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手に入れるため、失うもの。
何かを欲すれば、代価を失う。
それがこの世の理だと、ずっと前から判っていた。

何もかもを手に入れたと思っていた。
失いながらも、それ以上の幸せに浸っていた。
だから気付けなかったのだろうか。
忍び寄る、喪失の跫音に。

辿り着いた教会で、膝をつく。
辺りに漂う、馨しい花の香り。
花の似合う、彼女と同じ。

本当は、わかっていた。
わからないふりを、していたかっただけなんだ。





















hurt






















神殿に漂う、古代種達の意識。
感じながら、耳を傾けながら、エアリスは石畳の道を歩いていく。
現世に留まる意志の集合体は、言葉を失ってもなお、何かを伝えようとしている。



「ふぅ〜、やったね!」



罠の張られた道を通り抜け、エアリスは深く息を吐く。
元々、スラムで花を育てていただけの彼女だ。
今のように動き回ることなど、これまでの人生では一度もなかっただろう。



「大丈夫か?さすがに堪えたな」



珍しく労りの言葉を掛けるクラウドを、物珍しげにエアリスは眺め、小さく笑みを浮かべる。
一方、ユフィは目当ての宝が見つからないのか、退屈げに欠伸を漏らしていた。
二人の様子を見ながら一息ついていれば、通り過ぎてきた小さな泉が、輝いているのが見えた。



「あっ……クラウド、たいへん!」



慌てて泉の方へと走っていくエアリスに、クラウドとユフィは首を傾げる。



「はやく、こっち!」



エアリスが手を振りながら呼べば、二人は顔を見合わせ、泉の前へと走っていった。
水面を覗き込めば、満ちているものは水ではなく、魔晄に似た、けれど違うものだった。



「古代種の知識がいっぱい……ううん、知識なんかじゃない。そう……意識……生きてる心……」



クラウドの疑問を汲み取るように、エアリスはその声に耳を傾ける。
紡がれ、千切れ、結ばれる言葉。



「何か、言いたがってる……ごめんね、わからないの」



あまりにも多くの声。
聞こえる。
それでも、言葉にならない声が、何を伝えようとしているのかはわからず。



「えっ?な〜に?……危険?邪悪な……意識?」



邪悪な意識。
危険、キケン、きけん。
警戒の声ばかりが、ひたすらに溢れ出す。



「えっ?見せる?見せてくれるの?」



エアリスが尋ねると同時に、泉から光が満ち溢れ、立ち上る。
それをスクリーンとして、映し出されたのは、クラウド達が神殿に入ってからの映像だった。



「……どうなってる?」

「まって!ほら、見て…はじまるわよ」



スクリーンに目を向ければ、映し出されたのは、壁画が一面に描かれた部屋だった。
そこに立っていたのは、タークスのツォンと、イリーナだった。



『ツォンさん、これは?これで約束の地がわかるんですか?』

『……どうかな。とにかく社長に報告だ』

『気をつけてくださいね。ツォンさん』

『ああ……イリーナ』

『はっ、はいっ?』

『この仕事が終わったら、飯でもどうだ?』

『あ、ありがとうございます!それじゃ、お先に失礼します!』

『ここが約束の地?いや、まさかな……』



イリーナが先に部屋を出ると、ツォンはまた壁画に目を戻した。
描かれるものは、ぼんやりとしているものの、何かの儀式のように見える。
壁画を眺めていれば、突然、ぞくりと背筋が凍り付くような感覚に襲われた。
銀の長髪、黒いロングコート、身の丈を越えるほどの大太刀。



『セフィロス…!』



ツォンの言葉に、映し出されたその姿に、クラウドは目を見開く。
水面に映るセフィロスは氷の笑みを浮かべ、ゆっくりと唇を開いた。



『お前が扉を開いたのか。ご苦労だった』

『ここは……なんだ?』

『失われた知の宝庫。古代種の知恵……知識。私は星とひとつになるのだ』

『星とひとつに?』



星とひとつに。
セフィロスの言葉に、エアリスはぴくりと眉を顰める。
それは、古代種の考えと一致するように聞こえた。
けれど、違う。
セトラの民は、星から生まれ、星へ帰るもの。
だが、セフィロスは、自らを古代種ではないと、ニブルヘイムで言っていた。



