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ころころころころ。

それは坂道を下りていった。
それを目で追いかけて、それが目一杯に入った紙袋をベポに預けた。
たった一つ、紙袋から零れ落ちたそれは何かを探すように転がっていく。
見失う前に足が動き出した。
ベポの声が聞こえた気もするが、気のせいってことにしとこう。

ころころころり。

止まらないそれはたぶんもう傷んでいて食べれないだろう。
追い付く前に誰かに踏まれるかもしれない。
ならどうして追いかけているんだろう。
分からないけど、その先に何かある気がして。
どこかで聞いた話の兎を追いかけた少女みたいに、知らない世界には行きたくはないけど。


止まりそうにないそれは坂道を失速することなく転がり落ち、ついには平淡な道に辿り着いた。
やはり止まることはなく、なおも転がり続ける。
どこまでいく気だろう。
そろそろ止まってくれないと、船に帰る時間が遅くなる。
船長やペンギンに怒られるのは真っ平ごめんだ。

ころころころ、こつん。

唐突に、それは止まった。
前触れもなく、たまたまそこにあったであろう誰かの足に当たって止まった。
そればかり視界に入れていたおれは、慌てて相手の顔を見た。
厄介な相手だと帰るのが余計に遅くなる。
やっぱり船長にもペンギンにも怒られたくない。

「ハートの海賊団か」

そいつはそれを持ち上げて、おれに向けて差し出してきた。
おれは戸惑いながらそれを受け取る。
べったりと汁が手に付いて気持ちが悪いし、皮がめくれて中身が見えている所がある。
砂利まで付いて、やはり食べられそうにない。
ただそれの甘い匂いが、食欲をそそるのは否めないが。
それをよく観察した後、渡してきた相手をもう一度見る。
黒い帽子に青いマント、腹に“X”の青刺。
“赤旗”X・ドレーク。
まったく、よりによってどうして敵船の船長なのだろうか。
もともと運がいいわけでもないが、ここまで運がないとは。
今日は厄日かもしれない。

「それをどうするつもりだ」

無表情に尋ねてくるところは、興味があるのかないのか。
いや、この疑問の本質はまったく違うものかもしれない。
身内じゃない以上、相手の思考を理解するには情報が少なすぎる。
まあ別に、相手に合わせることもないのだが。

「なんとなく、目についたから追いかけただけだ」

敵船の船長だからといって気後れするわけもなく、淡々と言ってやれば、そうか、と短い返事が返ってきただけだった。
なんとも呆気ない会話だ。
会話だったのかも怪しく感じる。
さっさと帰ろうと踵を返したところ、がつりと何かに躓いた。
おれは反応が遅れて前のめりになる。
持っていた果実が弧を描いて地面に落ちた。
地面に着いたところで、ぐしゃり、と生々しい音をたてて誰かに踏まれてしまった。
ああ、せっかく手元に戻ってきたというのに。

倒れていきながらそれの末路を見送って、地面に手をつこうと腕を伸ばした。
しかし、手が届く前におれの身体は支えられる。
空振りしたおれの腕は空を切り、身体は重力に逆らって引っ張られていく。
気付けばおれは、奴に後ろから抱きすくめられているような体制になっていた。
上を向けば少し焦ったような奴の顔があって、腹の上には奴の腕がある。
無性に居心地が悪く、奴の腕を振り払った。

「…すまん」

なんだ、すまんって。
こいつは何か謝ることをしたのか。
本当はおれが謝るなり礼を言うなりしなきゃいけないのに、申し訳なさそうな顔をするな。
こいつ本当に船長か。

「…こけずにすんだ、ありがと」

とりあえず礼を言ってみれば、いや気にするなとクールに決めているが焦りはまだ漂ったままだ。
なんとも格好のつかない奴。
元海軍少将とかでもっと堅物かと思ってたけど、なんだかどこか抜けている。

「…そろそろ帰るわ」

「…ああ」

変な会話だ。
待ち合わせをしたわけでもないのに。
いちいち報告しなくたっていいはず、なのに。
来た道を戻るために踵を返せば、見送りの視線が背中に刺さる。
変だ。
本当に何もかもが変。

おれは足速にその場を立ち去った。
別におれが急ぐ必要なんてないんだけど。
さっさと帰らなきゃ船長に怒られるから、だから振り返らずに真っ直ぐ船に帰るんだ。
他に何かあるわけじゃない。
そんなわけない。











唐突すぎる
(顔が赤いなんて認めない!)











ドレシャチは二人同時に片思い、とか


あきゅろす。
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