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二月二十二日、に一日遅れましたが(汗笑)

モビーの中を思いっきり猫まみれにしてみました。
16隊長's&オヤジを、一応皆さんご登場願いましたが
それぞれのファンの皆様、誠に申し訳ございません。

ハイ、お婆の腐れ脳から出てきたもんですから
まともなわけはない。諦めてください。
可愛くも色っぽくもございません。
マルコ隊長は約一名に対してだけ、違う評価ですが、あの人はもう、ね。

皆さまも、大流行のインフルエンザにはご注意を。
今季、かかって苦しんだ方、ふざけてすみません。

土下座


全編ふざけている中身です。冗談ですから!真剣に読まないように!!





「新型インフルエンザだ」
「へっ?!」
「だから、エースは病気だ」


カルテで顔のほとんどを隠し、目だけ出して嫌そうにマルコを睨みながら、イゾウは指差した。
指の先ではエースが幸せそうに、マルコの膝の上で丸まって眠っていた。

「別に、どこも具合悪そうじゃねえよい…」
「様子がおかしいってのは気が付いてたんだろう。なのに、浮かれやがって」
「熱も咳もないのに…え!命に関わる様な病気じゃねえだろうねい?!」
「解らん、新型だって言っただろ。…かなり変異してるから、見つけるのに苦労したぜ」
「く、薬はっ、なんか手当てを…」
「ねえよ。今のところ、症状が収まるのを待つしかねえ」
「何で…」
「インフルエンザはA型からB,Cってどんどん新しい変異ウィルスが出て来たのは知ってるな」
「ああ、」
「それぞれ、効く薬は違う。今まで報告された最新のウィルスはSで、今回のはTになる。で、おかしな奴でな…普通は感染するのは一種類だけなんだが、こいつは何種類か混ざって感染する」
「そりゃ、これから悪くなんのかよいっ」
「いや。エースの検査をしたら、A型とC型の反応も出た。本当なら高熱が出るはずなんだが…」
「今からうんと出て、エースが苦しむなら、困るよい」
「多分、この新型がおかしなバランスをとっているんだろう。普通のインフル症状じゃない」
「どんな苦しい思いをしなきゃならないんでい…エースが可哀想だよい」
「本人の体質でウィルスのバランスが変わって症状も変わるが、エースの場合はもう出てる」
「えっ?」
「お前に擦りついて、喉をゴロゴロ鳴らしてただろ。それだよ」
「へえぇっ!?」
「それぞれ出る症状は違うが、罹ったらみんな猫っぽくなる。インフルエンザCAT型だ」

ややこしい病気を流行らさせやがって、と怒りが抑えきれずにイゾウが持っていたカルテでマルコを殴ると、丸見えになった鼻回りに生えた長いヒゲが、プルプル震えた。



「苦しくねえなら、エースも喜んでるし、それでいいんじゃ…」
「おまえが人前でもベタベタ甘えるのが嬉しくて、見せびらかして歩いたから、ウィルスが蔓延したんだ。おれまで移しやがって」
「?…ぷっ、そのヒゲ病気なのかよい」
「うるせえ!サッチがおかしいと思った時には、遅かったんだ」
「サッチもかよい!…どんな症状なんでい」
「…ゴワゴワだった胸毛やシモの毛が、フカフカの猫毛になった」
「ぅぷぷっ……おっさんがフカフカに?エースだと可愛くなったけどねい」

耳の後ろをエースがゴロゴロ言い出すまで掻いてやり、目覚めた後、ちょっとクタンとしているからだを抱き直す。
嬉しそうにじゃれ始め、クスクス笑っている二人を見て、イゾウが毛を逆立てて威嚇した。

「笑い事じゃねえ。多分他にも移った奴がいるはずだ。おまえが責任持って探して診察に来させろ」
「何でおれが。おめえの仕事だろい」
「おれが更に病気を広げるわけにいかねえだろうが!おまえはそれだけくっついてるのに、症状が出てねえ。抗体があるんだろう」
「チッ…仕方ねえ」
「こら、待て!エースをくっつけたまま行ったら、同じだろうが!」
「はぁ?冗談じゃねえ。病気のエースを、置いて行けるわけねえだろい。嫌なら、自分で行け」
「くそっ…今更か。そうやってエースをコアラ抱っこしてもう、何日もモビー中をうろついたんだからな」
「こんなに可愛らしいもん、離れることなんか無理だよい」
「喉をくすぐんな。人間がゴロゴロ言った段階でおかしいと思えよ…」
「あ〜そうかい、エース。大丈夫だよい、ずっと抱っこしてるから…」
「イチャイチャしてねえで、早く行け!症状のバリエーションを見落とすなよ」



