い所でもある。

無論、鉢屋はそんな彼をとても気に入ってはいたのだけれど…。



『ふふ、三郎はわかりやすいなぁ。かわいい』


そんな事を彼に対して言えるのは、きっと、雷蔵と、今から会う相手だけだろう。






待ち合わせの場所は、学校から少し離れた先の、小さな交差点だった。
確かあそこには、小さな郵便ポストと、古びた喫茶店があった筈だ。いつもの帰る道とは逆の方向なので、鉢屋自身あまり詳しくない。
だが、自然と向かうその足取りは軽い。
なかなか素直になれない自分に、今の気持ちを認める事は少し難しいけれど…。

それを、抑え切る事もできそうにない。



鉢屋は、再び熱くなった顔を、マフラーでソッと隠した。






「……あ」


見えた、待ち合わせ先の交差点。
真っ赤なポストと、古びた喫茶店。二つとも、思った通りの場所に存在していた。


そして、一台の車。



それが目に映った瞬間、心臓が大きく一つ、揺れた。

たったそれだけで、もう、こんなにも心臓が煩く鳴り響くのだ。


「…っ」

きっと今、自分の顔は真っ赤に違いない。寒い筈なのに、さっきからそれを全く感じないのだから。

しかし、火照りを抑える間も与えてもらえず、向こうがいち早くこちらに気付いてしまった。
鉢屋は、何とか平然を装うと、普通の素振りで彼に応えた。



「…おかえり、三郎」
「…ん」
「寒かっただろ…。早く乗れ、顔真っ赤だ」


運転席から顔を出す彼に、優しくそう言われ、顔が赤いのを寒さのせいにして鉢屋はぐるりと回って助手席へと乗り込んだ。


やたらと辺りに可愛らしいマスコット人形が置いてのは、そこが所謂、鉢屋しか座る事の許されない場所でもあるからだ。
助手席は、一種の鉢屋の世界らしきものが出来上がっていた。



「……あったか…」
「…だろ、今日は寒いからずっと暖めてた」
「……待った?」
「いや、大して待ってないよ」


暖かい車内に、優しいいつもの彼の声。それは、鉢屋を酷く居心地の良い気分にさせた。

隣に置いた手に、気がついたら大きな手が重なっていて。そこから一気に、身体中へと彼の温もりが伝わっていった。



「大丈夫か?暖かくなった?」
「……、なってきた」



じゃあ、と。

笑顔の竹谷は、正面を向いてハンドルを握った。
その仕草一つにも、心臓は煩いぐらいに鳴り続ける。

今日は、さっき雷蔵が言っていた通り、所謂デートの約束をしていたのだ。

たまには、放課後デートもいいな、何て彼が言い出すものだから聞いてみれば、制服姿のお前とデートがしたい、と、真顔で言われてしまった。

相手の竹谷は、今は大学四年生。そして鉢屋は、現役高校生と、歳の差カップルと言うやつだ。
付き合って早三年目。中学卒業と同時に家を出た彼が、後に竹谷と出会い、ならばと二人で暮らし始めてからもうだいぶ経つ。


制服姿だって、それこそ毎日のように見ているだろうに…。



『一緒に歩きたいんだって』


そう言われては、断る理由もなくて、鉢屋は別に構わないと約束をしたのだ。




「…どこ行くか」
「…決めてねぇの?」
「ん〜…色々考えたんだけどさぁ…、三郎とだったらどこでもいいなって思ってさ」


だから、ノープラン。

どうやら、本当にそうらしい。
元々特に行きたい場所を持ち合わせていない鉢屋にとっては、ならばいっそ帰ると言う選択も有りだ。


しかし、それを言って、頭を軽く小突かれた。


「…何の為の今日だよ」
「……だって寒いし」
「……ったくお前は…本当に若者か」


唇を尖らす彼は、まだまだ現役の高校生だと言うのに…どうにもあまりそれを感じさせない気がする。

最早こうなっては、埒があかない。



「…よし、じゃあ、港の方まで行こうか」

今日は天気も良いから、きっと夕日に染まった綺麗な海が見れるだろう。

そう話す彼が、何だかいつも以上に大人に見えて。
頷きながら、必死に窓の外を眺めて落ち着かない心を紛らわせた。











「…三郎、悪かったって」
「……」
「……それとも、嫌だった?」

「………別に」


少し先を歩く三郎が、どういう顔をしているのかはわからなかったが、耳が赤くなっているから嫌がってはいないようだ。

早歩きで隣に並び、覗き込んでもう一度、ごめんな?

すると、彼は照れてまた逃げるように先を行く。
まるで、ちょっとした追いかけっこのようだ。






ほんの少し前、信号で車が停車した時の事だった。

ボーっと外を眺めていたら、運転席から名を呼ばれたので、何も思わずにゆっくりと振り返ったのだ。
彼の運転はいつも心地良い揺れを与えてくれたので、半分か意識は飛んでいた。


しかし、伸びてきた腕が意識事引き起こすようにして、彼に引き寄せられた瞬間


「……んっ」


唇が、少し強引に重なっていた。


突然の事で頭が回らなくて、抵抗しようにもできなくて、ただされるがままにたった数十秒の出来事を味わった。


「……ん…っ」
「…三郎」


名を囁き、重なり合う唇と唇。そして、伝わる熱。

前にも後ろにも、周りには沢山の車や人が行き交っていると言うのに…、抵抗できない。



いや、きっと、しようとしていなかったのだ。







「……外ですんなバカ」
「…でも、車の中だったじゃん」
「…でもっ、誰かが見てたかもしんねぇだろ!」

そう言う彼も、それを受け入れてしまっていたのだから、これ以上は文句も言えない。
しかし、隠す必要のある関係上、酷く臆病になってしまうのは仕方のない事だ。

竹谷も、勿論それを理解している。



「…ごめん。…でもさ、三郎が好きだから我慢できなくなって」
「……バカ八」
「…ははっ」


隣に並んだと思ったら、逃げない変わりに、きゅ‥と服の裾を掴む冷たい手。
嫌ではない事ぐらい、彼の仕草一つですぐにわかる。


本当に、何だってこんなにも、可愛いのか…。


今すぐにでも抱き締めて、口付けをして、そして身体中に痕を残して…




ああ、やばい。
疼く身体に、気が付いてしまった。




「……やば…」
「……何?」


柔らかい、茶色に染まった髪とか。寒さで赤くなった頬や鼻先とか。
こちらを見上げる、大きなつり目とか。

もう、あげたら切りがない彼の一つ一つを、一秒も絶えずに欲している。

竹谷は、思わず込み上げる気持ちを隠すように、鉢屋から顔を反らした。



「……八?」
「……っ」

「……真っ赤だけど」


言われなくても、わかっている。
だって、こんなにも顔が、身体中が、熱いのだから。



「…お前、何考えてんだよ」
「……三郎の事」

「……エロおやじ」
「……仕方ねぇだろ」




恥ずかしい奴め、と。

そうして見合わせたお互いの顔が赤いのは、きっと、茜色の空のせいなのだ。



人の居ない、冬の夕方の港はそれはもう、見事な夕日に染まっていたのだから…。














≫大学生×高校生竹鉢もえっ^q^
そして、のっさんが絵描いてくれた!!!車内チッス車内チッスって連呼したら本当に描いてくれたよ/////神か、知ってた^^
なにこれもえる^q^ヤバいしぬ
ありがとう大好きありがとう








あきゅろす。
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