『愚かなる者ども、考えたこともあるまい……この星のすべての精神エネルギー、この星のすべての知恵……知識……私はすべてと同化する。私がすべて……すべては私となる』



星を巡る、ライフストリーム。
溶け込む膨大な知識。
魔晄として利用されるほどの強大なエネルギー。
セフィロスがそれらすべてを手に入れたとしたら。



『……そんなことができるというのか?』

『その方法が……ここに』



掲げた右腕。
示すように、壁画をなぞる。



『お前たちには死あるのみ。しかし、悲しむことはない』



歪められた唇。
それが笑みだと理解したと同時に、ツォンはその場に崩れ落ちていた。
目で追うことすら儘ならないほどの速さ。
一閃の元に伏したツォンは、傷口を押さえ、がり、と石畳に爪を立てた。
す、とツォンに血塗れた切先を向け、セフィロスは視線を落とし、嗤う。



『死によって生まれる新たな精神エネルギー。やがて私の一部として生きることができる』



ぷつりと、そこで映像は途切れた。
顔を上げ、エアリスは緩く髪を掻き上げる。



「見えた?」

「キモチワリィな〜!」



緊張感のないユフィの声に、エアリスは零れかけた笑みを、咳払いで誤魔化した。
クラウドに目を向ければ、真剣な面持ちで、何かを考え込むように、唇を噤んでいて。



「……壁画の部屋はどこだ?」

「もうすぐ、ね」

「セフィロスが居るんだな?」


強い口調で尋ねられ、エアリスはゆっくりと、深く頷く。
古代種の意識の集合体は、辺りを漂う声達は、何かにひどく怯えていた。
それは、やはりセフィロスへの恐怖なのだろうか。



「あいつが何を考えようと、ここで終わりだ……俺が倒す!」



ぐ、ときつく拳を握るクラウド。
故郷を奪われたこと。
五年前の真実。
全ての過去に、決着を着けるため。



「アタシは関係ないけどね。でも、ま、手を貸してやるよ」

「ありがと、ユフィ」

「あ、もちろんタダじゃないからな」



軽い口調で言うユフィに、エアリスはくすくすと笑みを零す。
この仲間達とこの場所に来れて、本当に良かった。
そう、心から思える。
通路の先に目を向ければ、誰かが手招きをしている気がした。
故郷とすら感じられる、この神殿。
ミッドガルに居た頃は、ほとんど聞くこともできなかった、沢山の声。
嬉しさに、浮かんだ笑顔。



「ね、行こう」



立ち上がり、軽く埃を払えば、返ってくる笑み。
一人じゃない。
それが、何よりも心強く感じた。





















こつりと、木の床に靴音が響く。
ザックスが体を起こせば、シスネは緩く手を振り、すっと片手に持った缶コーヒーを差し出した。



「聞いたわよ。失恋したんですって?」

「…そんなんじゃねぇよ」

「あら、そう?」



コーヒーを受け取ったザックスは、不機嫌そうな顔をして体を起こす。
くすくすと笑いながら、近くの椅子に腰を下ろしたシスネに、脇に転がった袋を差し出した。



「ほら、土産だ」

「え?」

「レノから聞いたぞ。シスネってさ、結構かわいいものとか、好きなんだな」



受け取った包みを開けば、大きなモーグリのぬいぐるみが微笑みかけていて。
つられたように笑いながら、シスネはぎゅっとぬいぐるみを抱き締めた。



「……冗談だったのに」

「え、まじかよ」

「でも、受け取っておくわ」



くるりと背中を向けたシスネの表情は伺えないが、嬉しそうな声は耳に届く。
その背を眺めて小さく笑みを零せば、鳴り響いた携帯の音。
ディスプレイに映し出される、発信者の名前。



