衝動的にハートの海賊団の船に向かった。
だというのに、堂々と船までやってきたというのに、誰一人出迎える奴はいなかった。
普段なら誰かしら甲板にいて、ユースタスがまた来やがったなどと悪態をついてくるにも関わらず、今日はまったく気配を感じなかった。
船に上がり込んでも、やはり人はいそうにない。
「無人か?不用心だな…っ!」
空気の流れを感じ取り、咄嗟に一歩下がった。
ズバンッとさっきまで自分がいた場所に小刀が突き刺さった。
上を向けば見張り台に人影がいることに気付く。
「何しやがる!」
叫んでみれば、その人影が動き、こちらを見下ろしているのがわかる。
そこにいる。
空気のように気配なくそこに、殺気も放たず小刀を投げた奴が確かにいる。
そんな奴、おれは一人しか知らない。
ゆっくりとした動作で見張り台から飛び降りてきた人影は、奇妙なことにたいした音もたてずに甲板に突き刺さった小刀の隣に着地した。
聞こえた音としては、奴の靴の踵が小さくこつりと甲板の木板に当たった音だけだった。
「なんだ、ユースタスだったか」
悪びれる様子もなく、あっけにからんといった表情で言葉を発したのは今し方目の前に現れたペンギンだった。
なんとも、拍子抜けする台詞だ。
「てめぇは人が訪ねてきたら誰それ構わず小刀をぶっ放すのか」
「いや、今日はたまたまだ」
罪悪感など更々感じていないらしく、何か用かと呑気に聞いてきた。
どこまでもマイペースなペンギンは小刀に歯毀れがないか確認してから鞘に戻した。
「船長はベポと買物に行ったから夕方まで帰ってこないぞ」
まだ何も聞いていないというのに、勝手に答えるペンギンの声を聞きながら辺りを見渡した。
初めに感じた人気のなさからしてもどうやら他の船員も出かけているらしい。
と、いうことは、ここにはペンギンとおれだけ。
おれが物思いにふけっていると、ペンギンは見張り台に戻ろうと梯子に手をかけた。
ペンギンがちょうど梯子の一段目に足を乗せたところで、おれは咄嗟に腕を掴んだ。
自然と振り向いたペンギンに触れるだけのキスをすれば、ペンギンは一度だけ瞬きをして梯子を下りた。
感情の有無を感じさせない表情はいつも通りで、それに慣れているおれは気にせずもう一度キスをした。
「どうした」
まったくもって素っ気ない言葉は、ペンギン自身がおれの行動に疑問を持っていない証拠。
おれもまた、何でもねぇよと素っ気なく返して抱きしめてみれば、そうかと耳元でまた素っ気ない返事が返ってきた。
お伽話のような
(そんな恋は出来そうにない)
淡泊過ぎて恋人ぽくない二人
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