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「留〜…許してくれ〜…」
「ふんッ!」

覗き込んでくる文次郎の顔から逃げるように、食満は長次の胸元に自分の顔を埋める。ぎゅう‥と抱きついていれば、長次は何も言わずに優しく頭を撫でてくれた。
いつも、そうだ。
長次は、話さない奴だけど、一緒に居ると安心できる。甘えれば、ちゃんと甘やかしてくれる。とっても優しくて、最近では長次の腕の中が食満の一番のお気に入りの場所になっていた。


「…ん」

すりすり‥と額を擦りつけて、文次郎から意識を外すように甘えた。
長次は、変わらずに頭を撫でる。


そして…、文次郎は、益々情けない顔でその光景を見せつけられるしかなかった。

どうやら、いつものくだらない喧嘩が今日は食満の気に触れてしまったらしい。完全に怒ってしまった食満は、ドスドスと凄い足音で長次の部屋を訪れ、先ほどからずっと腕の中にいるのだ。

最初は文次郎も意地を張っていたが、段々と食満が恋しくなり、今では頭を下げるばかり。だが…、一向に許してもらえないまま時間は過ぎていく。


「…留〜…」
「……」

しかし…、段々と、文次郎の声が弱々しくなっていく事に食満は当然気がついていた。震えていて、下手したらこのまま…泣いてしまうのではないかと思うくらいに。
きっと、誰もが聞いたら、あの潮江文次郎がと笑うだろう。しかし、食満だけは知っていた。彼の、弱い部分も彼は沢山見ているのだから。一緒に、泣いた事だってある。


「……」
「ん?何?長次」

「…もう、…許してやれ」

ぼそぼそと、食満にだけ聴こえる声で長次は囁いた。
このままでは、本当に泣き出してしまう…と。

長次も、おそらくは知っているのだろう。彼は、よく人を見ているから…。だから、優しいのだ。

長次にそう言われては、流石の食満も、もう許してやらずにはいられない。
うん…、と食満も長次にだけ聴こえる声で頷いた。そしてもう一度だけ、顔を埋めると長次はとっても優しい手つきで頭を撫でてくれた。


「……」

下を向いたまま、まるでこの世の終わりを見ているような顔をしている文次郎。
食満は、ゆっくりと長次の腕の中から離れ、そして文次郎の方へと進み寄った。

「…文次郎」
「っ…とっ…留…」

あーあ、また隈増やして…
徹夜しすぎだ

何て情けない顔…してんだよ


怒りに満ちていたはずなのに…、文次郎の疲れきったその顔を見た途端…、もう、どうでもよくなった。


「…バカもんじ」
「…っ」
「もう…、次は許さないんだからな」
「っ…留三郎…!」

そうして、文次郎は柄にもなく泣きそうな顔をして、食満の腕を引き寄せ力いっぱい抱きしめた。


優しい長次の時とは違う…。
少し強引で、匂いも違う。


でも…、こんなにも、愛おしいと思ってしまうのは…


やっぱり、文次郎だけだ。



「…バカ、泣くなよ」
「泣いてね〜…」

ぐす‥と鼻を啜る音に、食満は背に回していた手で優しく撫でた。

顔を上げると、やっぱり何とも情けない顔が見下ろしていて…


「…情けない顔」

でも、俺の…

大好きな、顔だ



そうして、優しく文次郎の頬に一つ、口づけをおくった。






≫ヘタレなもんじとかわいめなけまたんとおいしいとこ取りな長次が書きたくなったので(*'∀`*)







あきゅろす。
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