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※モブキャラですが、グロ注意




おれとお前が出会ったのはただの偶然。
必然だの奇跡だの、そういった運命的なことを信じているわけもなく、横を見ればたまたま、といった具合におれとお前は同じ時間に同じ場所にいた。
償金稼ぎに襲われる、というなんとも海賊らしい場面で。

「殺戮武人か」

白いツナギに防寒帽。
胸にはどこの海賊団か一目でわかるジョリーロジャー。
償金は一億に満たないもののフダツキで、ハートの海賊団二番手を勤めている。

げへへと下品な笑い声に辺りを見渡せば、ぞろぞろと償金稼ぎが集まってきた。
その数ざっと三十。
よくもまあここまで集められるものだ。
金が欲しいのはわかるが、命は大切にすべきではないか。
小さく溜息をつけば、隣からも同じような息が漏れた。

「悪いがお前等の相手をしている暇はない、急ぎだ」

欝陶しそうに首を摩る彼は、本当に面倒臭いのだろう。
彼の言葉に償金稼ぎ達は一瞬唖然としたあと、怒りをあらわに騒ぎ立てる。
丸腰の分際で、貴様などついでにすぎない、お前から殺してやる。
様々な罵倒を受けながら、彼が反応を返したのは一つだけ。

お前を餌にトラファルガー・ローを引きずり出してやろう。

ピリリと場の空気が変わった。
それに気付いた者はいない。
静かに彼は今の言葉の出所を探し始める。
一つ一つの声を確かめ、ゆっくりと動き出す。
がつり、と鈍い音と共に男が一人地面に平伏した。
その男の隣にはさっきまで隣にいたはずの彼の姿。

「この男の発言に同意したやつと笑ったやつはどいつだ」

彼は男の頭に足を乗せ、上向き加減で周りを見渡した。
そのとき見えた赤黒い瞳がぎらりと一瞬おれを捕らえる。
生々しい動きだった。
それにさえ気付かない馬鹿な償金稼ぎ達は、我先にと彼を狙う。
剣に銃、斧を持つ者やナイフを投げる者。
さすが数が多ければ多種多様な戦い方がある。
どさくさに紛れておれを狙ってきたやつを蹴り飛ばし、彼はいったい何をやってのけるのかと気になった。

右側のやつの腹に蹴りを一発、その反動で左側のやつのこめかみに肘を一発。
剣を軽くあしらって顔面に膝蹴り、突進してきたやつの頭を台にばく転を決め、そいつの背中に蹴りを一発、今のは背骨が折れたかもしれない。
踊るかのように技を決めていく。
あたかも計算された道筋を辿っていくように。


ごきりと男の首から音が鳴り、ずしゃりと受け身も何もとらずに地面を跳ねた。
首に踵を一発。
あれは助からないな、とあくまで他人事で考える。
三十はいたゴロツキはものの十分で片付けられた。
彼はたしかに丸腰だったし、おれより償金額は低い。
だがそれはエモノが武器である必要性と、政府の独断と偏見による判断が正しければならない。
償金稼ぎ達は完全に彼を見下していたし、なめていた。
そしてこの様だ。

「どうかしたか」

ぴくりとも動かなくなった人間の束を避けながら、意外にも彼はこちらに寄ってきた。
白いツナギは一切汚れておらず、息も乱れていない。

「急ぎなのだろう」

早く行かなくていいのかと急かせば、もう間に合わないとのこと。
いったい何に間に合わないのか見当もつかないが、彼がいいのなら急かす理由もない。

「どうかしたか」

また同じ質問をされる。
おれの思考を読まれているようで、不思議な気分だ。
仮面を被っているせいか、言葉にしないとおれの意見を理解するのは難しいらしい。
キッドでさえ、頭を悩ませることがあったぐらいだ。
そんなおれの考えを、初対面の彼に見破られるとは。

「さっきの言葉のどこに腹が立った」

ならば答えるだけだと疑問を投げかける。
彼の機嫌を一変させたあの言葉。

“お前を餌にトラファルガー・ローを引きずり出してやろう”

ざり、と彼の足元で砂利が鳴き止んだ。
彼とおれとの距離は四メートル弱といったところ。
話すには遠く、戦うには近い。

「おれごときで船長が釣れるわけがない」

ぎろりとまた殺気を帯びた赤黒い瞳が動く。
彼が纏う雰囲気をここまで変えた原因は、彼の船長への忠誠心だろう。
船長と自分を天秤にかけたことが堪らなく悔しかったわけだ。
償金稼ぎからしてみれば、仲間を人質にするだけの言葉だが、彼からしてみれば、自分の船長を馬鹿にされたようなものだ。

「なるほど」

わからなくもない。
船長にしては少し喧嘩っ早い身近な赤色を思い出す。
まあ、あいつなら助けることよりも戦闘を楽しみにやってくるだろうが。


「…悪いが、遅くなりすぎるのも困るので、帰らせてもらうぞ」

ざりり、とまた彼の靴底から砂利が鳴き始める。
踵を返し、背を向ける彼にかける言葉もなく、特に用もないおれは動かない人間どもの真ん中でぽつりと立つだけだった。
たった十分のあの戦闘が頭の中で再生されていく。
喉の渇きを潤すためだけに行動するバケモノでも、玩具で遊ぶコドモでもない。
そこにいるのはただ主を守る狗。
動くものすべてを食い殺さんとする獰猛で心優しい忠犬だ。

ぞくり、と言い知れぬ感覚が全身に流れていく。
恐怖ではない、むしろ快楽に似ている。
周囲に溶け込むように静寂を保つ彼の背中に、彼の主を罵倒する言葉を放てばどうなるだろう。
彼は一瞬にして間合いを詰めておれを殺しにくるだろうか。
あの生々しい瞳でおれを睨むだろうか。
もしそうなら、やってみる価値はある。
彼と、戦ってみたい。

ぴたりと彼の動きが止まった。
ああ、殺気が漏れていたかもしれない。
だからといって彼はおれを襲いにはこない。
なぜなら彼は殺戮武人なんて呼ばれるおれのような血に飢えたケモノなどではないから。

「…そうだ、」

今日、19番グローブの酒場で仲間と飲み明かすのだが、気が向いたら来るといい。

振り返った彼はおれの望むあの瞳をしていた。
少し口元を吊り上げて、微笑むようにおれに焦点を合わせる。
殺気はない。
だが、優しく首を締められるような、罪悪感のない無邪気な死の気配がおれに纏わり付く。
気付いたときにはもう死ぬしかないような、そんな感覚。
例えば、生きるために食した獲物が毒を持っていて、それのせいで死んでしまうような、そんなどうしようもない死に方。
彼はその餌を一切表情を変えずにおれに与える。

彼の言葉の真偽は判断しかねるが、きっとおれはそこに行ってしまうだろう。
餌の美味さを知ってしまったのだから。











なんて滑稽な主従関係
(飼い殺される気はさらさらないが)











本当は強いペンギンに惹かれるキラー


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