[携帯モード] [URL送信]





「イヤだっ…、離せ…離せ〜!」
「こらっ…暴れるな三郎!」

ジタバタと暴れる彼を何とか固定するものの、ゴツンと頭が顎を強打して竹谷は涙目でそれに耐えた。
今腕を離してしまえば、間違いなく彼はこの部屋から逃げ出してしまうだろう。
それだけは、させてはいけない。

まぁ最も、今の状態ではまた直ぐに倒れてしまうのがオチだ。



「…三郎、お願いだから言う事を聞いて?」
「…うぅ……っイヤだ!」

「おまっ…雷蔵が頼んでんだぞ!」
「イヤなものはイヤだ!!」

こうしてまた、振り出しに戻ってしまうのだ。
思わず溜め息を吐かずには居られない竹谷と雷蔵は、暴れる鉢屋を間にお互い苦笑し合った。


「…大丈夫なんだっ、…もう…」
「なぁにが大丈夫だよ、こんな…高熱で」
「…っ…」

赤くなった顔は、大声を張り上げたせいで更に赤くなってしまっている。息もまた更にあがり、今にも目を回してしまいそうな様子だった。
なるべくは大人しくしていて貰いたいのに、事態は一向に収まりそうにない。


「…駄目だよ、三郎。ちゃんとこれを飲むまでは、離さないからね」

そして、紙に包まれた何かを目にした途端、鉢屋はまた身体を強ばらせて暴れ出す。

「イヤだ!くっ…薬なんか…飲まな…く…て……も」
「おっ、おい!三郎!」

とうとう、目を回し始めた鉢屋。どうやら、熱がまた更に上がってしまったようだ。
日頃絶対に熱なんて出さない鉢屋なのだが、流石の彼にもかなわない事はあるらしい。
その上、雷蔵は知ってはいたらしいが、こんなにも薬嫌いである事を竹谷なんかは驚いていた。

何事も完璧を貫く人間にも、こんな一面はやはりあるものなんだと。



「三郎!…早く、薬飲ませないと…」
「…あぁ、俺が抑えておくから」

熱を下げる為には、保健室から貰ってきたこの薬がやはり一番効くのだ。
嫌がるのを無理に、と言うのは気が進まない。が、ここは仕方がない。

抑える腕に、力を込める。




「…っイ…ヤだ………っ」


しかし…


とうとう、ベソをかき始めてしまった鉢屋。
流石の二人も、驚いて手を止めた。

その表情は、完全に機嫌を損ねてしまっている。

まさか、彼がこんなにも感情を表に出すものとは…思わなかった。


「…大丈夫…だ、…っ寝て…れば…治るっ…」

二人は、もう一度大きな溜め息を吐いた。

これではまるで、只の子供ではないか。
しかも相手はあの、鉢屋三郎だ。

誰が、こんな姿を信じるだろうか。


しかし、だからと言って、飲ませない訳にはいかないのだ。
誰かが熱を出してしまったら、やはり、心配するのは当然であって。それが増して、大切な人ならば…だ。



どうしたらいいものか…と、苦しそうな鉢屋を間に、竹谷と雷蔵は困り果ててしまった。





「…三郎は、薬飲めないの?」


すると、その時
また別の声に気付いた二人は、驚いてそちらに視線を移した。


「…兵助!」

いつの間に、そこに居たのか。竹谷の隣にちょこんと正座して不思議そうにしているのは、同じ五年生の久々知だった。



「…まぁ、そうみたいだ」
「はは、嫌いなんだよね、三郎。…薬が」

「ふーん…」

一人、その場の空気を諸ともしないように、グッタリした鉢屋をジッと見つめる久々知。
大きな目が、不思議そうにパチパチと瞬きを繰り返す。

竹谷は、小さく笑ってそんな久々知の頭を撫でた。

「…ほら、お前も風邪移るぞ」
「…ん」

撫でられる事に抵抗一つ見せない彼は、嬉しそうにされるがままだ。
鉢屋も、これぐらい素直に抵抗しないで居てくれればどれだけ楽か…。そう思わずには居られない。



「…雷蔵、見せて、その薬」
「…え?」

撫でて貰って、ご機嫌な様子の久々知は身を乗り出し雷蔵の手にしている薬を覗き込んだ。
ジッと見つめる様子に、雷蔵も首を傾げながらそれを差し出す。


すると、久々知が突然
嬉しそうに笑った。
何に対してそのように笑ったのかは、勿論雷蔵にも竹谷にもわからない。


そして、そのまま、グッタリとしている鉢屋に近寄って、ソッ‥と耳打ちをした。



「……うそ…だ」
「ほんとだよ!絶対大丈夫!」
「……」
「……三郎は…信じて…くれないのか…?」

少し寂しそうに、訴えかける久々知。
思わず、鉢屋だけではなく、竹谷や雷蔵までがその表情に心を打たれてしまった。

こう、思わずよしよしとしたくなるような…。



「……わかっ…た」
「…えっ、…飲んでくれるの?三郎」
「…ん」
「…そうか!何かよくわかんねぇけど…偉いぞ、三郎」

久々知が鉢屋に何を言ったのか、検討もつかない。が、これで漸く収まりそうだ。

そして、何とも言えない嫌そうな表情を浮かべながら、鉢屋はぎゅっと目を瞑ってその粉薬を口に流し込んだ。

まさか、たかが薬を飲ませる事でこんなにも体力を使うとは思わなかった。




「……!」
「なっ?…ほんとだっただろ!?」
「…本…当だ」

全てを水で流し込み、その、後味の良さに鉢屋は驚いた。
やってくると思っていた苦味は全くなく、寧ろ心地いい味が口の中に広がった。


「……何か…蜜柑の…ような」
「…蜜柑?」
「…蜜柑の味がしたのか?」

コクリと頷く鉢屋に、二人も、紙に付いているそれを舐めて確かめてみる。

「…あ、本当だ」
「結構…美味い」

「だろ!?新野先生が出してくれる薬は、いつも甘くて美味しいんだ!」

凄いよなっ!等と、嬉しそうに話す久々知も実は大の薬嫌いなのだ。


そういえば、苦労して飲ませた事があったけな…と、竹谷は小さく笑う。

しかし、ある時からは、飲めるようになったのをずっと疑問に思っていたのだ。
なる程な…と、竹谷は一人納得をする。

やはり、流石は新野先生だ。




嬉しそうな久々知につられて、横になる鉢屋も小さく笑い返していた。



これで暫く寝ていれば、きっと、熱は下がるだろう。
何て言ったって、我々はまだまだ体力有り余る子供なのだから。




そしてまた、数日後には、あの
いつもの憎たらしい鉢屋三郎が復活しているのだ。







≫子供すぎた三郎(笑)何かこんな五年生可愛いなと思ったネタでした^^またもやベタすぎますね///







あきゅろす。
無料HPエムペ!