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おれはただ甲板で休憩していた。

暖かい日の光と心地良い海風はいつの間にか眠気を呼んで、どうやら寝ていたらしい。
ふわふわとした感覚が頭を支配する中、何やら違和感を感じる。
右側のふとももの上、それから胸板と右肩も重たい。
重たいと言っても酒樽の冷たい重みでもなければ、砲弾の硬い重みでもない。
例えるなら、そう、あの人の重さだ。
うっすらと目を開ければ、そこには予想通りの人がいた。

「船長…」

しかも寝てる。
ぐっすり寝ているわけでもないだろうが、どうにも起こしにくい。
それから、周りの視線も。

「船長寝ちゃった?」

ひょっこりと二階から影が落ちて、上を見る。
そこにはサングラスだけをかけたシャチがいた。
そういえば帽子に水がかかったから乾かすとか言ってた気もする。
手摺りに足をかけ、二階から飛び降りたシャチは、音もなく着地した。
手には出来立てだろうクッキーが盛ってある皿を持っている。

「コックがクッキー焼いてくれたのに」

食べる?と勧められたので、一枚手に取って口に放り込んだ。
ふわり、と紅茶の風味が口に広がる。
甘さ控えめなところをみると、これは船長用に焼いたものだとわかる。
糖分というものを脳を働かせるためだけに摂取する船長は甘いものが苦手だ。
だから自然とデザートなどの甘いものは、船長用と他の船員用とでニ種類作られるようになった。


「んー…」

小さく唸りながら、もそもそと身じろいだ。
もちろん、ふとももの上に乗っている船長の話。
どうやら直射日光が眩しいかったらしい。
ゆっくりとあやすように頭を撫でてやると、肩に顔を押し付けられた。

「うー…」

「あーだとかうーだとか言ってないで、そろそろ起きてくれ船長」

「あーとは、いってない」

まだ夢うつつのくせに、人の揚げ足だけはしっかり取っていくところは相変わらず健在らしい。
まだ呂律は回りきっていないが。
おれの肩から顔を上げたあと、頭を前後に揺らしながら目を擦り始めた。
それから小さな欠伸を一つ。

「シャチ、水を一杯持ってきてくれ」

シャチはおれの言葉に気前良く、りょーかい!と笑って厨房に走っていった。
船長は一つ伸びをして、またおれの肩にもたれてきた。

「寝るのか」

「シャチが帰ってくるまで」

ごろごろと人の上でまどろむ船長は、まったく遠慮を知らない。
気を使われたら使われたで気味が悪いのだが。

「まるで猫だな」

気まぐれで自由でプライドが高い甘えん坊。
上品に振る舞っていると思えば、見え隠れする肉食獣の闘争心。
家猫というより食料をくれる鴨を見つけて優雅に暮らしているボス猫だろうか。
寝床もあってブラッシングまでされているんじゃないだろうか。
首輪だけは付けさせないとか。
船長らしい。

「にゃあ」

下から聞こえた声に視線を向ければ、にたりと笑う船長がいた。

「にゃあ」

もう一度。
今度はおれの首に沿って指を滑らせるというオプション付きで。
低いような高いような、独特の音域で発せられる鳴き声は、猫が鳴く意味を遥かに越えたものを含んでいる。
なるほど、おれがあんたに飯を食わせる鴨なわけか。

「にゃあー」

間延びした声で呼ばれ、頬擦りをされる。
仕方なしに喉を撫で上げれば、ごろごろと喉が鳴った気がした。


「…何してんすか」

目の前にはいつの間にか戻ってきたシャチがいた。
片手には汗をかいたグラスを持って。

「ねこごっこ」

船長は目を細めて楽しそうに笑いながら言った。
実際楽しいのだろう。
この遊びの発端はおれの一言が原因なのだから最後まで付き合うべきだろう。
いまだおれの上で好き勝手している船長はシャチを呼び付ける。
グラスを受け取り、一口飲んだあと、お前も鳴けとシャチに無茶振りをする。
え、と声を漏らしたシャチは助けを呼ぶようにおれを見た。
どちらかといえばおれも助けてほしいのだが、とアイコンタクトを送る。
シャチは少し考えたあと、おれの隣に腰かけた。
どうやら最後まで付き合ってくれるらしい。


「…にゃー」

ぽつりと隣から聞こえた声に、おれも船長も視線を向ける。
そこには体育座りをして顔を埋めているシャチがいた。
耳が赤いところ見て、相当恥ずかしかったらしい。
それならやらなければいいのに。
そんなところがシャチトらしいのだが。


「にゃあ」
「にゃー」

二匹の猫はどうやらご機嫌らしく、おれはもうしばらく動けそうにない。











昼下がり
(猫のようにごろごろと)











結局甘やかすペンギンさん


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