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※流血表現有り




何の変哲もない小さな島に停泊していたところ、山賊か償金稼ぎか、敵襲にあった。
だからといって、素直に船長の首を差し出すはずもなく、さっさと返り討ちにしてやった。
それに関しては日頃となんら変わりないもので、予想外だったのはシャチが負傷していたことだった。

「危機一髪、だな」

医務室のベットに腰掛け、大人しく左足首に包帯を巻かれているシャチは、へらへらと笑って反省の色はない。
まったく、こいつは自分の足がどういう状態なのか分かっているのだろうか。


敵襲に気付いてすぐ、シャチとベポは最前線に特攻隊よろしく突っ込んでいった。
それはいつもと変わらないし、何も言うことはないが、問題は船に帰ってきた時の姿だ。
後方から援護に回っていたおれと船長は、相手が逃げ帰っていくのを確認して船の破損状態や火薬の消費量などを計算していた(実の所、船長は援護という名の高みの見物しかしていなかったが)
そんな中、他の船員より一足遅く帰ってきたシャチは革製のブーツを履いていたにも関わらず、左の足首を囲うようにえぐられた後のような傷を作った状態でベポにおぶられていた。
至急医務室に運ばれて船長直々に治療してもらい、見た目としては捻挫した時の対処法を変わらないその足首は、一歩間違えれば切断されていたという。
シャチいわく、なんか引っ張られるなぁって思ったら足首にワイヤーが絡まっててびっくりした、らしい。
船長いわく、奇跡的に骨も神経も筋肉も無事だが、革製のブーツを焼き切るほどの摩擦がかかったワイヤーなら足首を持って行かれてもおかしくなかった、らしい。
現にシャチの左足首の傷は切られたというより摩擦熱で火傷して出来たものだった。

「…痛むか」

「鎮痛剤打ってもらったし、へーき」

「傷痕、残るって」

「船長に完治したら皮膚移植出来るか聞いてみる」

「一週間は様子見るらしい」

「その間松葉杖なんだよね」

一週間じゃ松葉杖に慣れれないかな?なんていつも通りのシャチに溜息をつく。
自分の足がもげそうだったというのに本人はいたって呑気だ。
シャチはどんな時でもだいたいこんなもので、態度が変わることはない。
表情を使い分けるという考え自体、シャチの中に存在していないのだ。

「そんなことよりさぁ」

行儀悪くぱたぱたと揺らしているシャチの足を見ながら、続きを待てば、程なくして足は自然に止まった。
なおも沈黙が続くものだから、視線をシャチに合わせると、シャチの視線はどうもおれの右肩辺りを凝視していた。

「ペンギン、怪我したの?」

シャチの、ふんわりとした幼さを残す笑顔が一瞬で奥に引っ込み、滅多に見れない真剣な顔が現れる。
おれはというと、シャチの言葉に驚いて、微かに肩を揺らしてしまった。
確かに、怪我といえば怪我だ。
だがそれは流れ弾が右肩を掠っただけで、シャチのような痛々しい傷を作って帰ってきた奴に言うような怪我ではない。
しかも、今おれは新しいツナギに着替えていて、傷口が見えないはずなのだ。

「血の匂いがしたから」

嘘をつくな、と出かかった言葉を飲み込んで、おれは口をつぐんだ。
おれの血の匂いなんて、するはずがない。
もししたとしてもそれはシャチ自身の血の臭いのはずだし、その傷口の肉が焦げるような嫌な臭いも混ざっているのだ。
医務室独特の消毒液の臭いも、まだ残る火薬の臭いも存在しているはずなのに、シャチはおれの右肩から目線を反らさない。
そこに傷があると初めから分かっているように。

「…お前は吸血鬼のようだな」

うん?と小首を傾げた時には、見慣れたあどけない表情のシャチに戻っていた。
たぶん、その表情と中にある感情は一致していない。

「あのね、ペンギンの血は甘い匂いがするんだ」

不思議だよね、と肩を竦めて笑うシャチに溜息をつくことしか出来ない。
こいつはこんなことで嘘をつくような奴ではないから、おれの血は本当に甘い匂いがするのかもしれない。
おれには理解出来ないし、船長やベポにも言われたことがないから、シャチにしか理解出来ないことなのだろうけれど。











もし、おれの血を飲んで
(お前の傷が癒えるなら、くれてやっても構わない)











ヤンデレぽい
匂いと臭いは紙一重


あきゅろす。
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