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「お前達についていけば宝条に会えるのか?」



地下室を去ろうとしたとき、掛けられた声。
男は、棺の中で眠ることをやめた。
過去の因縁からか、それとも。
同行することになったヴィンセントは、タークス時代、任務の関係でニブル山を訪れたことがあるらしく、無闇に山に入ることを禁じられていたニブルヘイムの子供達よりも道は詳しいと言っていた。
生きては越えられない山。
ニブルヘイムでは昔から、ニブル山はそう呼ばれていた。
魔晄炉が建造されてからは、山道も随分と整備されたものの、モンスターが多く発生する山が危険であることには変わりない。
クラウドやティファも、周りの大人から山に入ることを禁じられ、五年前のあの日まで、数えるほどしかニブル山へ入ったことはなかった。

リユニオン。
ニブル山を越えて、北へ。
お前が自覚するならば。

耳に残る、セフィロスの言葉。
つきり、つきりと頭に伝わる痛み。
セフィロスは、何を目論んでいる?
混乱する頭を振り払うように、ゆっくりと、深く息を吐き出した。





















query






















「…ロケット村、ですか?」

「そうだ。君には私の護衛をしてもらう」



ルーファウスから言い渡された任務。
昔、魔晄事業が本格化する以前に力を注がれていた、宇宙開発事業。
その残骸のロケットが残る村へ、ルーファウスが赴くのだと言う。
護衛任務はこれまでも何度かこなしてきたが、危険な場所へ赴くわけでもない場合、タークスによる護衛が通常は行われるはずだ。
タークスも最近はあちらこちらへと出回っている。
人手が足りないとレノがぼやいていたと思い出しながら、カンセルはひとつ頷いた。



「君が帰還するまでにこちらの準備は整っている。すぐに出発する、装備の確認をしておきたまえ」



一言残し、控えていた秘書に言伝を申し付けると、エアポートへと足を運ぶ。
確認をしておけと言われたものの、与えられた時間はせいぜい一、二分だろう。
剣は背負っている、簡易防具は装着済み、携帯もポケットに入っている。
他に要るものは特にないかと考え、エアポートへと足を向ける。
ロケット村へ向かうのは所用のためと言っていたため、おそらく二日もあれば戻れるだろう。
後でルクシーレに連絡を入れておこう。
思いながら、携帯の電源を落とした。
スキッフにはルーファウスが既に乗り込んでおり、護衛の兵士が一人と、宇宙開発部門統括のパルマーが同乗していた。



「ジュノンに向かい、その後飛空挺にて海洋を渡る。ミッドガルへの帰還は明日の朝八時の予定だ」

「了解です」



扉を閉め、座席に座ってシートベルトを締めれば、書類を眺めていたルーファウスはちらりとカンセルに目を向け、クリップで書類の束を綴じた。



「連絡があるなら、早めに済ませておくといい」

「…誰への、ですか」

「それは君の知る所が大きいと思うが?」

「……そうですね。彼女に、明日の晩飯のリクエストでもしておきますよ」



苦い表情は、上手く隠せていただろうか。
神経をすり減らす、と深く溜息を吐き、カンセルは防音用のヘッドホンを装着した。





















相変わらず、ウォールマーケットの定食屋は財布に優しい。
腹ごしらえも済み、拾い物の工具や螺子を安く買い取り、服などの日用品も多少は揃えた。
あとは武器が有れば文句は無いが、そう贅沢も言っていられない。
クラウドと二人で組む予定だったけれど、一人でも何でも屋はできるだろう。
いつまでもカンセルやレノの世話になるわけにもいかないな、と考えながら、寂れた公園の滑り台に座り、買っておいたファーストフードを齧る。
背後に広がっていたはずの七番街は、アバランチのテロによって崩落したと、スラムの人々は言っていた。
けれど、逆に神羅がわざと崩落させたという噂も流れている。
結局、理解できたのは七番街が崩落し、スラム共々甚大な被害を招いたという事実だけだ。
ファーストフードを食べ終わり、包み紙をくしゃくしゃと丸めながら携帯を開く。
レノからの返信は、まだ、ない。