「……レノ?何だ?」

『ザックス!ツォンさんが――……』



レノが告げた言葉に、ザックスは目を見開く。
セフィロスを追うため、調査に向かったツォン。
調査中にクラウド等と交戦した様子で、昏睡状態でミディールの病院に運び込まれたと、イリーナから連絡が入ったのだ。
クラウドは、エアリスと行動していたはずだ。
エアリスが、クラウドにツォンが斬られることを黙認するだろうか。



「……ツォンが…?」





















扉を開くと、目に飛び込んできたのは、視界いっぱいに広がる巨大な壁画。
先程の映像に映し出された壁画の間に辿り着いたクラウド達は、周囲をぐるりと見渡した。



「ここが壁画の間……」

「どこだ!?セフィロス!!」


壁画を見上げて息を吐くエアリスと、声を上げるクラウド。
かつ、と響いた靴音に振り返れば、抜き身の刀を握る腕、変わらない銀髪が、居た。



「冷たいな。私はいつでもお前の側に居る」


セフィロスの言葉に、クラウドはぐっと背中の剣の柄を握る。
エアリスとユフィも武器を握って身構えるが、視線のひとつも向けることなく、セフィロスは唇の端をつり上げた。



「来るがいい」



そう言うと、くるりと踵を返し、壁画に添ってセフィロスは歩き出した。
背から斬り掛かろうと隙を窺うも、一寸の隙さえ見つけることも叶わず。
ちらりとエアリスに顔を向ければ、エアリスはひとつ頷いた。
セフィロスの後について歩いていけば、壁画の間の最深部に鎮座された祭壇が目に入った。



「まったく、素晴らしい。知の宝庫……」



両腕を広げ、壁画を眺めるセフィロスに、クラウドは不快感を顕わにする。
自分自身を古代種ではないと言った。
だが、今、古代種の知識に触れ、エアリスと同じように感嘆の息を漏らしている。



「お前が言ってることは意味不明なんだよ!」



何もわからない。
苛立ちを隠せずにクラウドが叫ぶと、セフィロスは薄く笑みを浮かべた。



「よく見ておくがいい」

「何を!」

「古代種の知に与えるもの。私は星とひとつになるのだ」



紡ぐ唇。
その表情は、母の腕に抱かれた赤子のように穏やかで。
凄絶にすら見えるその笑みに、背筋が凍る感覚を覚える。



「……かあさん………もうすぐだよ……もうすぐ……ひとつになれる……」



肘を抱き、微笑みを浮かべるセフィロスに、エアリスはぐっと拳を握り締め、唇を開いた。



「星とひとつになるって、どうするつもり?」

「簡単なことだ」



顔を上げて振り返り、緩やかに流れる銀髪。
完成されたその美しさは、ひどく異様に映る。



「星は傷ができると治療のために傷口に精神エネルギーを集める。傷の大きさに比例して集まるエネルギーの大きさが決まる」



告げる話は、コスモキャニオンで聞いたものと同じ。
精神エネルギーとは、魔晄――星命学の学者らが言うライフストリームを表すのだろう。



「……星が破壊されるほどの傷ができたらどうなる?どれほどのエネルギーが集まる?」



紡がれた言葉。
北の大地に空いた、大空洞。
大地が枯れ、雪に覆われているのは、その傷を星が癒そうとしているためだという。



「……まさか」

「その傷の中心にいるのが私だ。エネルギーはすべて私のものだ。星のすべてのエネルギーとひとつになり私は新たなる生命、新たなる存在となる。星とまじわり……私は……今は失われ、かつて人の心を支配した存在……『神』として生まれ変わるのだ」



それは、あまりにも飛躍した話であった。
しかし、セフィロスには、それを実現する力がある。
神羅が電力として利用する魔晄、ソルジャーが照射されることで手に入れる力。
この星すべてのその力を手に入れたとしたら、想像を絶する力となることは容易に想像できる。



