_
嘘を吐いたのは愚かな僕
「おまえなんかきらいや」
堪えられなかった。堪えられなかった、のだ。真っ直ぐに見つめてくる瞳。深い蒼の其れに奪われてしまいそうやった。
「どうしてですか」
そう言うイヅルの声は震えとった。酷く傷ついた顔をして、顔を歪ませて、詰まりながらそう零した。
「やって…」
思わず口を付いて出た。なんて言い訳染みているんだろう、と思う。
だって、何?
ボクがイヅルを嫌いな理由。明確なもんなんかないよ、多分。
「お前のその蒼い瞳が」
「いつも綺麗だと仰ってくださった」
「お前の太陽みたいな金糸の髪が」
「あなたとお揃いだと撫でてくださった」
「お前のその、」
「目も鼻も口も声も、すべてあなたのものだと仰ったじゃありませんか」
イヅルは、とても悲しそうに、肩を震わせた。
ひく、と嗚咽が聞こえる。
それが、酷く、ひどくボクの胸の辺りをきゅうと締め付けるものだから、ボクはつい…イヅルの頬をぶった。
いきなしやったし、イヅルは、わけがわからん、言う顔しとった。
2、3歩よろけて、目に涙を溜めて、叩かれた頬だけが、赤く腫れている。
ぱくぱくと、何かを言いたそうに口を動かしたが、声にはならずについに口を閉ざした。
ぎゅう、さっきより、きつく胸が痛む。
「何やその目ェ、言いたいコトあるんやった言い。そないな目で睨まれたかて気分悪いだけやわ」
ハッ、と、吐き捨てるようにしてこぼしてしまうのはいつもの癖で。
イヅルは、ぎゅ、と唇を引き結んで、…そして、口を開いた。
「……愛してください」
「は、」
あいシて?
「あなたは言った。『ボクがお前を嫌いになる時は、お前が傷付く道を選べない時だ。ただ、それは、ボクが本当にお前を愛していない時。もし仮に、本当にボクがお前を愛したら、…その時は、きっとボクはおまえを殺すよ』
ッ……だから僕は、……あなたに、殺されるのだと思っていた、から」
(愛されていると自信があった)
「こんなのは、いやだ」
(何故?)
「……何、」
どうして目の前のこの子は泣いている?
誰のせい?
ぼくの?
僕の?
ボク、の?
「愛してください、愛して、あなたの…手で、」
こ
ろ
し
て
イヅルの唇が、象る。音になることはなかったけれど、ボクは、確かにそれを読み取った。
そして、それを聞いて、ひどく、……かなしかった、のだ。
「……お前なんか、」
いっそ、要らない、と吐き捨てて、
嗚呼、この手に抱く温もりの今は何か。
(0715)
[管理]
無料HPエムペ!