来るもの拒まず、去るもの追わず。
独占欲もまるで無く、おれの見ていない所で何をしていても気にならなかった。
いや、心配はする。
なぜなら彼はおれ達の船長で、その首に二億の値がついているのだから。
それでも、自らついて行こうとか、探しに行こうとか、そういうことは思わなかった。
彼もそれがわかっているのか、それについて口論になるどころか、話題になったこともない。
「だからといって誰にも行き先を言わずに出ていくのは止めてもらえないか」
「…あ、」
おれの姿を横目で確認した彼は、一文字だけ声を発して黙り込んだ。
言葉を、探してる。
それは謝罪の言葉でも言い訳でもない。
「…ペンギン」
おれの名前。
おれの名前を、探してた。
今の彼はおれのこともベポのこともシャチのこともハートの海賊団のことも、綺麗さっぱり忘れている。
ああ、でもおれの名前を思い出したのなら、他のすべてのことも思い出したのだろう。
「まだここにいるのか」
ここは砂浜だが、潮の満ち干も干渉してこないような、砂浜にしては海から遠い場所だ。
波の音、海鳥の声、風の囁き。
ただそれだけがここにあった。
「まだここにいる」
それは、俺が邪魔だと言っているようだ。
そうに、違いないのだろう。
「気がすんだら、真っすぐ船に帰ってきてくれよ」
告げることだけ告げて、さっさとこの場を後にする。
彼は今、ひとりでいたいはずだから。
なのに。
ひとりでいたいはずなのに。
「…ペンギン」
彼はおれのツナギを離さない。
「…ロー」
「違う、おれは船長だ」
ギロリと睨む顔は船長のときそのもので、笑ってしまいそうになる。
ごまかすように頭を帽子ごと乱暴に撫でてやると、ニ三歩後退っていく。
それを追いかけてまた撫でる。
「まだおれの動きを読めてないな、本調子じゃないだろう」
おれの腕を捕まえようとしているようだが、まったく追い付いていない。
「ペンギン、やめ…!」
こちらを見上げたときを見計らって、額を指で押してやった。
足場の安定が悪かったせいか、彼はズルリと尻餅をついた。
おれはついに耐え切れなくなって、カラカラと笑ってしまった。
今の彼はまだ船長じゃない。
おれが小突いたぐらいで倒れるわけもないし、睨むだけで反撃してこないのも船長らしくない。
ここにいるのはただの子供だ。
一匹狼を気取るただの反抗期の子供。
ひとりだと寂しいのに、ひとりの時間がないと落ち着かない。
そういう人種。
「…おれも人のことは言えないがな」
隣に腰を下ろせば、怪訝そうな顔をこちらに向けてくる。
どの仕草も子供じみて見えてきて、また笑いそうになった。
隣の位置から真後ろに回って、彼が振り向く前に背中合わせにする。
少しだけ体重をかけると、動きが止まった。
一拍空けてから思い出したように動き出す。
それを背中に感じて、彼の左手を右手で握ってやる。
また動きが止まる。
戸惑うように握り返してくる彼が愛しくないわけもなく、頭を頭にグリグリと押し付けてやった。
それにさえ無抵抗な彼は、やはり船長ではない。
もうすぐ船長になるであろう彼は、ただただ俺の右手を握りしめるだけだった。
にありーいこーる
(似てるなんて冗談きつい)
ひとりの人間としてのローと船長としてのロー
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