「……昼間から寝てんのか?あいつ」



つまらなそうに携帯を閉じ、ザックスは軽く頭を掻く。
カンセルは仕事中、ルクシーレも用事があると言っていたきり、まだ連絡は入らない。
久しぶりの一人きりの時間を持て余しながら、あの教会へと向かう。
今は昼時だ、エアリスも食事を摂っている頃だろう。
先に向かい、ワゴンを直しておくか。
思い立ち、ゴミの溢れる屑篭に包み紙を投げ捨てると、ザックスは滑り台から飛び降りた。





















あのひとは、わたしを知ってる。

それは、小さな確信。
セフィロスの産みの親は、ジェノバではない。
けれど、ジェノバ・プロジェクトによって生み出されたことは事実。
ジェノバ・プロジェクトの護衛に携わっていたヴィンセントから聞いた、多くのこと。
それは、クラウドが話していた「五年前にセフィロスが神羅屋敷の地下で知ったこと」と相違ない。
けれど、実際に対面したセフィロスの言葉とは、大きな矛盾がある。
空から来た厄災。
コスモキャニオンで長老から聞いた、セトラの話。

セトラは、わたしだけ。
わたし、ひとりだけ。

わたしにしか、できないこと。
それが、必ずあるのだと。
あんなにも遠く、夢見ていた世界。
今、この足で歩いているという奇跡。
すべてを知りたい。
彼に、こんなにも似ているあなたを。
芽生えているのは、小さな恋心。
託した手紙と、潰えた想い。
決して忘れられない、大切な思い出。
彼を忘れたわけじゃない。
けれど、前へと進みたい。
泣くことしかできない無力な自分と、決別するために。

だから、もう少しだけ。
もう少しだけ、わたしに勇気、わけてほしいの。

いつも勇気を与えてくれた、温かい笑顔。
今でも、ずっと。



「ね、エアリス!あれ、何だと思う?」



ユフィの声に、はっと顔を上げる。
遠くに望む、巨大な何か。
逆光で見えにくいそれは、何らかの建造物だろうか。



「行ってみる?」

「お宝あるかな」

「人のもの、勝手に取っちゃだめよ」

「神羅の物ならいいだろ?」



楽しげに笑うユフィに、肩を竦め。



「だ、め、よ。人のものを盗むっていうことは、ヒジョーによくないことなのよ」

「わかった、わかったってば!盗まないよ!もう…」



腰に手を当てて言うエアリスに、ユフィは慌てて両手を振り、建造物の方へと走って行く。
何年も前に、彼が盗みを働く子供に叱りつけた言葉。



「…やっぱり、ふしぎ」



小さく笑みを零し、空を仰ぎ見る。
どこかで、彼が笑ったような気がして。
空に向かい、微笑み返した。





















目覚まし時計代わりに鳴らせた携帯のアラームに、慌てて跳び起きる。
拍子にベッドから転がり落ち、背中を強かに打ちつけ、レノは深く息を吐いた。
アラームを止めれば、午前十時を回った頃。
結局二時間程しか仮眠も取れず、出発まではあと三十分もない。
メールが三件届いていたが、急な用なら電話が入るはずだと高を括り、慌しくシャワールームへ向かう。
蛇口を捻れば、まだ冷たい水が頭上から降り注ぎ、寝惚けた頭を冷ましていく。
今頃、ルーファウスはジュノンから飛空挺に乗っている頃だろう。
ロケット村に着くまでに、あと五時間ほどか。
それまでに調査を開始しろとは、社長もかなりの無茶を言う。
荷物は、今朝帰ってきた時のままで大丈夫だろう。
スキッフが発ってから、交替にジュノンからエアポートにゲルニカが来ているはずだ。
それに乗り込み、大陸を渡る。
シャワーを終えると、タオルで軽く体を拭い、シャツに腕を通す。
冷蔵庫に入ったままのペットボトルを取り出し、水を飲み干した。
朝食は、購買で買って移動中に食べるしかないだろう。
ベッドサイドに置いた、ザックスと揃いの髪留め。
後で連絡を入れてみるかと息を吐き、ぱちんと濡れたままの髪を纏めた。
昨晩聞いたザックスの声は、どこか元気がないものだった。
古代種の神殿の調査を終えたら、そのまま二日間の休暇に入る。
休暇と言いつつも、かつてウォールマーケットを仕切っていた、そして今は神羅の機密を漏らしたことにより手配対象となっているドン・コルネオが潜伏しているというウータイへの派遣である。
だが、あくまで不確かな情報である以上、コルネオが姿を現さなければ捕縛は治安維持部門の仕事だ。
ザックスに約束した土産でも買って帰るかと考えながら、財布の中身を確認する。
給料日までは半月あるが、今月は社用の出費が多かったせいか、残金は多い。
カードも入れてある、おそらく土産代に困ることはないだろう。
プレゼントで機嫌を取るなど、女か子供を相手にする時のようだと思いながら、子供のようなものかと頭を掻いた。
充電器に差したままの携帯を外し、ポケットに押し込む。
時計を見れば、集合時間まであと十五分。
机の上に投げ出されたバイクのキーを手に取り、ジャケットを羽織って玄関へと歩き出した。





