イゾウに廊下へ追い出され、さて、どこから行こうか、と考える。

「困ったねい、エース…おめえ、本当にからだはなんとも無いのかよい?」
「うん、別に頭もぼんやりしてないし、からだも痛くねえ。マルコが大好きなだけだ」
「…あ〜〜、可愛いよいっ。このまま部屋に籠れたらいいのにねい。仕方ねえ、手早く済ませるよい」

先ずは、ブリッジに行き自分が居なくても、問題ないか確かめないと。
それに、やはり一番長くそばにいた奴に、移っている可能性が高い。

「おい、デュー。問題はねえかい?」
「ああ、何もおかしなデータは無い…」
「クルーも問題な……デュー?なんでそんなに、モニターに屈み込んでるんだ。ちょっと立ってみろい」
「え?…」
「おめえ姿勢は良かっただろう…ダメだ、イゾウのとこ行って来い」
「なん?…」
「新型インフルエンザだとよ。えらく猫背になってるよい」

残念ながら、感染者が居た。これは生体環境を管理しているジョズを捉まえて、相談しないといけない。
ワークパッドでジョズを呼び出す。

「ジョズ、どこにいる?」
「いつも通り、総資材室だ。どうした?」
「ああ、実はよい…」

顔のそばに3Dのジョズを浮かべながら、手早く事態を説明する。情報を拾い、最初の対応を相談しつつ、大きな倉庫となっている資材室に入る。
が、居るはずのジョズが、いつものコンソールにいない。

「ジョズ!どこだよい!!」
「おう、ここだ」

天井近くから声が降って来て驚いて降り仰ぐと、両手を胸の下に託しこみ、大きなからだを丸めて、棚の最上段に入り込んでいた。

「ジョズ!?何でそんなとこに…」
「ん?何かおかしいか?落ち着くんだが」
「マルコ…あれ、猫族の習性だよ。相手より高い場所に居ると安心するんだ」
「……ジョズ〜〜〜おめえもかよい」

これは、思ったより蔓延している、困った事態だ。
病気が移りやすいのは、何と言っても多くのものが集まる場所だ。
今が退屈な巡航中だったのは、幸いだと思っていたが、まずかったかもしれない。
クルーの大部分は退屈な時間を潰すため、ほとんど艦内のアミューズメントにいる。ジムや劇場、酒を飲んで騒ぐ場所だ。
ハルタに警戒するよう、伝えなければ。

「おい、ハルタ!ちょっと困った事態に…」
「おや、いらっしゃい、マルコとエース。いつものように仲がいいですね。羨ましいです」
「…は?」
「僕なんか、そんなに愛してくれる人なんて、とっても!」
「な、なに言ってるんだ」
「マルコ…何かハルタが、気持ち悪い」
「嫌だな、からかわないでくださいよう」

くねっと斜めから見上げられ、寒気がしたマルコは思わず熱が出たかと、確かめるためエースと額をくっつけた。

「こりゃ、いつものハルタじゃねえぞ」
「完全に性格変わってる。マルコ…これも病気かな?」

隊長たちの中で、一番小柄なハルタは、その分気が強い。
イゾウと口げんかして、勝てるのはこいつだけ。相手の痛い所にクリティカルヒットする、キレの良い啖呵が会話の大半を占めるのが普通だ。

