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※ヤンデレペンギン




ペンギン。

あんたに名前を呼ばれると意識が遠退くことがあった。

ペンギン。

あんたに名前を呼ばれると思考が鈍ることがあった。

だがそれはただそれだけのことで、特に気にしたことはない。
なぜならそれはいつの間にか当たり前になっていたし、疑問に思うこと自体がおかしいことだと思っていたから。
ずるりとおれの身体はおれを置いて、あんたの言い付け通りに動いていく。
あんたがにやりと笑うとおれもにやりと笑っていた。
あんたがぎろりと敵を睨むとおれもぎろりと敵を睨んでいた。
あんたがほろりと涙を流したときはなぜだか絶望にも似た喪失感で声をあげてぼろぼろ泣いた。
あんたとおれは以心伝心ではないらしい。
当たり前かと自分で嘲笑う。
あんたの世界でおれは小さな一つでしかない。
おれの世界であんたは神以外の何者でもない。
あんたはなんて偉大なんだ。
あんたがいれば世界は回っていくのだから。
ぐるりぐるりと巡っていく。
おれはいったいどこに。

「ペンギン」

「なんですか、船長」

頭より先に身体が動く。
舌があんたの呼び名を転がす。
なんて幸福なとき。
困ったようにあんたはおれを手招く。
迷うことなくおれは導かれて、おれはあんたの部屋に。
ベットに座らされ、おれの目の前にはあんたがいて。
あんたが見下ろして、おれが見上げる。

「ペンギン」

「なんですか、船長」

二回目のやり取り。
あんたが相手だから繰り返す。
くらりくらりと眩暈がするが、あんたの声だけははっきりと聞こえる。
いったい何があった。
何か欲しいものがあるのか。
どうしてほしいのか。
さあ早くおれに命令を。
おれが出来ることはなんでもしてみせる。
いや、おれが出来ないことでも、おれはおれを捨ててあんたが望むことをしよう。

「おれに依存するな」

ぶつりと何かが切れた。
でろりと何かが溢れた。
ぐしゃりと何かが潰れた。
ごぽりと何かが這い上がった。
それから、何もなくなった。
なにもかも、おれさえも、消えてしまった。

「どう、して」

ああ、壊れていく。
おれの世界が、盛大な音をたてて壊れていく。
カミサマがいなくなる。
おれのカミサマが、どこか遠くへ行ってしまう。

「泣くなよ、ペンギン」

あんたの顔がぐにゃりと歪む。
手の甲に生温い液体が落ちて気持ちが悪い。
温かい何かが髪の毛を撫でた。
あんたの手。

「ごめん、もう言わないから、ごめん、ペンギン」

ぎゅ、と包まれる。
あんたの腕。
おれは縋り付くようにあんたの腰にしがみつく。
ああ、ああ、帰ってきた。
おれのカミサマ。
壊れてしまった世界は一瞬のうちに元通り。
よかった。
おれはまだここにいる。
よかった、よかった。

おれを抱きしめるあんたが泣いていたなんて、おれは知るよしもなかったけれど。











マリオネット行進曲
(あんたがいなきゃ動くことさえできない)











自分がいなくなればペンギンが壊れてしまいそうで不安なローさん


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