始まりと終わりの場所。
幸せな日々の終焉。
憎しみの日々の始まり。
それは、クラウドやティファだけの話ではない。
セフィロスも、同じだ。
あの場所から、全てが始まったのだ。



「錆付いたロケット……何のために、こんな巨大なものが…?」



ニブル山を越え、辿り着いたのはロケット村と呼ばれる場所。
村人の話を聞けば、この村は神羅の宇宙開発事業に携わる技術者達が集まって出来たのだという。
ある事情により打ち上げに失敗したロケットが残るこの村では、宇宙開発事業の再開を夢見る技師たちが、今でもロケットの整備や航空事業に携わっているのだ。



「艦長って人がいちばんえらいんだよね?」

「らしいな」

「ね、あれ見て!」



ユフィが指差した先、見えたもの。
神羅のロゴの入った、小型の飛行機。



「タイニー・ブロンコか……いいな、これ」



ぽつりと呟くクラウドに、ユフィはきらきらと目を輝かせる。



「クラウド、盗もうよ!神羅の物盗むのは大好きなんだ!」

「ユーフィっ」

「う、わ、わかってる!わかってるよ!」



唇を尖らせるエアリスに、ユフィは誤魔化すような笑みを浮かべ、慌ててクラウドの背に隠れた。



「あの……何か?」



掛けられた声に振り返れば、眼鏡を掛け、白衣を着た女性が立っていた。
神羅のメカニックだろうか。
思いながら、言葉を選ぶ。



「いや、何でもないんだ。見せてもらっていただけだ」

「……もしそれが使いたいなら艦長に聞いて下さい。艦長はきっと、ロケットのところにいると思います」



彼女の口振りから察するに、このタイニー・ブロンコは艦長の所有物らしい。
神羅との関わりはあっても、自分たちを追う連中とは関係はなさそうだ。
クラウドが考えながら目を上げれば、視線が合い、女性は緩く微笑んだ。



「私、シエラといいます。あなたたちは?」

「俺はクラウドだ」

「アタシ、ユフィ!」

「わたし、エアリス」

「はぁ…… 神羅の人たちじゃないんですね」



少し残念そうに言い、シエラと名乗った女性は視線を落とした。



「私、宇宙開発再開の知らせがきたのかと思って…」



シエラの言葉に、クラウドは目を見開く。
宇宙開発。
神羅が、随分と前に中止した計画だ。
その再開の知らせに、神羅の人間が来る。
神羅も、セフィロスを追っている。
ニブル山を越えた、この地点。
何らかの情報が掴める可能性もある。



「新社長のルーファウスさんがここへいらっしゃるそうなんです。艦長は朝からそわそわしてますわ」

「ルーファウスが…!」



エアポートでの一戦を思い返し、拳を握る。
セフィロスを追う旅の始まりも、エアリスが古代種のことを知ろうとする切っ掛けも、あの日のことだ。



「アタシ、お金にもマテリアにもならない戦いはごめんだよ」



緊張した面持ちのクラウドに、ユフィは頭の後ろで腕を組み、背を向けて村の方へと歩きだした。
ユフィを見てくると言い、エアリスもそれに続く。
二人を見送り、シエラに艦長の話を聞くと、クラウドもその場を後にした。
ルーファウス神羅が、この村に。
今回に限っては、下手な騒動は起こさないほうが身の為だろう。
北に向かうには、悔しいが神羅の技術が必要だ。
今は、艦長にタイニー・ブロンコの貸し出しの許可を貰えれば、それでいい。
背負った剣を確かめ、深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。





















