「何をぉ!?」
「やるかぁ!?」
喧嘩の原因を、この二人の場合は考えるだけ無駄だろう。これはもう、挨拶代わりなんだろうと、誰もが思う程なのだから。
オロオロと、互いの委員会の下級生たちが困っている中で、委員長同士は今日も砂埃をたてて掴み合っていた。
その様子を、少し離れた場所から見守るしかできない下級生たち。
「…あーあ、またやってる」
「…あっ伊作先輩!」
するとそこへ、丁度通りかかったらしい六年生の善法寺伊作が、呆れた様子で立っていた。
毎日のようにあの光景を見ているのだろう伊作は、溜め息を吐いて首を横に振った。
「伊作先輩〜〜何とかしてください」
「さっきからもうずっとあんな調子なんです〜」
心底困ったような下級生たちに、何だか伊作は自分までが申し訳ない気分になってしまう。
うるうる、と一年生たちは目まで潤ませてしまっているのだから尚更…。
「ほんと、ごめんね」
そう言って苦笑すると、伊作はたち込める砂埃に近づく。
下級生たちは、あの優しくていつも笑顔の伊作がどうやって喧嘩を止めるのだろう…と思っていたが…
すぅ‥
「ひどいよっ二人とも!!」
「!?」
「!?」
大きな伊作の声一つで、場は静かになった。
そして
「…うっ、ひどいよ…あれだけ、怪我するからやめてって言ったのに…」
「あ…い、伊作」
「や、これは、その」
「……どうやら、あの時の気持ちは伝わらなかったみたいだね。…なら…、とびっきり沁みる薬でじっくり治療してあげないと…ね」
フフフ…と笑みを浮かべたその時の伊作程、保健委員長に恐怖を覚えた事はなかった。
「「ごっ…ごめんなさいいい!!」」
どうやら、ちょっとしたトラウマでも植え付けられたのだろう。食満と文次郎は、顔を青くしてそのまま猛ダッシュで逃げていった。
「…すごい、あの伊作先輩が…」
「……怖かった」
「これで、いいかな?」
しかし戻ってきた伊作は、やっぱりいつも通りの優しい笑顔だった。
「…伊作先輩」
「ん?」
「食満先輩と潮江先輩って、いつも喧嘩ばかりしてるんですか…?」
…と言うか、日頃張り合うところしか見ていない彼らなら、そう思うかもしれない。
「んー…まぁ」
「…仲悪いのぉ…?」
「…や、…そんな事は…ないよ」
しかし、急に歯切れ悪くなる伊作に下級生たちは首を傾げる。何の曇りもない目が、見上げてくる。
…伊作は、当然言えるはずもなかった。
長屋に戻った後や、休みの日の彼らの事を…。
******
背中から、暑いくらいの温もりが自分を抱きしめる。しかし、机に向かっていた食満は、そのままの状態で本を読んでいる。
抱きしめる文次郎も、それが心地良いように目を瞑っていた。
「…ちょ、文次郎…。くすぐったい」
「んー…」
「…何だよ、構ってほしいのか?」
「…それは、お前もだろう?」
「……バカもんじ」
首越しから、ソッと食満の唇を塞ぐ。食満も、それに応えるように身体の向きをゆっくりと変えた。
そして、首に腕を回して、何度も甘い口付けを交わす。
「…ん、んぅ」
時折漏れる、食満の声がまたたまらない。文次郎は、強く抱き寄せてその愛おしさを実感する。
ちゅ‥と音をたて、ゆっくり唇を離すとそこには嬉しそうに笑う文次郎。
「…なに笑ってんだよ」
「ん?可愛いなーと思って」
「なっ!バっバカもんじ!」
「ぷっ、もうバカって言われてもへこまないぜ?お前のバカには愛があるからな」
こつん‥と額をくっつけ合わせ、間近で見つめ合う二人。身体ごと、全てで密着し合う心地良さにうっとりとしながら。
「俺を可愛いなんて言う奴、もんじしかいない」
そう囁いて、文次郎の頬をゆるく抓る。こんな、甘えるような仕草もたまらない。
「そうか?なら、好都合だ」
…お前を、俺一人だけが独占できるんだからな…
そうして、再び二人はゆっくりと唇を重ね合わせた。
******
そのような場面を、もう何度も目撃している六年生。特に、食満と同室である伊作はそれこそ何度も…。
そう、もう、結局のところ、二人の喧嘩は一つのスキンシップなのだ。相手を嫌ってしているのではない。あれも、愛なのだ。
「…伊作先輩?」
「…えっ?」
すると、下級生たちはまだ、不思議そうに見上げていた。
「まっ、まぁ大丈夫だよ!あれも趣味でやってるようなものだから。ほら、よく言うだろ?喧嘩するほど仲がいいって」
伊作は、とりあえずそう言って、にっこりと笑った。
だが下級生たちは、とりあえず仲がいいと言う言葉を聞いて、納得してくれたようだった。
そう…
世の中には…知らない方がいい事も、あるのだ。
苦笑いをしながら、伊作はつくづくそう、思ったのだった。
≫やっぱり文食はいいなぁ〜いくらでもラブラブさせたくなります(*^ω^*)
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