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『うんめい』と『さだめ』なら、どっちを信じる?

我らが船長の彼はとても楽しそうにおれに尋ねた。
不意に話を振られたおれは、隠すことなく眉間にシワを寄せた。
ふふふ、と機嫌良く笑った船長は、おれに疑問を投げかけておきながら自室に帰ってしまった。
甲板に置き去りにされたおれは、数分その場から動けなかった。

『うんめい』とか『さだめ』とか、そういう必然的な言葉はあまり信じていない。
確かに、決められていたなら仕方がない、と正当化出来るかもしれない。
でもそれはおれにとって言い訳にしか聞こえないし、決められた道を歩んでいるなんて思いたくない。


「ペンギン、おはよう」

ふんわりと柔らかな風と共に聞こえたのは、今日会う予定の金髪を靡かせているキラーだ。
キラーも機嫌が良いらしく(機嫌が悪いことなんてほとんどないけど)前髪で目は見えないが口元が緩くカーブしている。
甲板に上がってきたキラーの腕の中にはどうやら本が抱き抱えているらしい。
仮にも一億を越える償金首が両手で一冊の本を落とさないように抱えている様はどこか笑える。
本当にこいつは殺戮武人なのか。

ひょこひょことおれに近寄ってきたキラーの頭をぐしゃぐしゃと撫でてやる。
うわぁ、と情けない声をあげながらも振り払わないのは、たぶん頭を撫でられるのが好きだから。
キラーは手を繋ぐとか抱きしめるとか、とりあえずスキンシップが好きらしい。
ぬくもりを感じると安心するんだとか。
おれとしては弟がもう一人増えたようで(血の繋がった弟なんで本当は一人もいないけれど)嬉しかったりする。
それをキラーに言ったら、恋人だ!と怒られた。
弟だろうが恋人だろうが、大切なものに変わりはないのだが、キラーにとっては重要らしい。

「ペンギン、『うんめい』の赤い糸って信じるか?」

こんな突拍子もないことを聞いてくる弟はそういないとは思うけれど。

「…熱でもあるのか」

キラーの前髪を掻き上げて、額に手を置いてみる。
熱はないらしい。
そこで初めてブルーバイオレットの瞳と視線がぶつかった。
その目は違うと訴えているが、おれの知っているキラーは多少電波を飛ばしていても、ここまでメルヘンな奴ではなかったはずだ。

「本に書いてあった」

はい、と持っていた本を渡され、ご丁寧に栞が挟まれているページを開く。
そこには、人間には生まれた時から決められた相手と赤い糸が繋がっているのだという話が長々と書いてあった。
本の目次を見てみれば、どうやらこの著者は人の出会いは全て必然だと言いたいらしい。
それは道で擦れ違った人間も含めた大規模なものだ。

ばたん、と本を閉じてキラーに返せば、感想を求めているらしい視線がこちらを見ていた。
まったく、キラーはこの本を最後まで読んだのだろうか。

「おれはこういう話はあまり信じていない」

おれも、とキラーが笑うものだから、ならなぜおれに聞いてきたのだろうかと首を傾げる。
キラーはそれを気にする様子もなく、ぱらぱらとページをめくっていく。

「運命って普通は『うんめい』って読むけど、『さだめ』って読むことがあるらしい」

「『さだめ』…」


『うんめい』と『さだめ』なら、どっちを信じる?

船長の言葉を思い出して、まさかこの二人、同じ本を読んだ訳はあるまいな、と考えを巡らせる。

「おれとペンギンは、『うんめい』の赤い糸より『さだめ』の赤い糸の方が似合いそうだ」

なぁ?と同意を求められて、確かに『うんめい』という言葉よりむず痒さはない。
逆に、どこか殺伐とした、違う赤色を思い出してしまいそうだけれど。

「…そうだな」

おれが頷けば、キラーは嬉しそうに左手の小指を目の高さまで上げた。
おれも左手の小指を上げれば、キラーは自分の小指でおれの小指を捕まえた。

「おれとペンギンは恋人だけど、敵同士だから」

ぎゅうと小指を掴む力が強くなる。
所詮はそういうことなのだ。
おれもキラーもお互いの一番にはなりえない者同士。
それを理解した上でこうやって側にいる。
真逆の立場を両立して、尚且つ最後は敵対を選ぶのだから、これはある意味滑稽な話だ。
本当は出会うべきではなかったのかもしれない。
それでも出会ったのだから、楽しまない訳はないけれど。











運命の赤い糸
(『うんめい』でも『さだめ』でも、出会えたのは確かに君だった)











子供×大人にぴったり当て嵌まるキラペン

裏話としては、ローはキラーの持ってきた本は読んでません
読んでたのはキッド
冒頭の疑問はキッドがローに聞いたんじゃないかな
たぶんローは爆笑したと思う


あきゅろす。
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