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スーパーのカートを押す竹谷の後ろから、見るもの全てを珍しそうに眺めながら久々知も彼について回る。
普通、見る光景としては、逆であるようにも思うが、彼らはこれでいいのだ。

料理上手な彼氏と、料理下手な彼女。
そんなカップルも、今の世の中ならば珍しくはないだろう。


「兵助、何食いたい?」
「……豆腐…」
「…ぶっ」

今に始まった事ではないのだが、やはり、何が食いたいと聞いて豆腐の一言はないだろう。


「ははっ、それはわかってるって。聞いてんのはメインディッシュだよ」

まさか、本当に豆腐だけでもいいと言うのか。
否、流石の久々知でもそれはないだろう。



「ん〜……じゃあ、麻婆豆腐とか」
「……」
「…?」
「…はぁ、わかったよ。…麻婆豆腐な」

やはり、彼女ならば豆腐だけでいいとも言いかねない。
竹谷は、苦笑しながらも愛する彼女の為、材料を探しに再びカートを押し始めた。







竹谷の自宅に着き、手際よく荷物を運び込んで、早速夕食の準備に取りかかった。
しかし、流石はと言うべきか、竹谷の手際の良さには関心させられるばかりだった。バイト先が定食屋ともあって、台所に立つのも慣れたものだった。

材料を並べ、後は料理を作り始めるだけだ。



「よし、じゃあ待っててな」
「……はち」
「…ん?」
「私も…手伝う」


珍しい事も、たまにはあるものだ。
何時もならば、決まってここには立ちたがらないのに。今日は、自分から進んで手伝うと言い出したのだ。
勿論、断る理由はない。
寧ろ、彼女と一緒に料理を作れるのはとても嬉しい事だ。


「…珍しいな」
「…ん、…たまには」
「そっか、じゃあおいで。一緒に作ろう」

手を差し伸べると、嬉しそうな笑顔でこちらに飛びついてくる。

実は、本当は、彼女をあまり台所には立たせたくない。
理由はただ一つ。
危なっかしくて仕方ないのだ。両親に甘やかされて育ったのだろう、何一つ器材を扱えない久々知を見ていると、竹谷は居ても立ってもいられない。
火傷しないか、指を切らないか。

初めて竹谷の為に料理を率先してくれた時も、凄く嬉しい反面危なっかしくて見ていられなかった。
それ以来、こうして一緒に夕食をとる場合は決まって竹谷が作っていた。聞けば、本当は、料理を作るのは大の苦手だそうだ。
それでも、一生懸命作ろうとしてくれる気持ちはやはり嬉しい。



「じゃあ、兵助は…豆腐、切ってくれるか?」
「わかった」
「包丁だから、気をつけてな」
「…ん」

少しばかりか強張っているようにも見えるが、とりあえずは様子を見てみる事にする。
ちらちらと横目で見守りながら、竹谷も別の作業を開始させた。



しかし


「…!へっ…兵助!」
「…う?」

エプロン姿で、不思議そうに見上げてくる姿は確かに可愛い。凄く、可愛い。…だが、包丁を片手に持つその手元は、こちらが思わず驚いてしまう程に危なっかしい。
竹谷は、急いで自分の作業を中断させた。


「おま…危ないだろこの持ち方は!」
「…こうじゃないの?」
「…あのなぁ…それに、左手も…これじゃ指切っちまうだろ」


そう言って竹谷は、久々知の後ろから抱き締めるような形で両手を重ねた。
竹谷よりもずっと低い身長や小さな手は、意図も簡単に納まってしまう。


「…左手は、こうしないと…まじで指切るから」
「…うん」
「こっちも、こう…しっかり持って」
「……ん」
「…しっかしお前……、手ぇちっさいなー」
「………」

知ってはいたが、こうして重ねてみると完全に竹谷の手に隠れてしまう。その持つ手は、余りにも頼りない。何だか、それが無性に可愛くて愛おしくて、思わずぎゅ‥と握った。


「兵助?」
「…っ」
「……ほっぺ真っ赤だぞ」
「…やっ…見ないでよっ」
「…ぷっくく」

覗き込んだ久々知の顔は、困ったように、そしてほんのりと赤く染まっていた。
見られるのが恥ずかしくてたまらないのだろう。俯いて、逃げようとする様も凄く可愛らしい。

竹谷は、我慢できずにその頬にちゅ‥と口付けを落とした。


「…可愛い」
「もうっ…はちのバカ」
「くくっ、俺はとっくに兵助バカだよ」
「……もう…」


竹谷に躯を預けるようにしてもたれ掛かる。広くて、温かい腕の中は堪らなく安心できる。
久々知も、愛おしさが一気に押し寄せてきた。


ちゅ‥と可愛らしい音をさせて、竹谷の頬に口付けを贈る。



「…兵助」
「…お返し…」
「……何かさ、これって……」
「…ん?」
「…新婚…みたいだな」


珍しく、彼も顔を真っ赤にさせている。
そして、その台詞に久々知は先程よりも顔を赤くさせた。

二人して、手を重なり合わせたままで。


「…はは、なっ…な〜んてな!」
「……はち」
「…なっ…何だ?」

「……それはまだ…、もう少し先の…話…」

「……え…」

「……////」

もう少し先、と聞いて竹谷は思わず固まった。恥ずかしさが頂点を迎えている久々知は、潤んだ大きな瞳を泳がせている。

そして今、彼の脳内で幸せの鐘が鳴り響いた気がする。

その言葉が意味する事は、つまり…


彼女もまた、将来の事を、自分と共に歩むつもりで考えてくれていると…そう言う事なのだ。

勿論自分だってそのつもりだし、今更、こんなにも愛している彼女を手離す筈もない。
それでもまだ、結婚を約束している訳ではないし、彼女がどう考えているのかも、わからない。

だからこそ、今のこの衝撃は大きかったのだ。



「…兵助、好きだ。大好きだ」
「…ん、知ってる」
「…愛してる…まじで」
「……私…も」


愛おしい気持ちは、もう止められない。ゆっくりと、唇が重なった。



間近にあるお互いの顔は、やっぱり真っ赤で。
次の瞬間、二人は一緒に笑っていた。






≫気分は最早新婚!料理が得意な竹谷とかかっこいいですよね^///^旦那にしたいキャラNo.1です(笑)






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