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「…なんだこれ」

昨日からずっと雪が降っていて、キッドもおれも外に出ることを躊躇っていたのだが、なんとも珍しくあのペンギンから船へ来ないかと聞かれて二つ返事で約束してしまった。
浮かれていたおれは雪など気にすることもなく、ハートの海賊団の船に来たわけだ。
甲板に乗り込んだところで出会ったのは白熊だった。
いや、喋る白熊ではなく、それに似た雪の白熊。
確か、そうベポとかいうあの船員に似せたであろう雪の塊。
しかもなぜだかやたらとでかい。
座った姿勢のそれはおれの身長の倍はある。
甲板は綺麗に雪掻きされていて、木板が見えているのにたった一つの雪の塊が見事にすべてを壊している。
これこそハートの海賊団らしいのかもしれないが。

雪の白熊を通り過ぎ、ペンギンの部屋のドアをノックしてノブを回すと、またもや白熊がいた。
これもまた喋る白熊ではなく、ぬいぐるみだった。
大きさが抱き枕ほどある白熊のぬいぐるみをベットに座る形でペンギンは膝に乗せていた。

「早かったな」

室内だからかトレードマークともいえる帽子を脱いでいるペンギンは小首を傾げるようにおれを見た。
この角度から見るペンギン可愛い、なんて頭に過ぎったが、声に出すわけにもいかず、黙ってペンギンの隣に座った。
仮面を外してもう一度ペンギンを見ると、ペンギンの膝の上に悠々といるぬいぐるみが視界に入る。
しかも背中がガバリと開いていて、うっかり動きを止めてしまった。

「今綿を詰め終わったところなんだ」

後は背中を縫えば完成だと見越したように言うペンギンとぬいぐるみを交互に見る。

「ペンギンが作ったのか」

ああ、と短く答えたペンギンは凄く幸せそうに微笑んで、それはきっと敬愛する彼の船長に向けられているのだろう。
そんなことで嫉妬するおれではないが、今回はペンギンから誘ってきたのだから、もう少し構ってくれてもいいのではないか。
部屋に入れてくれただけで気を許してくれていることは重々理解しているが、やはりもう少しだけでいいからおれを視界に入れてほしい。

「外の白熊もペンギンが作ったのか?」

「あれは船長が起きてくる前に船員全員で作った」

会話は続くものの、視線はこちらを向くことはなく、器用にぬいぐるみの背中を縫っていく。
真剣な表情のペンギンはなんとも凛々しく、見とれてしまうのも仕方がないだろう。
時折瞬きする瞳は黒く見える。
本当は限りなく濃い赤色で、俯き加減の今は影が落ちているため確認することが出来ない。
早くこちらを向いてほしい。

「これで、終わり」

糸切り鋏でぷつりと切られた糸は力無くだらりと針にぶら下がっていて、ペンギンはそれを気にすることなく裁縫箱に仕舞った。
機会を伺っていたおれは裁縫箱が閉められた瞬間、ペンギンに抱き着いた。
うわぁ、とあまり聞けないペンギンの慌てた声に奇襲が成功して満足する。
どさりとそのままベットに転がったが、さっきの声とは裏腹に、危ないだろうと落ち着いた声で注意された。
どうやらこのままベットインとはいかないらしい。
おれの腕からいとも簡単に抜け出したペンギンはぬいぐるみを椅子に座らせ、引き出しを漁り始めた。
まだ構ってくれないのだろうかと腰にへばり付いてみれば、苦笑と共に頭を撫でられた。
機嫌はいいみたいだ。

「そういえば、キラーは寒いの苦手じゃなかったか?」

「ん?ああ、寒さはなかなか慣れないな」

ぎゅうと腕に力を入れるとまた苦笑された。
ほら離してと腕を優しく叩かれ、素直に離す。

「これ、毛糸が余ったから作ってみた」

首に巻かれたふんわりとした感触に瞬きを一つして、ペンギンを見る。
一瞬目が合ったがすぐに反らされて、瞳が右に動けば光がそれを追っていく。
きらり、と瞬いた眩しさがおれの好きな赤色を透かす。
ああ、これはペンギンの色。
ペンギンの視線は宙をさ迷った後、おれに合わされることはなく静かに閉じられた。
これはペンギンが恥ずかしいと思った時にする癖だ。
首に巻かれた“毛糸の余り”に視線を移すが、長さからして余りなどというものではない。
おれのために作ってくれたのだと自惚れててもいいだろうか。

「…ペンギン、ありがとう」

ゆっくりと瞼を開けるペンギンの唇に自分のそれを押し当てる。
ぱっちりと目を見開いたペンギンと視線を絡ませて、小さな音と共に離れた。
怒られるかと思ったが、ペンギンは顔を赤らめて手で口を押さえるたげだった。











君のぬくもり
(愛してるって伝えたい)











キラーとペンギンは見えないところでいちゃいちゃしてる


あきゅろす。
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