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深い海の底までついてきて
そう、例えるなら海のそこ。
深い深いにびいろを称えて、据えた目を見せる色。
例えるならなに、か、を訊かれて市丸は言葉を詰まらせた。
いたい。
こころがいたい、なんて、あの子はそう言っていたけれど、そんな莫迦げたはなしが、と笑って済ませていた。
あの子を例えるならなにか、を、そんな、ただそんな答えに詰まっただけで、息ぐるしく、なる。
「うみ」
ボクがやっとそう答えたとき、かれは笑っただけだった。
例えるなら、海だ。
市丸は多くを語らない男だ。きっと、僕が問うても、市丸はそれ以上を言うことはないだろう。
僕は、ただ、市丸の真意を把握したように、そう、と笑うだけだった。
海。
この世界には、おおよそ、海原と呼べるものがない。
あるのは、泥溜まりと、血の、海、と、僅かな水源。
しかし、現世のそれとは違い、透明で透き通っている、なんてことはない。薄く海老茶に濁った、場所だ。
市丸はかれを『うみ』に喩えた。
大した理由もないくせに、明確な意思を持って。
喩えるなら、うみのそこ。
深い蒼が、侘びしく光をたたえる。
彼に、溺れ死んでしまえたら、楽だろうなあ、
市丸は、カラカラと笑った。
あれが、うみだとして、ボクはそれに溺れてしねる。
なぁ、なんて、そう、うつくしいんやろう?
な?藍染さん、
市丸は知っているのだろう。
うみのそこは深い。
深くて、光が届かない。だからとても暗いのだと。
『 』、『 』、『 』。
市丸の唇が象った。
彼の名を呼んだ。
海のそこは暗くて深い。
けれども、それに溺れて見たいと嗤う。
(0730)
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