「星が破壊されるほどの傷?傷つける?星を?」



エアリスの問いに、セフィロスは小さく笑みを零し、すっと片手を挙げた。



「壁画を見るがいい。最高の破壊魔法……メテオ」



何らかの儀式の様子を描いていた入り口付近の壁画は、祭壇の側では儀式を終え、空から巨大な隕石を呼ぶ人々の図で終わっていた。
それこそが、究極の破壊魔法であるのか。



「そうはいかない!」



クラウドが声を上げた瞬間、頭の中に響いた声。



『目を醒ませ!!』



同時に、ぐらりと視界が揺れる。
膝をつき、額を押さえるクラウドの側に駆け寄り、エアリスとユフィは様子を確かめる。
一瞬の眩暈はすぐに消え、辺りを見回すも、すでにセフィロスの姿はなく。



「どこだ!セフィロス!」

「待って、クラウド!」



その背中に声をかければ、ぴたりとクラウドは足を止める。
振り返ることもせず、口元を歪め、壁画を見上げる。



「クラウド!」

「なにやってんだ?」



エアリスとユフィが口々に声を掛けるも、クラウドはぴくりとも反応せず。



「クックックッ……黒マテリア」



肩を揺らし、嗤う。



「クックックッ……メテオよぶ」



明らかに異様なクラウドの様子に、エアリスはぞくりと背筋が粟立つような感覚に襲われる。
壊れてしまう。



「クラウド!しっかりしなさい!」

「クラウド……」



エアリスの声に、クラウドは唇を開き、ぽつりと声を漏らす。



「俺……クラウド……どうやるんだ…」



揺れる視線。
何かを追いかけるように。
無表情のまま、記憶をなぞるように体を動かす。



「……思い出した!俺のやりかた」



浮かべたのは、無邪気にも見える笑顔。
その表情からは、先程のセフィロスに似た、けれど異なる違和感を感じる。



「……クラウド」

「ん?どうした。何か変か?」

「……なんでもないから。気にしないで。ね、ユフィ!なんでもないよね」



『いつも』と同じ様子で答えるクラウドに、エアリスは小さく頭を振る。

似ていると思った。
けれど、違う。
本当のあなたは、きっと。

ユフィに目を遣れば、エアリスに小さく頷き、同意したような顔をしてみせる。
だが、やはり気まずいのだろう。
二人に背中を向け、気を紛らわせるように壁画を眺め始めた。
エアリスも、話を逸らすように、辺りを見渡す。



「逃げちゃったね、セフィロス」

「……気にするな。あいつの言ってることはわかった」



言いながら、クラウドは壁画に目を向ける。
描かれた、巨大な隕石。



「これがメテオだな?」

「なんだか知らないけど、ま、メチャクチャなことになりそうだね」

「……魔法ね、これは。セフィロスが言ってたとおり」



あまり理解のできていない様子のユフィだが、言っていることは的を射ている。
エアリスは壁画を読み解いていく。



「究極の破壊魔法メテオ。宇宙をただよっている小さな星を魔法の力で呼びよせるの。そして……衝突。この星、完全に壊れちゃうかも……」



魔法の力で集められた、小さな星々。
それらがひとつの巨大な隕石となり、すべてを破壊する。
古代種が造り出し、封印した究極魔法。
それを、セフィロスは使おうというのか。
セフィロスの言う、星の力を自分のものにすることも、可能となる。
瞬間、地響きと共に床が揺れ始める。
ぱらぱらと降り注ぐ土埃に、吹き抜けの天井を見上げ、クラウドは叫ぶ。



「セフィロスか!!」

「クックックッ……私ではない」



響く声。
同時に、天井から滑空してきた赤い肌のドラゴンが、祭壇の前に着陸した。
吼える声。
侵入者を阻むための仕掛けだったのだろう。
牙を剥くドラゴンに、戦いを避けることは不可能と悟り、クラウドはぐっと剣を握る。
五年前、セフィロスはニブルヘイム付近に現れたドラゴンを、一刀の元に斬り伏せた。
セフィロスに追いつけるよう、追い越せるよう、この旅の中でも鍛錬は欠かさなかった。
吐き出された炎を飛び越え、頭上に振りかざした剣。
ぐっと息を止め、思い切り振り下ろした。





















