※「赤と燈のはじまり」の続きです 夕日がオレンジに世界を染め、陰りが空を縁取る。その世界には、赤と燈色の男女が一組だけぽつんと佇んでいる。 「…レッ…ド…」 「……」 ぽつりと呟いたカスミの声にレッドは遠慮がちに頷いた。 沈黙。なんとも言えない重苦しい、しかし透き通った空気が流れ、満ちる。 見開いた緑の目は赤の目を見つめたまま。赤の目は少し伏せられ、緑の目から少し逸らされたまま。 互いに微動だにしないまま、時間だけが過ぎていく。 ふと、赤い帽子を被り直した男が何かを告げようと拳を握り、燈色の髪を持つ緑の目をしっかりと見据えた。 「……カ「バカ!!!!!!!!」 突如発せられたキーンと耳鳴りでも地鳴りでも起こりそうな怒声にレッドはビクッと肩を揺らした。要はひどく驚いたのだ。びっくりしちゃったのだ。 「あんたねぇ!!!帰ってきたなら帰ってきたってちゃんと言いに来なさいよ!!!!!」 「……っ」 「アタシがっ…どれだけ心配して…っ」 「……」 「グリーンとかコトネにはっ…会ってるくせに!!」 「……」 「急に山籠りなんてして…バカよ!!極端すぎるのよ!!連絡くらい寄越せば良いじゃない!!たまには降りてきて人を頼れば良かったじゃない!!」 「……」 「…なんて…アタシが言ったって…あんたには何の関係もないのかもしれないけど…」 「……っ!?」 「アタシのことなんて忘れてたのかもしれないけど…でも…」 「……カ…」 「心配くらいは…寂しがったりくらいは、ちゃんとしたのよ!!!!」 バーカ!!!と叫ぶカスミはぼろぼろと惜しげもなく涙を流して。透明な涙に夕日が反射してきらきらと煌めいた。 しばらくその姿を真剣な眼差しで見つめていたレッドは、やがて小刻みに揺れるその細い肩をそっと、静かに抱いた。 「……!?」 「……カスミ」 「なっ…、によ…!」 「……俺、カスミに怒られるの、好きなんだ」 「……はあ!?」 「…初めて会ったとき、バッジを賭けて戦ったときも、」 「……」 「…その勝負に俺が買ったときも怒られた。『ちゃんと育ててるのか』『本気でやってるのか』って」 「…なによそれ、そんなの覚えて…」 「…ポケモンに、真剣だった。戦い終わって、ポケモン捕まえるとき、何考えてる?って言われて、」 「……」 「俺みたいにいつか旅に出るって言って…」 「…うん…」 「…俺はそのとき必死になって戦ったからなんで怒られたのか分からなかったけど、でも、それがポケモンへの愛情だったんだって後で分かって、」 「うっ…!」 「俺を見て、そういう実力認めてくれたんだって、嬉しくて」 「…ちょっと…」 「それで俺、ちゃんと強いトレーナーになろうって思った。ちゃんとポケモンに愛情注げるトレーナーに」 「…もう!!だから何なのよ!!昔話は今さらいいのよ!!!」 居心地悪そうに身を捩りながら叫ぶカスミに真剣な視線を向け、レッドがはっきりと言う。 「昔話じゃない」 真っ直ぐな瞳がカスミを貫く。 「…俺は、カスミが好きなんだ」 緑色の目が、見開かれる。 「二年前の、あの頃からずっと」 そう呟いてから、レッドは押し黙った。再び目を伏せ、沈黙の空気でカスミの様子を伺っているようだったが、カスミの震える肩からその感情が直接溢れ出ているようで。 レッドは熱っぽい息を細く吐いた。 「何なのよ…何なのよ今さら!!!」 「……ごめん」 「何で謝るのよ!!!」 「……ごめん…?」 「冗談じゃないわよ!!!二年前からですって!?そんなの信じられるわけないじゃない!!!」 「…どうして」 「どうしてって……アタシ、その二年間置いてきぼりだったのよ!?あんたが…あんたがアタシを好きだったっていう方が信じられない!!」 「でも嘘じゃない」 「…え!?」 「ずっとカスミが好きだった」 「……っ!!」 「…コトネに、今言わないと一生叶わないって、今日、」 「コトネに…?」 「…うん、だから今日ここに来た」 あいつ…と渋い顔をするカスミを、不安げに見つめながらレッドが言う。 「……カスミは?」 「へっ?」 「カスミの気持ちは…?」 ゆらゆらと揺れる赤い瞳を見ながら、カスミは少しだけ驚いた。 本気なのだ、と悟る。 こくりとカスミは息を飲み、ゆっくりと、か細い声で慎重に言葉を紡いだ。 「アタシはあんたを許せない。当分の間はね」 「……っ」 「その代わりその分のツケ、きっちり払ってもらうわよ!」 「……?」 訝しげな視線を送るレッドにカスミはニッと不敵に笑ってみせた。 「満足させてちょうだいね!二年間分!!」 ふん!と自信満々に言い放ったカスミを見て、レッドはとても嬉しそうに微笑んだ。 「…どうしてすぐ会いに来なかったのよ」 「……緊張して」 「何度も言うようだけどグリーンやコトネとは会ってたんじゃない」 「あいつらは…友達だから」 「あんたねぇ…」 「グリーンにも怒られた。お前もうさっさとしろって。カスミも悲しんでるって。」 「……ったく」 「…あと、彼氏がいるって聞いた」 「…!!!?」 「……ほんとなんだ?」 「あっ…あれは彼氏っていうか…その…」 「別れてね?」 「うっ!!??」 「モテるとも聞いたけど…これからは俺がいるから…大丈夫だよね?」 「ちょっと待って、あんたそういうキャラだった?」 「まあね」 フッと笑ったレッドがカスミを強く抱き締める。 「……どうやって埋め合わせ…するかな」 その純粋ながら質量を持った声色に、カスミは思わず身震いした。 赤と燈がまざって 「あー!!!!やっと結ばれましたねー!!!!」 「全くだな。コトネから連絡があったから来てみれば…突然過ぎんだよなァ、レッドは!」 「私たちも浮かばれましたよグリーンさん!!」 「だな、あとでいろいろと奢らせてやろう」 「……そこ、さっきから何覗いてんの?」 「「!!!!!!」」 |