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 いつかこんな日がくる気がしてた。

『natural』


 それは、下世話な何かを含んではいても決して罪のないクラスメイトの一言。
 そんなものに一瞬、本気ではがされかけた笑顔はなによりの証拠なのだろう。

「なんかお前と大石ってさ、お似合いだよな」
「…そう?」
「昨日街でさ、並んで歩ってんの見かけたんだけどさーカップルみたいだったぜ」
「あははーそれイイね。今度は手繋いでるからよろしく!」
「マジ?そりゃ楽しみだ」


 心臓が、止まるかと思った。
 ゴシップは余所で拾ってくれ頼むから。


「……お似合い、ね」
 空気だとか釣り合いだとか。人って、何故そんなことばかりを気にしたがるのだろう。
 それを証明するかのように、事実、冗談混じりとはいえこうした噂は出回りだしていて。あんまりな矛盾に思わず邪悪に笑顔をゆがめた。
 釣り合い?バカじゃないの。こんな俺たちにそんな言葉はカミソリだ。


 何より越え難い壁があるのが、見てわかるじゃないか。



 第三の、目。
 一番に怖い物は、二人そろって多分それだった。
 自分が彼と接するのに、それらに対してどれだけのパワーを使ってるか。
 菊丸は心の奥底で、開きそうになる箱の蓋を伏せた。

 どれだけ意識していると、思っているの。自然?あたりまえだ。どれだけそう見えることに気を使っているか。
 ……本気の恋はしたたかに。なんて言うけどさ。疲れちゃうよね、もう。
 溜め息と同時に、大石の胃を思わず心配した。自分すらこんななんだから、彼は胃をさぞ荒らすことだろう。

「…重いなぁ」

 …これからは多分、違うということに意識をしなければならないのかもしれない。
 自分たちはきっと。くすぐったいまでにささやかな接近を、友情として切り放すようになるのだ。これからますます。


 媚びてるだなんて思われたくない。まして特別さなんて…悟らせてなるものか。
 臆病で。いじっぱり。現状を怖がりながらその癖、このままを願う愚かしさ。

 大切なんだよ。

 約束された未来がないから、必死で守りに入るしかない。
 だってそれ以上に触れられて、傷つくのはとても恐いんだ。


「どうして同じ場所にはいられないんだろう」


 これ以上もこれ以下も。見たくなどないだけなのに。
 ひとの視線にはいつも目盛りがついている。

 知ってるかい?
 みんなの理想の自然な二人は、本当は不自然のカタマリなんだよ。




END



 あの若さ特有のひやかしの中に、さらける勇気もなく。まして近づきすぎた関係の恋は人を過敏に臆病にするから。
 自然体って何でしょう。
 互いに自然を造っていてそれが世間定規においてとてもお似合いで、ならばありのままの自然な二人は不自然なのかなぁ…。

H17.10.29


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