電話を受け、シスネやレノの忠告に耳を傾けることもなく、ザックスはプレート上部に戻った。
ツォンはミディールで治療を受けており、自分に何が出来るわけでもない。
それでも、ただひたすらに待つことなど、できなかった。
列車を降り、監視カメラのない裏路地を通ってカンセルの家へ向かう。
本社ビルに居るレノの元へ向かうこともできず、携帯の充電が切れる直前に、連絡のつかなかったカンセルの留守電にメッセージを入れた。



「ザックス?」



掛けられた声に、ばっと振り返る。
そこに立っていたのは。



「……サラ?」

「やっぱり!ね、ちょっと来て」

「な、何だよ」

「いいから!」



サラに腕を引かれ、ザックスは裏路地を歩いていく。
しばらく歩いたところでたどり着いた、一軒のアパート。
一階部分がコンビニになっており、脇の階段から二階に上がる。
階に二つある部屋の、奥の扉の鍵を開け、サラはザックスに入るようにと促した。



「なぁ、どうしたんだ?」

「あなた、神羅に見つかったらまずいんでしょ?」

「え、なんで、それ」

「あなたとカンセルの話を聞いてたら、その位、誰だってわかるわよ」



腰に手を当ててそう言うと、携帯を取り出し、電話を掛け始める。
相手はすぐに捕まったのか、サラは金色の髪を軽く耳に掛けると、ひとつ息を吐き出した。



「もしもし?あのね……あ、そう、そのことなんだけど」



落ち着かない様子でいるザックスにちらりと視線を向け、サラは小さく頷く。
大きめのバッグから、購入済みのシールが貼られたパックの牛乳や野菜を取り出し、冷蔵庫に収めながら、電話先と話を続ける。



「そう。学校帰りに、カンセルの家の方に走ってたから、気になって。今、私の家に居るわ。……やだ、しないわよ。……うん、わかった。じゃ、待ってるね」



通話を終え、冷蔵庫の扉を閉じると、バッグから小さいサイズのプリンをひとつ、取り出した。



「カンセルはね、今、本社に呼び出されてるみたい。後で来てくれるみたいだから、甘いものでも食べて落ち着いたら?」

「……あの、さ」

「あ、あと……浮気はするなよ、って言われたわ」



くすくすと笑いながら、プリンと使い捨てのスプーンを差し出すサラに、ザックスは頬を掻き、小さく頷いた。
狭いが整頓された部屋を見回していれば、ソファに座るよう促される。
言われるままに腰を降ろせば、少し離れてサラも腰掛けた。



「学校ってさ、何の勉強してるんだ?」

「うーん…いろいろ、かな。本当はね、弟も学校に行かせてあげたいんだ」

「魔晄炉で働いてる弟さん?」

「うん。私が学校に通えるのも、あの子が働いてるおかげだから。今度はお姉ちゃんががんばらなきゃね」



ぎゅ、と拳を握るサラに、ザックスは小さく笑みを零す。
気立ての良い、優しい女性だ。
カンセルが心を惹かれる理由も、わかる。
だが、重なってしまう。
スラムに咲いた、一輪の花と。
唇を噛み締めても、戻らない過去。
優しさを重いと、痛いと感じてしまうようになったのは、いつの日だったか。
欲したものが失われていく恐怖。
襲い来る無力感に、拳を握り締めた。





















あと少し。
旅の終着点まで。

母とひとつになる瞬間。
それは『私』と同一であり、『わたし』に戻る瞬間なのだ。

求め続けたものが、ようやく手に入る。

恨んでしまった。
憎んでしまった。

きっと、それこそが罪だったのだ。





















【24:痛み続ける癒えない傷】



あきゅろす。
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