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「また、来いよ」



人が行き交う騒がしいホームの端で、見えないようにして手を握る。
俯いたまま、なかなか顔を上げてくれない彼に竹谷は困ったように笑った。

もうすぐ、別れが迫っていると言うのに…俯く彼は笑ってくれそうにない。


あと、10分
乗る予定の新幹線の案内が、ホームに響いた。

あと10分後には、この手を、離さなくてはならない。
遠い地に住む鉢屋が、帰省してしまうのだ。
休みを利用し、恋人である竹谷に会いに来たのが三日前。長いようで、たったの三日間。
どこかへ行く訳でもなければ、何か特別な事をする訳でもない。ずっと、ただ側にいた。
一緒に起きて、一緒に寝て…いっぱい口付けを交わして、沢山抱き合って。


何度も、愛してると囁いた。



でも、何だかそれが全部、今はまるで夢のよう…。



だって、もう…






握る手に、グッと力が籠もった。


あと、5分…
鉢屋の乗る新幹線が、ホームに入ってきた。

竹谷は、同じようにして握り返す。


永遠の別れでもなければ、会えない距離な訳でもない。声だって、いつでも聴ける。


それでも…




「…三郎」
「……」
「…なぁ、三郎。顔、見せろ」


もう、タイムリミットだ。
俯く彼の顔を、無理矢理上げさせる。


やはり、予想通りだった。いつも、辛い時はこんな顔をするのだから。


泣きたいけど、泣けない。
否、彼の場合ならば、泣いてなんかやらない、が、正しいのかもしれない。




「…こんな時ぐらい、泣けばいいのに」
「…っ、泣くか」
「…はは、ったく…」



ま、それでも、今のお前の心の中は大泣きしているのだろう。

昨晩の情事の後、涙を流して名を囁いた彼が、ずっと脳裏に焼き付いて離れない。

やはり、寂しい思いをさせていたのだと…


彼もまた、自分と同じようにそう思ってくれているのだと…






「…ほら、もうすぐ出発するぞ」
「……」
「…三郎」


あと、3分

わかっている。
明日からまた、いつもの日常に戻るのだ。
朝起きて、仕事に出掛けて、帰宅して、寝て…。


そう、いつもと何も変わらない






ただ、彼が…最愛の彼が、隣に居ないだけで










「…は…ち」
「…ん?」
「……」
「…三郎?…どうした?」







そして

自分でも、驚いたんだ




こんな事を口にしてしまう程…






そんな日常に、自分がどれだけ…








「…っ、……な‥い」

「…え?」






どれだけ…








「……っ、離れ…たく…な…い」








寂しい思いを、しているのかと…












弾かれたようにして引き寄せた鉢屋に、気付いたら夢中で口付けをしていた。

ここが、人の行き交うホームであると言う事を忘れていた訳ではない。
ただ、そんな事を気にしては居られなかったのだ。



「……ん、ン…っ」
「…さぶ…ろ」


何度も何度も、それを味わう。
いつもならば、必ず抵抗する鉢屋すらも、今はそんな気分にはなれなかった。



離れたくない…
もっと、ずっと、側に居たい…

素直に気持ちをぶつけてくれた彼に、どうしようもない愛おしさが募る。


離したくない。




でも、世の中は、そう優しくはできていない。
彼らがいくら願っても、お互いの知らない時間がある。その中で、明日からも生きていかなければならない。
離れたくないと、何百回言ったとしてもそれは叶わないのだと…痛い程理解していた。


でも、それは止められなかった。





唇を離すと、鉢屋の瞳から一滴だけ、涙が零れた。
それをソッと、唇で掬う。
しょっぱい味が、口の中に広がった。



「…もらい」
「……な‥に…」
「……ん?…いや、三郎の涙…、貰ったって」


そう、言ったんだ。




「…三郎、絶対泣かないだろう?……俺の前でしか」


だから、三郎の涙は、俺のものだ。




そう言ってもう一度、深く口付けを交わした。

恥ずかしい事をさらっと言う彼に、言ってやりたい事はいくらでもあった。
でも、今はそれも全てが嬉しくて…愛おしくて…。


ただ、幸せだと素直に思う事しかできなかった。





「…っ、当たり前…だろ‥っ」



俺は、誰の為にも泣かない

…お前の、為にしか…泣いてやらない




だから…






「…は‥ち」





この、死んでしまいそうな程の寂しさを…







「………あ…い‥…して…る」






絶対に、忘れるな









≫新幹線の中で思いついたネタでした(笑)
涙腺崩壊すると三郎は素直になると思います////








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