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どうしてここまで息詰まってしまったのだろう。
別に、恋人なんかじゃないのに。
ただ敵船の船長で、飲み仲間のはずなのに。
どうしてこんなにも寂しいと思ってしまうの。
ねぇ、ユースタス屋。



じゃあまた明日この飲み屋に行こうとか、気になるバーがあったから今度行ってみようとか、いつも約束を交わす。
どちらともなく、提案して承知して。
出会う度に約束をする。
本当は今日約束の日だけど、おれはどうしてもそこに行けない。
行けばきっとまた約束してしまうから。
また出会う約束を、守れない約束をしてしまう。
ユースタス屋、お前は知らないんだろう、おれが明日にはいないこと。
知らずに酒を飲みながら、おれを待ってたりするんだろう?
おれは、それが堪らなく嫌だ。
約束を普通に取り付けようとする当たり前を、おれは壊そうとしてる。

ベットに寝転がって、枕に顔を押し付ける。
おれらしくない。
らしくないじゃないか、こんなの。
女々しすぎないか。
ユースタス屋、本当は待ってないかも。
とっくの昔に自分の船に帰ってキラー屋と飲んでるかも。
もう会えないかも。

もう、会えないかも。


「…畜生」

ぎゅっと枕を抱え込んで、溢れ出る涙を擦りつける。
最悪だ、本当に最悪。
おれは、自分でも気付かないうちにハマってたんだ。
ユースタス屋の隣がどれだけ居心地がいいか知ってしまった。
一番大切なのは仲間だ。
船員を裏切ることはしない。
だけど、ユースタス屋から離れるのは、少し寂しかったり。
少しだけ、だけど。

「泣いてんのか?」

ドクリ、と心臓が跳ねた。
息も詰まった。
え、なんで、幻聴?

「そうだ幻聴だ、そうに決まってる」

「人を勝手に幻にするな」

ギシリとベットが鳴いて、マットが傾いた。
枕に押し付けていた顔を少しだけ横にずらして片目で部屋を見渡せば、赤い色がおれの横に座っていた。
目が合うかと思ったけどそんなことはなくて、どこか遠くを見たまま動かない。
なんだよ、寂しい、
ん、待て、そんな訳ないだろう。
寂しいってまさかそんな。
違う違う、違うから。
今のはいい言葉が見付からなかっただけだから。
まぁ少しだけ寂しいけど、寂しいって言い切るほどの寂しさじゃなくて、だから。

「約束ぐらい守れよな」

だから、目を合わせてくれたら忘れられる程度だから。

「明日の朝に出るんだろ」

だから、頭を撫でてくれたら思い出さない程度だから。

「それぐらい言えっつーの」

だから、抱きしめてくれたら一生満足していられる程度だから。

「…お前さ、おれのこと好きだろ」

だから、おれに現実を突き付けるのは止めてよ。

「しょうがねぇなぁ」

不意にこちらを向いたユースタス屋の赤い瞳におれがいて、赤いマニキュアの付いた指がおれの髪に絡まって、いつの間にか赤いコートがおれを包んでいた。
ユースタス屋の匂い、体温。
ぎゅうと背中が絞まる感覚に、ああおれユースタス屋に捕まっているんだと停止しかけた頭が理解した。

「泣くくらい好きか」

ぼろぼろと落ちる涙をユースタス屋が拭ってくれて、余計に涙が溢れたけど、それは嬉しくて出た涙だから気にしない。
嬉しくて嬉しくて、同じくらい寂しい。
だって、明日いなくなる。
明日で終わりなんだ。

「目指す場所が一緒なら、また会えんだろ。それに、」

―おれが見付けてやるから安心しろ。

ああ、なんて殺し文句。
恥ずかしい奴。
でも、そんなユースタス屋がおれは好き。











また会おう
(久しぶり!って笑って言ってみせるから)











出航前夜に告白とか


あきゅろす。
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