目の前を横切って行った同じ学生を、目で追う。
顔は、まぁいい。右の子の方は多少足が太いが、それなりに二人とも可愛い子だ。
鉢屋は、さして興味がある訳ではなかったが心中でそんな事を考えていた。
そしてそのまま視線を左に移して、溜め息を吐いた。
「…おい」
「…ん?」
「…お前さぁ、ちょっとは興味とかない訳?」
「……何が?」
隣に立つ竹谷はと言うと、そんな鉢屋とは逆で、通り過ぎて行った女子高生になど目もくれずに携帯を触り続けていた。
全く、見えていないとでも言うように。
「可愛い子とか居たら普通気になるだろ!」
「……あぁ、そんな子が居たのか?」
「……」
会話を振っても、その話題に表情一つ変えないでしれっと応える竹谷には流石に呆れてしまう。
本当に、年頃の男子なのかと聞きたくなる。
「…あのなぁ、八、おま…」
「…おっ!」
しかし、文句でも言ってやろうかと思った矢先、竹谷の横顔が突然、スイッチが入ったように変わった。
鉢屋は、思わず言おうとした言葉を飲み込んだ。
否、無理矢理彼の台詞に塞がれたとも言えるだろう。
「…何だよ、何が…」
鉢屋も竹谷の視線を追ってそちらに移した。
人通りの多いこの場所では、人一人見つけるのにも苦労する。
「……あぁ、なるほどね」
しかし、何度かあちらこちらへと視線を動かして、鉢屋も漸く竹谷が何を見つけてこんなにも嬉しそうな顔をするのかを理解した。
つーかこいつ、一発で見つけたよな今…
「…何だ、あいつを待って………あーあ」
半分呆れた様子で再び竹谷の方へ向き直る。
日頃、竹谷の笑う顔は嫌と言う程見てきた。それは今更珍しくもない。
彼は、心底明るい性格であって、大抵は馬鹿みたいに笑っている。
だが、今のこの表情はどうだろうか。
「……ダメだ、こいつ」
嬉しさで顔は綻び、日頃とは全く違う顔で笑う竹谷に、鉢屋もやれやれと呆れてしまうしかなかった。
「…ちゃんと前見て歩けって言ったのに…、また余所見しながら歩いてるな」
「…そうだな」
「俺と居る時はさ、手ぇ繋いでるからいいんだけどな」
「……」
「ちょっとドジなとこあるからさ、よく転けそうになるんだよ。まぁ、俺が居ればすぐ抱き止めて…」
「だああもういい!」
「?」
何度そのノロケ話を聞かされた事か。
ああ、俺が馬鹿だった
お前に別の女の話題を振ろうとした俺が馬鹿だったよ
「…可愛いな、うん、やっぱり兵助が一番可愛い」
耳にタコが出来る程聞かされた台詞に、鉢屋はもう何かを言う気にもなれなかった。
漸く此方に気付いて小走りする久々知を、公衆の面前で抱き締める竹谷に声を張り上げるまでは…
そして自分も、何だかちょっとだけ…
恋がしたくなった。
≫敢えて鉢雷要素は無しにしてみました^^でもきっとこの後雷蔵に恋します
竹谷達と久々知は違う学校に通っている設定でした
竹くくはやっぱり可愛いにつきるなー
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