「…猫かぶりだよい」
「うわぁ……これ、一番重症なんじゃね?」
「そんなぁ。べったり抱き合って、相手の首筋越しにそんなこと仰られても、僕なんて、完全に負けちゃいますよう、うふ」
「うぷ…せめて後ろ向いて喋ってくれ」
「やだぁ、僕のお尻が可愛いからですかぁ?マルコさん、エッチ」
「エース抱っこしてるのに、そんな事っ…まあ、口調だけで、そう性格が変わるほどじゃねえな。安心したよい」
「何か、他におかしくなってた奴、いないか?」
「そうですね昨夜ブレンハイムさんが、ジムで皆さんと遊んでくださいましたよ。すっごくからだが柔らかくって、背中がくにゃんって曲がって、でっかい滑り台になってました」
「普段、自分の足元に落としたもんさえ拾えない、超ゴリ筋肉なのにかい」
「あと、ブラメンコさんが、バーで隣り合った人のものを全部ポケットに入れちゃって、最後は店ごと入れたんで、ちょっと困ったかな」
「......ネコババ、かな?」
「ネコババだったんですかねぇ。病気だと知らなかったんで、ちょっとキツイこと言っちゃいました」
「おめえがキツイっていうぐらいなら、インフルエンザの治療よりカウンセラーの方が必要じゃねえか」
「ちょっと、涙ぐんでたぐらいかな?てへぺろ」
「やめろい!周りから、人がいなくなったぞ」
「あと、クリエルさんがコーヒー飲もうとして、熱くって噴き出してました。食堂でも、何人かご飯食べられなくて睨んでる人居ましたね」
「そういう猫舌患者もみんなイゾウのとこに行かせろい。酷いな、隊長たちが、ほとんどやられてる」
「そういえば、ビスタさんがとっても僕を褒めてくれたんですよ。可愛いって甘い声で…」
「いつもより、さらに猫撫で声か…あいつも診察室行きだ。おれたちはオヤジに相談に行ってくる」

通路を急ぎながら、残る隊長たちに緊急呼び出しをかける。

「ナミュール!スピードジルも一緒かよい」
「ああ、何があった?ちょっと取り込み中なんだが…」
「取り込み中?……そっちこそ、なにがあった?」
「いや、なんだか急にピチピチの魚が食いたくて、ナミュールに採ってきてくれって頼んでるんだが、行ってくれねえんだ」
「ファーストフードばっかり食ってるおめえが、ピチピチの魚だと?」
「さっさと採ってくれよ。生きてる魚に、かじりつきたいんだ。今、すぐに!」
「わぁ、押すな!やめてくれ、足が濡れる!!」
「ナミュール……魚人のおめえが濡れるのを怖がるなんて、いつからだ」
「わ、分からんが、気がついたら、とにかくからだが濡れるのが嫌で…」
「おめえら二人とも、感染してるよい。……イゾウのとこに行ってくれ」

状況を二人に説明する間もなく、通路の向こう側から大騒ぎが聞こえた。
ギャアギャアはしゃぎながら飛び付いて来る、大勢のクルーを振り払いつつ、ラクヨウが走って来る。

「マルコ、エース!こいつらどうなっちまったんだ。何とかしてくれ!」
「あちゃぁ…しかたねえよい。おめえの髪型が、猫じゃらしにぴったりだから…」
「頭振り回したら、もっと寄って来るよ、じっとしないと…」
「冗談じゃねえ。くそっ、飛びついてくんなぁ!ミギャーッ…」
「おめえ、なんで爪が出し入れできるんだ、危ねえよい。そのまま、たかって来る奴みんな連れて、とりあえず診察室に行け」

何とか団子のようになっている連中を、診察室方面に蹴り出し、二人は抱き合ったまま顔を見合わせた。

「頼りになりそうな奴は、ほとんど居ねえじゃねえか」
「…どうしよう、マルコ…お、おれがおかしな菌持ち込んだから……」
「違うよい!エースは悪くねえ、病気に気がつかずに連れ回した、おれが悪いんだよい」

自分の気持ちも奮い立たせ、よしよし、いい子だと、毛を逆立てて震えるエースを慰める。
喉を鳴らし始めるまでしばらく宥めて、ようやくアンサーコールがついているのに気がついた。

「フォッサだ!まだ頼りになる男が残ってたよい……ぎゃっ!」
「おう、どうしたマルコ。済まんな、ちょっと嬉しいことがあって、呼び出しにすぐ気がつかなかった」
「フォッサ……遅かった。ごめん」
「え?何をだ、エース。また、つまみ食いか?良かったな、今すごく機嫌がいいから、何か問題起こしたとしても許すぞ?」
「そうか、許してくれるかい…えらく生えたな。フォッサがフサフサだよい」
「おお、見えるか!そうなんだ、もう、無理なのかと諦めかけてたんだが、今朝みるとしっかり生えていてな」
「嬉しいのかい?そんなに毛がいっぱい…」
「そうだ、まだ柔らかい産毛だが、これだけ生えりゃ、もうじき若い時並の頭に戻るぞ」
「でも、顔一面にも生えてるから…」
「ちょっと髭剃りは面倒になったかもな、グハハハ…大した問題じゃねえ」
「喜んでるのに水を注したくはねえが……いや、おれには言えねえ!!とにかく、落ち着いて、イゾウのとこに行ってくれ…」

