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今日はペンギンに会いにいこうと意気込んで船を出た。
気温はまだ十度を下回っているし、風も強いまま。
寒さに慣れきれない身体はすぐに冷えてしまうからストールを肩にかけて、通い慣れた道を進む。

ふわり、と目の前で白が舞った。
足を止めて空を見上げれば、次から次へと降ってきて、風に煽られながら地面に落ちる。
土に触れてもなお形を保とうとしているそれは周囲の気温をぐっと下げた。
少し大股で目的地に向かう。
早くペンギンに会いたい、抱きしめたい。
どうせ暖を取るなら一人より二人がいい。


「ペンギン…?」

ぴたりと足が止まった。
止まった理由は言わずもがな、会いたい人に出会えた他ないのだけれど、まさかこんな形で出くわす予定はなかった。
こんな寒い日に木の下でうずくまっているなんて。

「ペンギン、ペンギン!」

慌てて駆け寄って顔を覗き込めば、すうすうと人の気も知らないで寝息をたてていた。
眉間に皺もなく、いつもより幾分幼く見える寝顔は珍しいのだけれど、何も外で寝ることはないのではないか。
しかもツナギは腰で止められているし、上はタンクトップ一枚。
防寒帽までずれている。
そんな寒そうな格好で寝入っている彼は鳥肌一つもなく、さも当たり前のように積もり始めた雪の上で気持ち良さそうに寝ている。
そんな姿に溜息しか出ず、とりあえず持っていたストールをかけてやり、軽く肩を揺すってやる。
すぐ睫毛が揺れ、ゆっくりと瞼を上げたペンギンはちらりとおれを横目で見た。
もそもそと起き上がったかと思うと、欠伸を一つ零しておれに焦点が合わされた。

「キラー、何かあったか?」

寝起き特有のまどろんだ声からして、ペンギンは自分が寝入っていたことに疑問はないらしい。
こちらとしてはペンギンが雪の中に埋もれていた時冷や冷やしたというのに。

「どうしてこんなところに」

「ん?桜が咲いていたから」

お前と見ようかと思って、なんて静かに笑うペンギンはやっぱり綺麗で、見とれてしまった。
惚れ直すとはこのことなのだろう、言ったら照れ隠しに平手打ちが待っているだろうから言わないが。
ぶわりといっそう強い風が吹いて、おれの髪とペンギンの帽子が揺れる。

「北風が、」
「春一番だな」

重なった声にペンギンを見れば、また珍しく嬉しそうな顔をして、防寒帽が飛ばされないように押さえていた。
ばさばさと無造作に靡く自分の髪の隙間から見えるペンギンと雪には不釣り合いな風の名前は、どうしてかしっくりときてしまって否定が出来ない。
風が納まってからも動き出すことは出来ず、瞬きを二度して視界をクリアにすることしか許されなかった。

「髪に花びらが付いてる」

伸ばされた手は俺の耳元で髪を梳くような動作をして離れた。
ペンギンの白い親指と人差し指に挟まれたそれは、俺の掌に大事そうに置かれた。
確かに、ペンギンが言うようにそこには花びらがあって、さっきの風の名前が頭の中で何度も復唱される。

春一番、はるいちばん。
春を告げる、ぬくもりの風。

「ペンギンは、もう暖かいと感じるのか」

花びらを見ながらぽつりと呟けば、そうだなと落ち着いた声が返ってくる。
ペンギンにとって今日は暖かい日に分類されるらしい。
おれからすれば今日は寒い日だとはっきり断言出来るのに。

「キラーは、まだ寒いと感じるんだな」

ふわりふわりと流れる雪とひらりひらりと踊る桜と、どうしてこんなにも感じることが違うのか。
いつかペンギンの考えがおれに、おれの考えがペンギンに、伝わる時がくるのだろうか。
いつか、同じことを考える日がくるだろうか。











今日という日の相違点
(今は君の考えを知れるだけで嬉しいけれど)











キラーとペンギンは考えに少しだけズレがあるといい

桜と雪のリアタイに反応してくださった某様にこっそり捧げます(RKちゃんは私なのかどうか凄く不安ですが…)


あきゅろす。
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