[携帯モード] [URL送信]



学パロ注意




学校はだるい。
朝の八時半までに学校に行くのも、五十分の授業を六時間分受けるのも、うるせぇセンコーも、全部だりぃ。
それでもまぁ、放課後になればあとは自由なわけで、おれは帰ろうか、帰らまいか考えているわけだ。
普段ならチャイムと同時に鞄を引っ提げてゲーセンなんかに寄り道しながら、家帰ってゲームでもするんだが、今日はどうも気が乗らない。
それもこれも全部前の席にいるトラファルガーのせいだ。

「ユースタス屋、帰らねぇの?」

さっきまで鞄の中や机の中を漁っていたトラファルガーは、突然後ろを振り返った。
目が合いそうになって、慌てて周りを見れば、いつの間にか教室にはおれとトラファルガーしかいなかった。
そんなことはお構いなしのトラファルガーは不健康そうな肌と、目の下の隈と、色の悪い唇と、ひょろい身体で。
両耳に二つずつある金色のピアスと黄色いパーカー、暑そうな帽子なんていう容姿。
それから鞄に付いてるトラファルガーにはまったく不釣り合いな白い熊のマスコット。
たしかベポとかいう名前だった気がする。

「無視かよ、なんか言えよーユースタス屋ー」

あ、こいつ机に椅子ぶつけやがった。
睨みつけてやれば、元気ー?と手を目の前で振られた。
人の机に肘つきやがって、態度悪りぃっつーの。
腹立つから頭突きをしてやろうと、頭を少し振りかざす。
おれの予想ではおれの頭突きが成功して、トラファルガーが額を押さえて呻いてるはずだった。
それを声高らかに笑ってやろうと思ったのに。

「ユースタス屋、デートしよっか」

にぃ、と嬉しそうに笑うから、可愛いと思ってしまった。
それでもおれはもう頭突きの態勢になっていて、どうしようとか、悩んでる暇もなかった。



ちゅ、なんて可愛い音が鳴って、おれはトラファルガーから離れた。
トラファルガーは完全に固まっているし、おれもおれで驚いた。

今、おれ、こいつと

「…キスした?」

最後は声に出てしまった。
その声でトラファルガーは意識が戻ったのか数回まばたきをして、うっすら頬を赤らめた。
くそ、かわいい。

「おまえ、なに、え?」

うっすら赤かったはずなのに、みるみるうちに赤くなっていく。
赤くなっていく頬ばっか見てたら、そこに線ができた。
すぐ上から、水の線。

「おい、泣いて」

手を伸ばしたら弾かれた。
泣いてねぇ!と叫んで、ガタリとぎこちなく椅子から立ち上がる。
右腕で乱暴に目を擦るが、涙は止まってくれないらしく、ボタボタとおれの机に消えていく。
ああくそ、おれは触れさせてもらえなかったのに。

「トラファルガー悪い、悪かった」

「謝るな!」

おれも立ち上がって、右腕を掴んだら、また弾かれた。
拒絶されてる。
理解したら腹が立った。
こいつを、トラファルガーを泣かしたおれ自身にとてつもない苛立ちを覚えた。
何か言わなければ、と考えても謝罪の言葉ばかりで、どうもおれは言葉のレパートリーが足りないらしい。

「トラファルガー」

机の隣を摺り抜けて、トラファルガーに近づけば、トラファルガーは後退った。
机に当たっても気にせず後退っていく。
ガタガタと机と椅子が鳴いてうるさいはずなのに、トラファルガーが漏らした鳴咽はやけにはっきりと聞こえた。
おれが足を止めても、どんどん後ろに逃げていく。
その後ろには壁、いや窓。

「危ね…!」

手を伸ばしたら、大股で後ろに避けられた。
その拍子に手摺りに目一杯背中をぶつけたらしく、ゲホッとトラファルガーが咳込んだ。
相当痛かったと思う。
涙は止まらねぇし、鳴咽は漏れるし、咳は出るし。
そんなトラファルガーに、おれも大股で近寄る。
なおも逃げようとするトラファルガーを捕まえて、そっと抱きしめた。
振り払われると思ったし、逃げられるとも思った。
でも、少し身じろいだだけで、そこに小さく納まった。

何か言わなければ。
何を言えばいい?
本当は頭突きをしようとしたことか、お前を可愛いと思ったことか、止めようと思って頭を反らしたことか、そこにたまたまお前の唇があったことか、そこにたまたまおれの唇が当たったことか。
どれも、事実だけど嘘だ。

本当は。

「キスがしたくなった、お前と」

ボロボロと泣いていたトラファルガーは、ゆっくりと顔をあげた。
まだ目尻には涙が溜まっていて、擦ったせいで赤くなっている。
無意識に目元を指でなぞった。
また拒絶されるかと思ったが、トラファルガーはなんの抵抗も見せなかった。

「…なんで」

理由なんて決まってる。
気付いたのも言葉に変換したのもついさっきだけど。

「お前が好きなんだよ」

洒落た言葉なんて知らないから、そのままの言葉で伝える。
おれとお前、今の今まで悪友なんて仲だったのに、いつからこんな感情を育ててたんだ。
ダチとかライバルとか色んな枠組みがあったのに、どうしてもおれはお前を違う枠に入れたいらしい。

「順番、間違っちまったけど、」

もしこれでお前と一緒にいれなくなったとしても、おれは言わなきゃならない。
お前に伝えろと、心ん中のおれがうるさいんだ。
でもそのおれは紛れもなくおれ自身だから、偽りなくこれはおれの中の真実だから。


「おれと、付き合え」

顔は、赤いと思う。
どんな言葉が返ってくるか、まったく予想できずに時間がすぎる。
ああ、心臓がうるさい。
トラファルガーの身長じゃ、ちょうど聞こえてるかも。
だせぇな、おれ。

ぎゅ、とカッターシャツが掴まれた。
もちろんトラファルガーに。
どくりと心臓が波打って、口に唾液が溜まる。

「…おれに命令するな」

返ってきたのは、どっちつかずの曖昧な言葉。
それでも、お前の耳が赤いから、返答なんていらないと思った。











夕日のせい
(別に照れてるわけじゃない!)











本当はずっと前からキッドが好きだったローさん


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[管理]

無料HPエムペ!