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ひらり…ひらり…



冷たっ‥、と感じた時には、鼻の上を水の雫が小さく濡らしていた。とっさに空を見上げると、次から次へと降ってくる白い雪。

「…雪、か」

寒い寒いと誰もが口に零すこの季節。やっぱりこの日も、朝から凍える程に冷たい空気が流れていた。
ハァ…と手に息を吐いて、少しだけでも紛らせるように手を擦り合わせる。

「…冬はキツいな」

そう言って、赤くなった手で食満は再び修理に取りかかった。
忍術学園の委員会は、勿論どこも年中走り回っている。決して楽でないのも、同じ事。

しかし、一番こきを使われているのは、やはり用具委員会ではないかと食満は密かに思った。こんな寒い日にも関係なく、『あれを修理してくれこれを修理してくれ』等と学園中の修理を頼まれるのだから…。

おかげで、手が真っ赤だ。


「まぁ…仕方ない。早く済ませよう」

結局は、高度な修理を下級生ができる訳もないのだから、自分が買って出るしかないのだ。

止まない雪の中で、食満は黙々と手を動かす。



「…留三郎?」

するとその時、すぐ後ろで自分を呼ぶ声が聞こえた。食満は手を止めて、ゆっくりとそちらへ振り返る。

「…文次郎」
「何をしている…、こんな雪の中で」

心底驚いてそう言う彼は、喧嘩も多けれど…密かな恋仲でもある、文次郎だった。
食満は、変わらない表情で持っていた修理道具を目の前に持ち上げた。

「…修理、頼まれたんだ」

寒さなんて諸ともしていないらしい彼に、ちょっとだけむっとする。
見渡せば、いつもの走り回る下級生達なんて一人もいない。まぁこの寒さでは、部屋に引きこもるのも当然だろう。

「…こんな雪の中で…ってオイ!」
「…何」
「お前っ、手!」
「…手?」

すると文次郎は、食満の方へと走り寄り、その手から道具を取り上げて握った。

「もっ…文じ…」
「真っ赤じゃねぇか!」
「…あ…」

寒さで、半分か感覚を失ってしまっている手は、握られてもその温さを感じられなかった。
しかし、文次郎の大きな手は、包み込むようにして食満の手を温める。

思わず、ドキドキした。

いくら恋仲であっても、こういった優しさには余り慣れていない。
食満は、恥ずかしさの余り、何か言ってやろうとした…が。

心配そうな彼の表情が、一気にその気を剥いでいった。

…嬉しい
そう、本当は、凄く…

嬉しいんだ


ふわ‥と、食満は自然に優しく微笑んでいた



「…留」
「…え?」

そして、急に近づく顔を、よける間もなく…

柔らかい感触が、冷え切った唇を優しく塞いだ。


「…ん」

寒い筈の身体が、唇と手から全身に温もりを与える。
唇を離し、一瞬だけ見つめ合った後、再び落ちてくる温かい感触。こんな優しい口づけを交わすのは、初めてかもしれない。

好きなのに、素直になれない。

二人の性格のせいで、縮まる筈の距離には、それだけの時間が必要なのだ。



「…唇も、冷たいな」
「…バカ文次郎…、誰かに…見られてたら…」
「ん?いいじゃないか。だって俺たちは…」

恋仲、だろう?


そう囁き声で、文次郎は食満の頬にソッと口付けた。
恥ずかしいし、誰がどこで見ているかも解らないのに、それ以上の愛しさを感じてしまった食満は、真っ赤な顔で、ソッと文次郎に寄りかかった。


「…後で、部屋でゆっくり温めてやるから」
「…バカもんじ」


雪の降る中で、寒い筈の身体は、いつの間にかすっかり温かくなっていた…。






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