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「ねぇ、留さん。お茶でも飲まない?」

伊作は、読んでいた本を膝の上に置き、同じく読書にふける同室の食満に声を掛けた。
本日は、休みの日。
特にする事のない日は、彼らはこうやって読書等をして過ごしている。
町へ出たり、休みの日にまで鍛錬に励む物好き等、他の生徒達も、思い思いの過ごし方をしているようだ。


「ああ、そうだな」

首を鳴らし、食満も読んでいた本を置いて伸びをした。

「じゃあ、ちょっと食堂行ってくるね」

そう言って、伊作はゆっくりと立ち上がろうとした。
しかし…、物凄い足音が、ドタドタとこちらへ猛スピードで近付いてくる。

伊作と食満は、唖然としながらその音に固まっていた。

何事だ…!?




スパーーン!!


そして、二人の部屋の襖が、勢いよく開かれた。どうやら、目的は此処だったらしい。



「伊作せんぱああい!!」

「くっ…久々知!?」

そしてそこに現れたのは、五年の久々知だった。意外な訪問者に、食満は驚いている。
だが、伊作はそれ程驚いた様子は見せず、しかし久々知のその様子には驚いていた。

「わぁっ!どっ…どうしたの久々知」
「うわ〜ん!」

久々知は、泣きながら伊作に飛び付いた。
伊作は、優しい性格だったので、勿論嫌がる事もなく彼の頭を撫でてやる。

しかし、何のこっちゃ解らない。

チラッと食満と目を合わせ、疑問を浮かべた。



だが、また更にその時…


「兵助ーー!!あぁっ!!やっぱり此処に居たか!!」

其処に、二人めの訪問者、同じく五年の竹谷が現れた。
二人の勢いに、伊作も食満も口を挟めない。ただ唖然としてその光景を眺めるしかなかった。


「もうお前は!すぐ伊作先輩に泣きつく!」
「うっさい!この…浮気者!」
「なっ…!だっ…だから!浮気じゃねぇって言ってるだろ!」

現れた二人は、伊作と食満をお構いもなしに怒鳴り合う。しかも、内容が…思わず耳を塞ぎたくなるような話だ。
この二人の仲の良さは、誰もが(特に上級生)知っているのだから当然そう言った仲である事も六年生は全員知っていた。

だからこそ、この喧嘩も浮気がどうのと言っている時点で、きっといつもの痴話喧嘩なのだろうと…伊作と食満は、既に呆れ気分でとりあえず聞いていた。


「俺の事が一番って言ったくせにっ…、さっき雷蔵の顔見て赤くなっただろ!」
「ちょっ、だから!あれは別に雷蔵の顔見たからじゃなくて!あいつが兵助の事を…」
「もういい!俺はっ、伊作先輩のものになるから!」

「……ちょっ、ええぇ!?」

とりあえずは被害さえ無ければ…と思って耐えていた伊作だったが、どうやら自分も巻き添えをくいそうな予感だ。
食満に助け舟を出すが、彼も苦笑いを浮かべる他ないようだった。


「バカな事を言うな!」
「バカじゃない!バカなのは八だろ!」

そして久々知は、完全に機嫌を損ねて伊作に抱きついたままとうとう口まで利かなくなってしまった。
ぬうぅ‥と声をあげる八を横目に、食満や伊作もどうする事もできずにただ苦笑いを浮かべるしかなかった。


しかし、その時。
竹谷の顔が、何かを思いついたように勢い良く食満の方を向いた。

その一瞬で、食満は嫌な予感を察したのか後方に下がる。


頼むから、巻き込まないでくれ…


だが、そう願うも届かず…


「食満せんぱああい!!」
「うわあああ!!」


大きな叫び声が重なった。


「こっこら離せ!竹谷!」
「ぐぐっ…、俺だって可哀想な後輩でしょ!」
「うるせぇ!お前が泣きつく柄か!」
「いいじゃないですかたまには…!」
「かわいくねぇんだよ!」


そんな、ジタバタと取っ組み合いながらギャアギャアと騒ぐ光景を、伊作は呆れ顔で見ていた。

まぁ、子供みたいな竹谷はちょっとかわいいとは思うけど…

くす‥と小さく笑う。


すると、ふと久々知を見ると彼もまた、同じように食満と竹谷を見ていた。大きな目を、更にパッチリとさせて…。
すると伊作は、不思議に思って、どうしたのかと久々知の顔を覗き込んだ。



が、次の瞬間


「くっ…久々知!?」

その声に、騒いでいた食満や竹谷もこちらを向く。
何事かと三人が久々知を見ると…、彼は何と、泣いていたのだ。
大きな目をいっぱいに潤ませて。


「どっ、どうしたの久々知」
「へっ…兵助…」

今にも、こちらへ飛びかかってきそうな勢いの竹谷が、酷く心配そうな顔を浮かべた。


「っ…八が触っていいのは…、俺…だけぇ…っ」


そして、涙は栓を切ったようにポロポロと流れ出した。

勿論、そんな姿を見て竹谷がそのままな訳がない。
伊作から久々知を奪い返し(誰も奪ってない)、優しく抱きしめ、何度も頭を撫でる。
勿論、ごめん、の言葉も。


そして此処が、六年は組の部屋だなんて事は、今や二人には忘れられた事だろう。

伊作と食満は、自分たちの部屋で仲良くし出す竹谷と久々知に何だか一日分の疲れを貰った気分だった。



そして二人は、無事仲直りをしたようだった。







『ねぇ、八ってさ、兵助といると本当に優しい笑顔になるよね』

『えっ…そっ‥そうか?』

『うん。何て言うか…好きが溢れてるって言うのかな』

『なっ…』




なぁ、兵助

俺があんな顔になるのは…


お前が相手である時、だけだって事


覚えておけよな






≫伊作と久々知、竹谷と食満を絡ませたくなったので^^は組は優しい兄貴分だと思う。そして竹谷が赤くなったのは最後の雷蔵との会話にです。
アホな話ですみませ…!







あきゅろす。
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