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懐かしいあの頃を、思い出すように…


また、あの頃のように



「…ん」
「…伸びてきた、な」
「…え?」

サラ‥と指から落ちた髪は、短いけれど、とても美しい黒色をしていた。

今も、昔も。そして、好きになった日も…。

ずっと変わらず、流れる美しい黒。


短いこの髪が、少しずつ少しずつ長くなる日毎に、あの頃を思い出す。



「…切ってからだいぶ経ってるしなー」
「また伸ばすのか?」
「…んー、どうすっかなぁ」

短い髪を指に絡ませながら、後ろから抱き締める文次郎に体重をかける。体格差のせいで、彼の腕に納まってしまう事が初めの頃は少し不満に思っていた。だが、今ではそうは思わない。

この温もりに、包まれる事を幸せに思うようになったのだ。


文次郎も同じように、食満の髪を優しく撫でながらその様子を愛おしむように見つめた。



「髪の長い頃か…、懐かしいな」


美しく流れる、長く黒い髪

美しい彼には、本当によく似合っていた。何度も抱き合っては、何度もその髪に口付けた。


青空の下で
夕焼けの下で

自らの、腕の中で


何度も
何度も



「本当によく似合ってたからな」
「…切ったのはどこの誰だよ」
「…お前が、切るって言い出すからだろ」

思えば、その美しい黒い髪を切ったのは…、自分なのだ。

勿論、自分にそんな器用さ等は持ち合わせていなかった。本職の髪結いに頼めば、もっと綺麗に仕上げてくれていた事だろう。


だが…、文次郎は、それを止めさせた。


『俺が、切る』



そう言って、その黒く長い髪に優しく触れた。




「お陰で、切りたては酷かったんだぞ」
「しっ、仕方ねぇだろ!…人の髪なんて切った事なかったし」
「……」


切ってくれたはいいが、長さは揃ってないしで散々だった。最初から、期待はしてなかったのだが…。
なのでその後直ぐに、仙蔵に手直しを頼んだのだ。
流石はと言うか、やはり器用なものだ。見事に、整えてくれた。


そうして出来上がったその長さは、文次郎と少しだけ同じで
髪の長い生徒ばかりの中で、二人だけが黒く、短かったから…ちょっとだけ特別な気分だった。



「……、だろ」
「え?」
「……触らせたくない、だろ。…他人に、お前の髪…」
「……」

ぎゅ‥と、抱き締める腕に力が籠もった。
すると食満は、その台詞に、胸を高鳴らせたまま言葉を詰まらせた。自然と、顔が赤くなるのを感じた。




「…あの長い髪には…、お前との大事な時間がぎっしり詰まってたから」


そうだ。

出会って、一つ、また一つと歳をとって…
月日を追う毎に、少しずつ、伸びていく。

好きになって、想いが届いて…
初めて、抱き合って…

また、少しずつ伸びていく。


俺と、お前の過ごした月日の分だけ…いつの間にか、あんなにも長くなっていたんだ。



「…また…何れはあの頃みたいに長くなる」
「…あぁ、そしたら、切りたくなった時はまた俺が切る。他人になんて、お前は触らせない」
「…文次郎」

その言葉は、余りにも恥ずかしくて…
でも、とっても嬉しくて…


食満は、顔を真っ赤にさせて俯いた。
自分に絡みつく腕を、強く抱き締めながら。



「…じゃあ、次はもっと…上手に切れ‥」
「…あぁ」
「……仙蔵…にも…誰にも…、…触らせんな」
「…あぁ、絶対に」


赤くなった頬に、後ろから口付けを落とす。少しだけ潤んだ瞳が、こちらを見上げてきた。

文次郎は、愛おしげに微笑む。



その、赤い顔も
その、愛おしげな笑顔も

今日、こうやって話した事も

全部、全部


俺たちだけの、時間



誰にも触れる事のできない…二人だけの、時間なんだ…。






そしてそんな時間を、まるで静かに慈しむように



黒はゆっくりと、揺れていた…。






≫昔は髪が長かったらなー的な妄想が止まらなかったので^^長い髪の食満も絶対いい!







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