崩れた柱、壊れた屋根。
割れ、剥がれた床から覗く土。
咲く花は、五年前と変わりない。
隅に置かれた花売りワゴンは、埃を被らないようにと布を掛けられていた。
仕入れた工具で修理をし、補強もしておいた。
これで、スラムの悪路を歩いてもそうそう簡単に壊れることはないだろう。
あとは、エアリスが来るか、ルクシーレからの連絡を待つだけだ。
床に転がり、僅かに覗く空を見上げる。
空が恐いと、彼女は言っていた。
もう、恐がっていないだろうか。
それとも、まだ吸い込まれてしまいそうだと怯えているだろうか。
ぼんやりと眺めていれば、ギィ、と扉が開く音がする。
軋む床、軽い靴音。
慌てて飛び起きれば、歩み寄るのは。
ふわふわと揺れる、胡桃色の髪。
黒と白を基調とした服は相変わらずだけれど、見慣れたスーツではなく。



「ここ、いい所ね。古代種のあの子、いつもここに居たんでしょ?」



ザックスの前で立ち止まり、まだ冷たい缶コーヒーを差し出し、彼女は笑う。
それを受け取り、ひとつ礼を言うと、ザックスは笑みを零した。



「生きてたんだ」

「あなたの言うこと?」

「……久しぶり、シスネ」



呼べば、シスネは口元を押さえて小さく笑い、ザックスの隣に腰を降ろした。
缶を開け、半分ほど飲んで、膝を立ててザックスはひとつ息を吐く。



「私服姿なんて、コスタでの休暇以来だな」

「最近はずっとこうよ。タークスの制服に袖を通す必要がなくなったんだもの」

「似合ってるぜ」

「当たり前よ、ちゃんと自分に似合うものを買ってるわ」



弛んだソックスを直しながら言うシスネに、それはそうだと相槌を打つ。
シスネも、神羅に「消された」のか。
それとも。



「それ、レノとお揃い?」

「あ?」

「髪留め。伸ばしてるの?」



膝に肘を乗せて頬杖をつき、くすくすと笑うシスネ。
後ろの髪をいじりながら、ザックスは何度か頷いた。



「なんとなく。んで、レノに会ってさ、同じ奴、もらった」

「そう」

「なんだよ、話振っといて」



唇を尖らせてザックスが言えば、シスネは楽しそうに笑顔を浮かべる。
最後の再会は、敵同士だった。
シスネは、神羅の犬。
ザックスは、脱走したサンプル。
ジェネシスを追っていた時と、真逆の構図。
追う者から、追われる者へと変わった立場。



「…俺が生きてたこと、驚かないんだな」

「えぇ。ツォンから連絡があったもの」

「そっか」



素っ気無い会話。
残った半分のコーヒーを飲み干し、空の缶をからからと振る。
おかわりはないと言うシスネに、そんなんじゃないと肩を竦めた。



「あの子は来ないわよ」

「エアリスが?何でだ?」

「今は、クラウド・ストライフと行動してる。七番街プレートの崩落は知ってるかしら」



シスネの言葉に、曖昧に頷く。
つい先程、ウォールマーケットで仕入れた情報。
真実はわからないが、崩落の事実だけはこの目で見ている。



「崩落の時に、ツォンが保護したのよ。彼女、アバランチに属してたクラウドと一緒に行動してたからね」

「ツォンが保護して、なんで今はクラウドと?」

「宝条の実験サンプルにされかけたところを、乗り込んできたアバランチ達に助け出されたのよ。ルードに捕まったらしいけどね」



シスネが手に入れた情報は、すべてツォンから様々な手段で流されたものだ。
ザックスの生存情報こそ緊急のためにイリーナから連絡を入れさせたが、急を要しなければタークスだけが知る連絡手段など、いくらでもあるのだ。



「その後、セフィロスが神羅ビルに現れて、プレジデント神羅を殺害した」

「その時にクラウドと一緒に脱出した、って訳か」

「そうね。コスモキャニオンに寄ったっていう情報もあるから、古代種について、色々と知りたいんじゃないかしら」

「…もう、空は恐くないんだな」



膝を抱え、真上に広がる狭い空を見上げる。
吸い込まれてしまいそうだと。
恐いと言っていた彼女が、今では広い空の下を旅している。
セトラが、約束の地を捜し求めるように。