がっくりと力を落とし、マルコはエースを抱きかかえたまま、通路に座り込んでしまった。

「なあ、元気出せよ、立て続けに変なことばっかりあって、びっくりするけど…」

エースが懸命にマルコの頬に顔をこすりつけ、両手でふみふみと、胸をマッサージして力付けた。
可愛い仕草に癒され、マルコは立ち上がる。

「そうだな、まだ全滅じゃねえ…ここまで来たら、悪い予感しかしねえが」

コールをしても出てこないアトモスの部屋に行き、入り口を突破する。

「…マルコ……なんでこんな時に来るんだ…」
「アトモス…やっぱり、隊長全滅か......いや、おめえはまだましだよい」
「何だと?おれだけじゃないのか」
「ああ、おめえはまだましだ。他のやつも、こういうお約束な症状なら、まだ対応しやすかったんだがねい…」

マルコはいつもなら立派なつのが生えている部分で、ピクピク震えている猫耳を撫でて、アトモスを慰めた。



「…そういう状態だよい、すまねえオヤジ。おれたちが不注意だったから船中を病気にしちまった」
「そうか…まあ、悪さをしてる正体が掴めたんだから、すぐイゾウが処方を見つけるだろうさ」
「そうだといいが…今頃患者が押しかけてごった返してるよい。オヤジのナース達を借りてえが、姐さん達にまで、病気を広げたくねえ…」
「いや、手伝うように言ってやる。多分、あいつらも今頃、同じようになってらぁ」
「え?クルーとは生活区域を別けてあるし、無事なんじゃ…」
「そうかもしれねえが、おれが、こうだからな」

大きな手のひらを広げて見せると、エースの顔がぱっと明るくなった。今まで離れずしがみついていたマルコを蹴って飛び出し、親父の手の中にダイブする。

「オヤジ!……オヤジまでっ……」
「朝起きたらこうなっててなぁ、何でだと思ってたんだが」
「オヤジ、サイコーだぁ!すっごい気持ちいい、うわぁ、触ってるだけで幸せだぁ…」
「ほら、てめえも遠慮しねえで来い。触りてえんだろ。グララララ…」

オヤジは大きな肉球をプニプニ震わせて、マルコを招いた。



敬愛する父の手の中、宇宙一癒される肉球ベッドで、心行くまでエースと転がり回わり、マルコの気力はフル充電された。
もう、おかしな症状を見ても、ショックに負けることはない。医療部はパニック状態になっているだろう、手伝ってやらないと。

「イゾウ、どんな状態だ……」

入り口を通ると、診察室内は黒山の人だかり。真ん中には声を掛けるのも躊躇われる、悪鬼の様な顔をしたイゾウ。
今近寄ったら、思い切り噛み付かれ、この事態の責任を糾弾されるだろう。
そのそばで、気丈に患者の群れを捌いている、背の高いナースが見えた。
オヤジが早速手配してくれたのかな、と感謝しつつ、ナースから状況を聞こうと、人混みをかき分けて近寄る。
しかし、赤みの強い金髪の、襟足は刈り上げたワンレンのナースなど居たかな、とふと疑問に感じる。

「姐さん、すまねえ。今どんな状況……ぎゃぁぁああっ!!!」
「うわぁ……え?ええっ?!サ、サッチィ〜〜!?!?」
「な、何でそんな格好してんだよい!」
「るせえ!この髪だとおれのトレードマークに出来ねえんだよ。ワックス塗ってもへたっちまうんだ」
「いや、髪型はいつもより良いぐれえだ。それじゃねえ!何でそんな服を……」
「サッチ…腰のとこ、キツく引っ張って綻びかけてるよ?」
「…イゾウに無理やり着せられたんだよ…治療に抵抗するやつの、気力を削ぐためにな」
「治療?薬が出来たのかい」
「ああ、だが副作用があるし、本人が出た症状を気に入って、治させやがらねえのがいるんだ」
「…そういえば、さっきフォッサが涙目になってたな」
「おれは早く治したいのに、他のクルーが終わるまでダメだって言いやがるし…したくてしてるんじゃねえ」
「見せられるやつも、着られてる服も可哀想だよい」
「うだうだ言ってねえで、さっさと治療されて来い、この元凶ども!……騒動が落ち着いたら、覚えておけよ」

