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最近益々、彼はそれを態度に表すようになってきていた。
無意識なのか、解っててやっているのか…

否、彼の場合はきっと前者なのだろう。
無意識に、気持ちが態度へと表れているのだ。


「おい、留。こっち向けっての」

いじけているように、やってきた文次郎に背を向けて彼は一向にこちらを向こうとしない。
ぴく‥と少し反応する度に、頭上で結った髪がひょこんと動く様が何だかちょっと可愛らしい。

文次郎は、小さく笑いながらその後ろ姿を少し困ったように見つめた。


「…何、拗ねてんだ」
「……別に、拗ねてねぇ」
「拗ねてるだろうが」

その明らか過ぎる態度が全て語っていた。何か不満があった事を、表している。

しかし、何が原因かは文次郎にも流石にわからない。


「…こっち向け。何があった」
「……」
「…留三郎」


彼は日頃、後輩の前ではしっかりした先輩だ。勿論授業や実践でも、同じ事。

しかし、こう言った時は、文次郎しか知らない顔を見せる。
子供みたいに拗ねて、でも、本当は構って欲しくて仕方ない…。そんな、顔だ。
見ていて、彼にはわかる。

このまま放って部屋を出て行けば、こいつは絶対に泣く。


恋人である、文次郎の前でだけ現れるもう一つの姿。
以前にも、何度かこういう姿を見たことがあった。
好きになって初めて、知った姿だった。



「…留三郎」
「……うるせぇ」
「…はぁ」

思わず溜め息が漏れた。
勿論、こんな彼だって可愛いと思う。自分だけが見る事のできる、喜びだってある。

だがしかし、このままではお互いにも良くない。
また、雰囲気が悪くなってしまう。
いくら恋人同士とは言え…、まだまだ素直になれない間柄なのだから。



「…留三郎…、言いたい事はちゃんと言え。…俺は、」

お前の言う事ならば、何だって聞く。
言いたい事、嫌な事、全部言って欲しい。できる事ならば、もっとちゃんと理解だってし合いたい。
それが、望む形だ。

そういう関係を築きたいと、思っている。


こんな事を言うのは、柄にもないから恥ずかしいけど…。




「……と」
「あ?」
「……田村…と、…仲良さそうに……してた…ろ」
「……」

途切れ途切れに話す食満は、やはりこちらを向こうとはしない。が、文次郎には手に取るように今の食満の表情が見えた。

思わず、口元が緩む。


「…そりゃ、後輩だからな」
「……」
「何だ、それがどうかしたか?」

本当は、わかっている。
わかっているが、緩む口元を抑えて平然とした態度をとる。

彼の本音をちゃんと、彼の口から聞きたいから。



「…だっ、だから…」
「だから?」
「…だ…から………〜〜っっ…だああもう知らねぇ!!」
「ぐはっ!」

顔を覗き込もうと近付いた瞬間、食満の頭が勢い良く振り上げられた。そのせいで、思いっきり顎を強打してしまう。


「いっ…て〜……っあ!おい、留三郎!」

ドスドスと部屋から出て行こうとする食満に、文次郎は慌てて声をあげた。

全く、やはり素直じゃない。それも良いが、困ったものだ。


「おいっ、留三郎!」
「……んな」
「…あぁ?」

「……っ他の男にヘラヘラすんな!お前にはっ…俺がいんだろうが!もし今度ヘラヘラしやがったら…っぶん殴るからな!…お前はっ…俺のもんなんだ!」


真っ赤な顔で、大声を張り上げて言いたい事だけ言い終えると、食満は勢い良く戸を閉めてそのまま部屋を出て行った。

残された文次郎の、開いた口が塞がらない。
彼が、何気に物凄い事を叫んでいったせいだ。

だがしかし、口元が段々と緩んでいくのを文次郎は必死に抑えつける。


全く、本当に素直じゃない。
喧嘩すれば、容赦なく殴りつけてくるし、直ぐにぶん殴るとか言い出すし。



だけど


「…嬉しい事言うなっつーの」


真っ赤な顔をして口元を抑える文次郎は、ぼそりと呟いた。



(何だよ、俺、すっげぇ愛されてるじゃねぇか…)



しかし、緩む口元はなかなか抑える事が…できなかった。






≫たまにはツンツンデレな食満も^^







あきゅろす。
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