「…なぁ、シスネ」

「今は『シスネ』じゃないわ。スラムでは『ラン』って呼ばれてる」

「それも、本当の名前じゃないのか?」

「そうよ」



頭を掻いて眉間に皺を寄せるザックスを横目に、シスネは立ち上がり、くるりと踵を返す。



「今までどおり、『シスネ』でいいわ」



すっと伸ばされた手。
握り返し、微笑んだ。



「これからもよろしくな」

「えぇ」



笑い合ったところで、掛かってきた電話。
名前は、見慣れた後輩のもの。



「ルクシーレか?」

『すみません、遅くなりました!今、伍番街スラムの駅に着きました!』

「そっか。俺、伍番街スラムの教会に居るから、今からそっちに向かうよ」

『わかりました。じゃ、お待ちしてますね』



短い会話。
ぷつりと切れた電話を閉じ、立ち上がる。



「悪いな、俺、行かなきゃ」

「どうぞ元気で。捕まらないようにね」

「シスネもな」



歩き出そうとした時、すっと差し出された紙切れ。
受け取れば、小さく書かれていた番号と、メールアドレス。



「私の力が必要なら、いつでも言って」

「ん、さんきゅ」



礼を言い、足早に教会を後にする。
ほんのひとときの再会。
けれど、僅かでも。
失った時間を、取り戻していく感覚。
失ったものは多く、取り返せないものも数え切れないほどにある。
それでも少しずつ、確かに。
もう一度、歩き出しているのだ。
廃材の山を飛び越え、駅の方へと向かう。



「…久しぶりだな、ミッドガル」



ぽつりと呟き、枯れた大地に飛び降りた。





















風を切り裂き、飛び抜けるハイウインド。
軍事用ではないため、武装は整っていないものの、飛行速度については他の航空機よりも群を抜いて優れている。
ロケット村までも、もうそれほどかからないだろう。
会議室でパソコンを打つルーファウスを入口から眺めながら、カンセルは緊張を解すため、ひとつ息を吐いた。



「カンセル」

「は、はいっ?」

「君は『約束の地』をどのような場所だと考える?」



ルーファウスの唐突な言動には慣れたものの、向けられた質問に難なく答えられるほどに器用ではない。
約束の地。
以前護衛の際に聞いた神羅の重役たちの会話から、必死に記憶を手繰る。



「……えっと、魔晄エネルギーの豊富な…」

「君の意見を述べたまえ」



さらりと流され、カンセルはぐっと声を詰まらせる。
約束の地とは、プレジデント神羅が魔晄の豊富な土地と考え、その地にネオ・ミッドガルを建設しようと目論んでいた場所だ。
それ以外に、知る所はない。



「約束の地って、そもそも何なんですか?」

「辛く厳しい旅の果て、約束の地を知り、至上の幸福を見つける……セトラに伝わる伝承だそうだ」



エアリスが神羅ビルに囚われている間に、宝条やツォンが聞き出した情報。
その意味は、エアリス自身も知らないと言った。



「…死に場所、ですかね」



ぽつりと呟いたカンセルに、ルーファウスはぴたりとキーボードを打つ手を止める。



「旅の果てに必ず辿り着くのは、避けられない死だ」

「……ほう」

「好きな景色、好きな人の隣……そこで最期を迎えられるなら、それは至上の幸福じゃないんですかね」



『ザックスの死』。
それから、ずっと考えていた。
ザックスは、最期まで笑っていたのだろうか。
辛いことも、悲しいことも、すべてを背負いながら、笑っていられたのだろうか。
せめて、最期が幸せであったのなら。
どれほど祈っても、過去へ願いは届かない。



「…興味深い考えだな。参考にしよう」



一言告げると、またルーファウスはパソコンに向かう。
約束の地とは、何であるのか。
セフィロスは、何を望んでいるのか。
ザックスは、何故生かされているのか。
サンプルB――クラウドは、何を求めているのか。
わからないことが、あまりにも多すぎて。
思考の纏まらない頭をすっきりさせようと、深く息を吐き、両手で頬をぱん、と打った。





















はやくきて。

決して来ないで。

このてのなかに。

この腕の中に。

ないてみせて。

笑っていて。

むかしのように。

昔のように。

とけあうこころ。

融け合う思考。

融け行く記憶。

きえゆくおもい。

早くこの手に。

はやくどこかに。

再びの契りを。




にげて、にげて。





















【15:小さな、数多の疑問たち】



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