びっちり食い込んだナース服から覗く、むちむちの二の腕に締め上げられ、イゾウの前に連行される。
フルに充電したはずの気力は、一瞬にして放出されていた。

目は全く笑っていないイゾウが、口元だけ歪めて二人を見た。耳まで裂け、何時もに増して、赤い色が目に付いた。
黙って目の前に突き出されたアンプルには、どろりとした銀色の液体が入っている。

「…この短時間で治療薬を創るとは、さすが天災、いや、本当に天才…」
「煽てなんか言わずに黙って飲め」
「何か副作用が有るって聞いたよい。エースに苦しい思いは…」
「お前は黙ってな。エース、感染源を放置できねえ。早く飲め」
「どんな薬かぐらい、説明しろい!」
「目的のウィルスを探して破壊するナノマシーンだ。急いで設計したから、通常のサイズよりでかい。だから、感染してる部分に入ると、むず痒いらしい」
「あっちの隅でモジモジしてる奴らが、飲んだ奴なのかい」
「そうだ。感染して長く経つほど、患部が多くなって副作用がきつい」

マルコの視線が治療用ベッドの上で、赤い顔をして呻いている、むさ苦しい一団に注がれる。
ハアハアと荒い息を吐いたり、涙目だったり、身の置き所がない様に身体を捻じっていたり……

「飲ませた後は部屋で休ませていいんだろい?」
「どうせここは一杯だ。…マルコ、エースは病人だ。間違うなよ」
「……自重するよい」
「それと、おまえも検査だ。こいつに接触したらほぼ100%感染してる。おまえだけ罹らねえのはおかしい」
「能力のせいじゃねえか?」
「かもしれんがな。確認だ」



ナノマシーンの効果が一頻り終わり、ぐったりしたエースを抱えて、ようやくホッとしたマルコの耳を呼び出しコールがつんざいた。

「うるさいよい!!今、ようやくエースが落ち着いて寝たとこなのに」
「ほう、じゃあゆっくり寝かせて、お前は診察室に来い」
「放っとけねえよい…また、症状が出たら…」
「今のおれに逆らうな。すぐ来い」

確かに、今回のことでは、イゾウに逆らえない。マルコはため息をついて、手放し難いからだを離し、何度も躊躇いながら部屋を出た。

「何だよい…」
「マルコ、お前も感染してる。あんまり症状がいつも通りなんで、見落としてた」
「症状?別に何ともねえよい」
「ワーカホリックなおまえが、何日も仕事をほったらかしてたのが、おかしいと気が付くべきだった。おまえの症状は、猫可愛がりだ」
「え?......別に、エースが可愛いのは病気のせいじゃねえよい!」
「今回ばかりは、エース以外に愛がない、お前の歪んだ価値観に救われたな。あの勢いで他の奴まで可愛がられてたら、被害甚大だった」
「そんな気色わりいこと…え?おれも、こいつ飲むのかよい!」
「当たり前だ。エース級の感染源だからな」
「い、いやだよい…」

さっきまで二人だけの部屋で、エースが見せていた表情が甦る。
切なげな吐息、赤く染まった目元、悶え啜り泣く姿…
病人なんだから、と繰り返し自分に言い聞かせ、喰っちゃいけない、いけない!と叫んでいた理性も掻き消えるほどの色っぽさ。その姿を誰にも見せたくないと、部屋に連れ帰ったのは大正解だった。負けて、しっかり喰ってしまったが。

あんな顔を自分がするなどまっぴら御免だ。
慌てて逃げ出そうとしたが、そんなことはお見通しだった。

「サッチ!フォッサ!!」
「おうよ!」

がっしり捕まえられ、鼻をつままれ薬が流し込まれる。
抵抗虚しく、飲み込んでしまい、あっという間に全身を形容しがたいむず痒さが襲った。

「!……ぅうあ、ひゃぁあ、あっ……」

ヤバい、このままおっさんが悶える姿など、こいつらに見られたくない。

かくなる上は、と能力を発動し、不死鳥となってモビーの廊下に逃げ出す。
それを廊下の隅々から、多くの光る目が追いかけた。



病気の時には、確かに判断力が鈍るものだ、と、後になってマルコはしみじみと語った。

悶え苦しむ、奇跡の鳥は、感染率100%、まだまだ流行の収まらない、妖怪猫人間が大挙して待ち受ける、化け物屋敷の中を飛んだ。






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