余りにも寒がりな、彼の為に。決して広くはないこの部屋に、炬燵を取り入れたのが丁度去年の今頃だった気がする。 その通り、寒がりな彼は、暇さえあればずっと炬燵に入って暖をとっていた。 そのせいで、居眠りをした挙げ句、風邪をひいてしまった彼に説教をした事もあったっけ。 と、目の前で今にも眠り出しそうな鉢屋を眺めながら、竹谷は苦笑を漏らした。 「……寒い」 その日、気温はいつも以上に低く。朝から、一向に部屋が暖まらない。 また、今年もこの季節がやってきた。 そして鉢屋の機嫌も、朝から一向に良くならない。 「……うぅ…うぅ゛〜‥」 人一人居ないだけでこうも違うのだと、鉢屋は同棲相手を思い浮かべて不機嫌さを露わにさせた。 思い返してみれば、寒がりの自分にとっては最高の暖なのだ。 『俺の役割って、そんだけ?』 何時だったか、そんな事を彼は言っていた気がする。が、それは全くの間違いであって、それが、常に好きな相手にくっ付いて居られる理由にもなる事を、意外にもその時の竹谷は気付いていなかったようだ。 勿論、口になんて、鉢屋がする訳もないけれど。 「ただいま〜」 時刻は、丁度昼を過ぎた頃。 そう距離もない玄関から、帰宅を知らせる呑気な声が聞こえてきた。 相変わらず、鉢屋の表情には不機嫌さが見え隠れしている。 「……おかえりー」 わざと聞こえない声量で、ぼそりとそう呟いて身体を更に炬燵布団へと沈めた。 確かに、暖かい。…のだが、どうにも何かがまだ足りない。そんな気がする。 「…お、ただいま三郎」 「……ん」 「ははっ、また朝からずっとそこに居たのか?」 何かを買ってきたらしい、近場のスーパーの袋をガサガサと音させながら後ろを通る竹谷が笑う。 通った際に背後に吹き抜けた一瞬の風が、外の冷たさを物語っていた。 鉢屋は、身体をきゅ‥と縮こませた。 「…今日はほんと冷えるよな〜」 「……外、寒い?」 「…ん?…ああ、すげぇ寒いよ。三郎には耐えられない寒さだ」 ははっ、とまた笑って、買ってきたものを冷蔵庫に運ぶ彼の手は、確かに指先が赤くなっていた。 何気なくその光景を眺めながら、今夜は昨晩以上に冷えるよなぁ‥と、それだけで嫌になる自分はやはり相当の寒がりなのだろう。 だが、決して冬が嫌いな訳ではない。 「…よし、…三郎ちゃんと昼飯食ったか?」 「…んー、うどん食った」 「…やっぱり。…俺もだ」 こんな寒い日には、考える事も実に一緒だ。 笑いながら、竹谷も炬燵へと歩み寄ってくる。 「俺も暖まろ〜っと」 そうして、炬燵布団を捲って、そして、彼の視線に気付いた竹谷はその手を止めた。 じぃ‥と、何かを言いたそうなその目は、確かに何かを訴えていた。 が、口には絶対にしないのが鉢屋だ。 しかし、それでもそれを理解してしまうのが、竹谷なのだ。 「…やっぱり」 触れた先の、その髪の冷たさに竹谷は眉を寄せた。 こんなにも冷える今日だ。人一倍冷え性な鉢屋には、辛いとしか言えないのだろう。 部屋の暖かさでは、中々解消されない。 わしゃわしゃと髪を撫でて炬燵布団を元に直すと、竹谷はその彼の意図を理解して背後に回った。 「…よいしょっ‥と」 そうして座り込んだ彼は、縮こまる鉢屋の身体を背後からぎゅう‥と抱き締めて、自分も炬燵に入った。 元々竹谷は、この寒さにも強い。それもそうだ。 この炬燵だって、結局は鉢屋の為に買ったのだから。 そのせいで、ここが生活の中心になりつつある事には余り宜しく思わないが、気には入ってくれたので良かったと思う。 「…背中全然暖まってないじゃん、三郎」 「……お留守だったんだから、仕方ないだろ」 「…お留守?」 何が?と、そう普通に問い掛けてこられると、嫌でも体温が上昇しそうだ。 背中を暖めてくれる、相手が。とは、結構鈍感な彼には気付けない事なのだろう。 「…何でもねぇ」 「…何だよ…、気になるじゃん」 背中全体から身体中に広がる、彼の体温。 さっきまでのは何処へやら、鉢屋の身体は瞬く間に暖かく、力が抜けていった。 「…おお、暖まってきたな」 「…ん」 「…何、眠い?」 「……ん〜‥、ちょっと」 「ははっ、そうか…」 そうして、彼の頬へと口付けを一つ。 その頬にも、温もりは伝わっていた。 そして急激に襲ってきた眠気。 何時もなら、照れて怒るくせに…。 この季節には、彼を素直にさせるのも苦労せずに済みそうだ。 「…ほんと、お前、俺が居ないと駄目だよな」 半分寝掛けの鉢屋には、十分には届かなかったかもしれない。 が、竹谷の表情には、それはもう、幸せの文字しか浮かんでいなかった。 こんな寒い日には、こうやって二人くっついて過ごすのが、やっぱり一番だ。 ≫ずっとベッドの中で暖を取ってたら浮かんだ定番ネタでした^^竹谷はほんと暖かいと思う…! |