鉢屋は、得意とするものが結構多い。 人からすると、意外に思われるその性格は案外几帳面だったりする。 細かい事にも割とこだわり、そして、やはり手先が器用なのは自慢の一つだ。 「…ふぁ〜‥い…、はよ」 「……もう起きたのか?」 「ん〜…、いい匂い」 もそもそと食卓に現れた竹谷は、鉢屋の背後から眠たそうに全身を彼に預けた。 抱きしめても、さも慣れた事のように気にしないのは、最近になってやっとの事だ。 何度か鉄拳を食らった事も、今となってはいい思い出になりつつある。 「…お前、遅かったんだろ?だったら寝てりゃいいのに」 「……あれ〜、何、…起きる理由言わせたい訳?三郎クン」 肩に顎を乗せ、抱きしめて、こんな朝のだらだらとした時間が好きだ。 「わかってるくせに〜、三郎カワイイ」 「……八の朝食抜き、と」 「あああごめんなさい…!…三郎の飯、食いたいです」 朝を、この彼の朝食で満たさなければ一日は始まらない。この食卓を見て、まさか男二人だけの生活だとは誰も思わないだろう。 それぐらいに、鉢屋の手料理にはバラエティがあるのだ。 「…ったく…、ほら、いつまでもくっついてねーで飯運べ」 「おう」 朝のもう一つの挨拶代わりを彼の頬にちゅっ、と送り、言われた通りに出来上がりを運び始めた。 昔は、朝っぱらからこんな凝ったものなど喉すら通らなかったのに、鉢屋と暮らすようになってからの日々は、これが一日の始まりとなっていた。 愛のこもった生活とは、人を良い方向にも変えてくれるものだと竹谷は日々実感する。 手を合わせて、いただきます。 こんな事も、彼がそこに居てこそ、大切な事なんだと教えてもらえた気がする。 他愛ない会話と、二人で迎える朝食の時間。さり気なく、味を自分好みにまで考えてくれているその気遣いには、噛み締める毎に有り難みを感じる程だ。 「…やっぱ、三郎の飯が一番だな」 空になった皿を眺め、鉢屋は嬉しそうに小さく笑った。 「…今日、何時?」 「…んー、わかんね。ちょい遅くなるかも」 そっか、と、靴をはく鉢屋の後ろ姿を、半分抱き締めたい気持ちで見つめる。 毎日一緒に、とは言っても、働いている以上は顔を合わせない夜を迎える事も多い。 「……よっ…と、…じゃ、行ってくる」 「…おう、…よしよし、今日も格好いいぜ、カリスマ美容師様」 「……カリスマって…、あほ」 上から下まで、完璧な彼を、竹谷は誇らしげに笑う。 どちらからともなく、目を合わせ、顔を近づけて、一つ、二つと唇を重ねた。 これが、お互いの一日の活力となる。 馬鹿みたいに、やる気が湧くのだ。 「……ン…」 「…、よし、頑張ってこい」 「…おう」 そして、最後にもう一つ。 こうやって、朝の時間は過ぎていく。 「……今日、やっぱ早く帰ってくる」 「……あぁ、待ってる」 そう言葉を交わして、笑い合って 開いた玄関の先の、広がる空は、今日も雲一つない晴天だった。 さぁ、今日も一日 頑張るか ≫どこのラブラブな新婚ですかおい^^だが、いいと思う…!(笑)やっぱり自分が書くと甘甘にしかなりませんorz |