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傷んだ毛先










「お前、伸びたな」

久しぶりに会った。阿散井くんに言われた。

「あー、髪?しばらくだねえ」
「触って無ぇだろ、コレ」

ぼさぼさに、伸びきった髪を摘んで見せる。
邪魔ではないけれど、印象は変わったと思う。
金色が靡いた。

「うん…切りたい?」
「いや、」

いいんじゃねぇの、と彼は笑う。
彼自身も、あまり髪には気を遣わないらしい。
ここ最近は、忙しいので尚更だ。



彼はこう見えて、意外と面倒見が良い。
院生時代は、それなりに身なりに気を遣っていたし、お互いに髪やら何やらを弄りあっていた。
今でこそ、その機会はないけれど。

「長さは、気になんねぇな、…ただ、」


さらりと毛先を摘んで
あーあ、と溜息をついて見せた

「傷んだな。…勿体無ェ」
「そう?フツーだと思うけど」

くしゃ、と髪を乱されても、僕は特に気にしない。
確かに、以前に比べて、大分手を掛けている暇がなくなってしまった。



自嘲気味に笑う。


『見せる人が、居なくなったから』



そんな風に言えば、きっと彼は困るだろう。
不器用だけど、馬鹿、とか、そんなことを言って僕を気にしてくれると思う。

彼のそういうところが好きだけれど、面倒くさくて言うのを辞めた。
言おうなんて、思ってもいなかったけれど、


そう考えてしまうのは、僕が意地悪だからかな



「じゃあ、またな」
「うん、またね」

ぽん、と頭に手を置いて、阿散井くんはすれ違う。
手の平の温もりが心地よかった。


傷んだ毛先が物語る。
あの人がいなくなってからの、月日を、

思い出を失いそうな気がして、毛先の数センチも切れない僕。

弱虫な僕。








'090621














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