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至近距離で見て初めて、彼の目が割と茶色いのだと気付く。目つきが悪いと本人はよく言われるらしいが、よく見てみると以外と黒目の部分が大きい。
ジッ‥と見上げてくるそれを、自分は可愛いとすら思ってしまう。

まぁ、惚れた弱みと言うやつだろう。


額を付け合わせて嬉しそうに笑うと、不満そうな両目が影を作ってこちらを見上げた。
若干の背丈や体格の差によって、どうしても竹谷を見上げる形になってしまう。腕に抱き込まれ、何だかその体制が酷く恥ずかしくて、くすぐったい。
よく、自分が耐えられるようになったものだと誉めてやりたくなる。


付き合いたての頃なんて、手を繋ぎ合わせる事すら拒む事もあったのだから。




「…何だよ、その締まりのない顔」
「…ん?…いや、三郎の目ってさ、茶色いなぁって」
「……今更じゃん」
「…はは、まぁな」


勿論、知っていた。瞳の色も、動きも、癖も。
きっと今、彼の知らない部分はないと、胸を張って言えてしまうぐらいに。
もうずっと、ずっとずっと見てきているのだから。




「…っ…ん‥」
「……あ、甘い。ケーキ残り食っただろ」
「……悪いか」
「…甘党め」

不意打ちに口付けをすると、少し表情が不機嫌そうになる。
でも、決してそうなったからではない。
それは、所謂、恥ずかしいからなのだ。


そんな彼の不器用さが、可愛いと心の底から思ってしまう自分はやっぱり相当…惚れてしまっているのだろう。




「…でも、三郎の唇の方がずっと甘いな」
「……、八、甘党じゃないじゃん」
「…ん?…ココは、別」


人差し指で、ちょんちょんとそこをつついて笑う。
つつかれた唇は、不満そうに膨みを見せて、そしてその指先をパクリと加えた。

じゃれつくようなそれは、その通り、甘えている証拠だ。竹谷は、気にする事なくまた笑った。

日頃の鉢屋しか知らない人間がこの光景を見たら、間違いなく驚くだろう。
あの、他人を中々許さない彼が、今、こんなにも無防備に甘えているのだと。


最も、鉢屋が心から許す相手はたった一人、竹谷以外の誰でもない。


彼、だけなのだ。





「…こら、放せ」
「……いやら」
「…ぷっ、‥この甘えた」


もう、何だってこんなにも可愛いのだろう。
たまらず、前髪の隙間から覗く額に、頬に、口付けをした。


徐々に赤くなる一方で、決して拒絶されなくなったのは、この長く共にした時間が与えてくれた自分だけの特権。
決して変わらず想いを伝え続けたからこそ、こうして今を共にしているのだ。



喧嘩もした。
一度は、別れすらもした。

沢山悩んで、沢山泣いて。
まるで、その事しか考えられない一途な子供のように。


それでも、心はずっとお互いを想い続けていた。
愛おしくて、愛おしくて、もうどうにかなってしまいそうなぐらいに…愛していた。


再び一緒になれる日を、あてもなく願って…。






「……放さないと、食っちゃうぞ」
「……、…好きにすれば」

「……離してやらないぞ」

「………いい。……離さなくて…、いい」



そこに、それ以外のものは何もない。もう、離さなくていい、離さないでと。

ただそれだけを、望む。




空白だった時間を、その何倍もの時間で埋めて…。


愛して

もう、絶対に離さないで。






「…今夜は、寝かさないぜ?」
「……ぷっはは、何だよその決め台詞。…今夜も、だろ」
「…うるせ、…でも、好きだろ?」

「……、ん、…そんな、アホなとこも…な」



組み敷いた先の彼が、影の中で、そう小さく笑った。


だから


何を、と、弧を描く唇にソッと噛みついてやった。







≫8388fes様に投稿させて頂いた、竹鉢でした^^







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