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夕食を終え、ちょっと一息。
他愛ない会話に区切りをつけて、大して面白くもないテレビ番組を、肘をついて眺める。
同じように、彼もまた、面白くなさそうな表情をさせている。


つけているだけ、無駄な気がした。


「…消していい?」

前に座る竹谷が、ゆっくりと立ち上がった。
既に手には、リモコンを持っている。


「…んー、いい」


プツンと切れたブラウン管を見送って、伸びを一つ。


テーブルを見渡せば、食器類はまだ広がったままだ。



一体、いつからだっただろうか。こちらが何かを言わなくても、カチャカチャと食器を片付け始めるようになったのは。特に強制している訳でもなく、頼んだ覚えもないのにいつの間にか少しずつ家事の分担ができていた。
料理を作るのは、鉢屋の役目。そして、片付けは竹谷の役目。

しかし、洗い物はやっぱり鉢屋の役目なのだ。




『…お前は台所に入るな』


その一言を浴びせた日から、だった。確か。





「今日もご馳走さん」
「おー」


自分の料理で満足してくれている事ぐらい、彼の顔を見ればすぐにわかる。


そして毎朝、今日の夕食は何だと聞いてくるのだ。



『…まだ決めてねぇ』
『じゃあさ、昨日言ってた、あれがいい』
『……んー…考えとく』


しかし、彼は、考えるまでもなく、今晩の夕食を必ず頼んだ通りのものにしてくれる。
それを、竹谷は良く知っていた。何だかんだと、いつもそうだ。


これは、自惚れではなく。
自分は、愛されているんだなぁと思う。







「…三郎ー、風呂、どうする?」
「…んー…、入るか」

顔を覗かせた竹谷の背後にあった時計を確認し、頷く。

これも、分担されている役割なのだ。

風呂焚きは、竹谷の仕事。
こうやって片付けをしている間に、風呂の準備をしてくれている。
遠くから聴こえてくる毎度下手くそな鼻歌を、密かに笑ってやるのが楽しみなのだ。


「ぷっ…、へたくそ」

「…よし、準備できたぜー。…ん?何笑ってんだ?」
「…別に」


えー、何だよぉと、引っ付いてくるデカい身体を気にせず笑う。まるでこれは、大型犬のようだ。

彼は、この通り、スキンシップがとても激しい。
こんな風に、じゃれつくのはいつもの事。頬や額に、何度も口付けを繰り返すのも、いつもの事だ。


「…はっ、くすぐってぇって」
「…人を笑った罰だ」
「っ…こら、…やめないと、風呂、一緒に入ってやんねぇぞ」


そう言ってやれば、ピタ‥と面白いぐらいに言うことを聞く。
鉢屋は、竹谷の弱点など、全てお見通しなのだから。


「…ほら、もう終わるから。…いい子で、な」

お返しだ、と言うように、竹谷の頬に口付けを一つおくった。
そうすれば、一瞬呆けた後、本当に嬉しそうに笑うのだ。



「……っ…あほ…」

瞬間、胸がきゅ‥と熱くなるのを感じた。






二人で風呂に入るのも、今や日課になっている。脱ぐのも、裸を見せるのも、今は恥ずかしくない。

それどころか、スキンシップが尚激しくなるのはどういう事なのか…。



「…っ、こらっ、…入る前から…!」
「…んー、何か、今日は風呂でな気分…」
「っはぁ!?…ちょっ、…まっ、‥ン…!」


こうやって、行為になだれ込むのもよくある事。
毎晩している訳ではないが、割と頻繁に躯を重ねている。



首筋から鎖骨へと、唇が滑るだけで、全身の毛穴が開くようだ。
感じ易い類に入るらしい鉢屋には、そう簡単には慣れるものでもないこの行為。


しかし、堪らなく、込み上げてくるこの感情には逆らえない。

相手が、彼だからこそ。
こんな気持ちが生まれるのだろう。



「…、ったく…」
「…おっ?何、やる気になった?」

「……‥も、煩い…」


既に熱を持ってしまった躯をコントロールする事は難しい。
鉢屋は、熱に浮かされるまま、後ろを振り返って竹谷の唇に噛み付いた。



「……、満足、…させろよ‥」



この躯、もう、お前にしか感じないのだから…。










ガシガシと髪を洗う竹谷を、湯船に浸かりながら眺める。
心地良い湯と、曇る視界に次第に瞼が重っていく。


「…八ー」
「…んぁ?」
「……俺の髪も……洗って」

もう自分で洗う気力も湧かないぐらいに、眠気が襲ってきた。


「……絶対お前、寝る気だろ」
「…んー…」

「……ったく」

わしわしと濡れた髪を撫でて、竹谷は小さく笑った。

いつもは、労りのない洗い方に散々と文句を飛ばすくせに、と…






―――…


『…ふっ‥ぁ…!』
『…っ、さぶ…ろ‥』
『…、もっ‥は‥ち』

『……イ‥くっ…、さぶろ』


『…ひぁっ‥ぁ、早‥く!…っ俺の‥ナカに…っ』







「…ま、無理をさせたのはこっちか」


ついつい、先程の情景を思い出すと、口元が緩むのを抑えられない。
再び躯が熱を持ってしまった事に、竹谷は苦笑を漏らした。



しかしそれも、まぁ、仕方のない事だ。




だって…。









「…あっ、こら、三郎、寝るなよまだ」



どうしようもなくこいつを、愛しいと思ってしまうのだから。






竹谷は、瞼を閉じる三郎に、そう、急いで声をかけた。







≫結局竹鉢もラブラブにしかできません私には…!(笑)







あきゅろす。
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