大丈夫、大丈夫だと、注意も聞かないでいた結果がこれだ。片方の頬をふっくらと腫らした久々知は、地べたに座った竹谷の足の間から身動き一つ出来ないでいた。 動こうにも、許して貰えない。 何故、こうなったのか…。 それも、簡単な事だ。 「…はち」 「ん?」 「…離して?」 「……どこに行くんだ」 「…トイレ」 「…じゃあ、ついて行く」 沈黙が流れた後、久々知はそれ以上何も言わず、再び竹谷の腕の中に納まった。 しょんぼりとしたその様子を、竹谷だって可哀想には思う。ここ数日元気がない事だって当然わかっていた。 しかし、だ。 それも、仕方のない事なのだ。 「…ぅ〜…」 「…我慢しろ」 イライラが続いているのも、そのせいだ。腫れた頬を更に膨らませて、抱き締めているぬいぐるみに顔を埋めた。 竹谷は、よしよしと頭を撫でてやる事しかできない。 しかし、そんな様子を見ていても、一切甘やかさないのは流石竹谷と言うべきだろう。 日頃彼女にベタ甘な本人ではあるが、ここぞと言う時は厳しくなる。しかも、彼女の身体に関わる事ならば、少しの迷いもなく駄目と言うだろう。 「…はちぃ」 「…ん?」 「……ちょっと…だけ…」 「ダーメ」 そんな、瞳を潤ませたって、駄目なものは駄目だ。 もう片方の頬も、腫らす気なのか。 「……っ…」 「あ〜あ、泣くなぁ…。仕方ないだろう?」 腫れた頬を優しく撫で、仕方なく笑う。零れ落ちそうになる涙を拭い、ちゅ‥と掠るだけの口付けを腫れに贈った。 只でさえ幼い顔が、まるで小さな子供のようで…可愛らしい。きっと、そんな事を言うと人事だと思ってと拗ねてしまうだろうが。 「治ったら、兵助の好きなあの店のケーキ、いくらでも買ってあげるから」 「……」 「ポンデとうふも」 「…ほんと?」 「あぁ、約束な」 だから、今はそれが治るまで我慢しろと、再び腕の中に抱き寄せた。 『虫歯、ですね』 歯科からの帰り道、手を繋いで一方先を歩いていた竹谷は、立ち止まった。 久々知は、元気のない表情で首を傾げる。 「…兵助」 「…ん?」 「……ケーキ、チョコレート、キャラメル、ドーナツ……今日から一切禁止…な」 「…!!」 その時ばかりは、いつも優しいあの竹谷すらも、鬼に見えたと言う。 ≫たまには豆腐以外の食べ物ネタで(笑)一度ポンデとうふ食べてみたいです^^ |