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静謐な、真の闇と絶対零度に凍りつく、ディープスペースのそのまた奥。
普段はエネルギーすら、かすかな遠い銀河からの光しか届かぬ射干玉の闇が、今日は熱い闘気に震えていた。

発しているのは、ひっそりとランデブーしている二隻の宇宙要塞。
正確には、やや大きな黒いクジラの形をした巨艦の影にある、赤い龍の模様が書かれた艦。
さらにその最深部の、この艦の主がすごす私室の奥のそのまた奥の隠された小部屋から、星間宇宙に満ちるブラックマターをも歪ませそうな、禍々しいまでに凶暴な覇気が放たれていた。


その部屋で対峙しているのは、白ひげパイレーツの誇る最強のタッグ、不死鳥と火拳の二人に、この船の主で宇宙にその名も響く四皇・赤髪…と、なぜか、もう一人のマルコ。

艦内でも、気の弱いものは失神しているか、隅まで逃げ出しているだろうほどの、怒りを吐きだしているのは、白ひげ側のマルコだ。
赤髪は平然とその怒気を受け流し、背中にもう一人のマルコをかばいつつ、油断なく攻撃に備えている。

「……おとなしく渡しやがれ。てめえと事を構えないと思うのは大間違いだよい」
「まぁ、ばれちゃったら揉めるだろうとは思ってたけどね…そうですか、って恋人渡すわけにはいかないだろ?」
「気色わりいことぬかすんじゃねえ!!エースの前でなんて事をっ…」
「わかぁってるってぇ〜。あんたの方はエース一筋だってね。だけど、おれがずっと惚れてるのも知ってんだろ?」
「だったらルール破ってもいいってのかよい!どっちにしろ、おれが二人いるのは許せねえ。さっさとよこせ」
「やだ」
「ざけんじゃねえっ!表ざたにして、てめえと遺恨を残すのはまずいってオヤジが言うから、こうしてこっそり引き取りに来てやったんだろうがよい!!」
「通報して自分を抹消させるって、そんなこと許すわけないもんな、オヤジさんが…」
「俺は今すぐ消してやりてえ…その違法コピーをよい」
「その為には宇宙政府にチクることも辞さないって?そうしたら、消えるのはおまえのほうさ」
「なん…だと?」
「能力者をコピーするのはタブー。そりゃそうだが、過去に例が無いわけじゃない。それがばれたとき消去されるのは後でコピーされた方だ」
「………」
「マルコ。おまえ、たしか二年前に無茶な偵察飛行して、次元ふっ飛ばされて戻らなかっただろ?こいつはもう、おれと何十年も過ごしてるんだ」
「…ッチ!」
「さすがマルコ、理解が早いな。白ひげが通報を止めたのはそういうわけさ。ばれたら消されるのはおまえの方だ」
「…なら、ここで消していくしかねえな」

ぶわり、とさらに闘気の熱が上がり、部屋に置いてあるバーチェストの中で、グラスがひび割れ砕ける音がした。


どちらかが、少しでも動けば、激しい闘いに変わりそうな張り詰めた空気の中、動いたのは今まで赤髪の後ろで黙っていた影だった。

「…まて、シャンクス。てめえがおれを守ろうとしてくれるのは嬉しいが、おれにも意地があるよい」
「マルコ…だめだ、下がってろ」
「おれの問題だよい。それに…おれだって自分が二人いるのは気分がわりい。黙って消される気もねえよい」

そして睨みあう、険悪な顔と悪い顔のマルコとマルコ。
互いの能力も発動しようとした時、今度はエースが動いた。

「やめろよ!マルコ!!マルコも落ち着け!マルコがマルコと闘ってどうするんだ、マルコが傷ついてもいいのかよ、マルコッ!」


……ええいややこしい!!と、書き手のお婆の忍耐が切れたので、ここからは白ひげ側がマルコ、赤髪側はまること書いて話を進めます。エースもそう呼んでくれ、頼む。

「大体、マルコもまるこもおんなじ能力だろう?この艦壊して戦ったって勝負なんかつかねえよ」
「…おめえはおれとおんなじやろうが、ああやって赤髪なんぞにしな垂れかかってるのが我慢できんのかよいっ」
「そりゃ、おれだって、まるこがおれより、赤髪の傍にいるのはやな感じだけど…マルコのこと無理に縛りたくないし…」
「おれだって、マルコがエースにべたべたしてんの見て、内心穏やかじゃないんだぜ?まるこだってあんなに甘い顔しねえのに」
「余計なこと言うなよい、シャンクス。エースは可愛いんだから仕方ないだろい」
「な?!なに、まるこ浮気?!いきなりまた浮気かよ。だから外出したくねえんだよっ」
「てめえがいい加減だから、まるこも浮気するんだよい。おれは本来、一途だい」
「シャンクス余計なこと言うなってんだよい!おれがどうしようと勝手だろい!こら、ケツ撫でるなっ…」
「目の前で気色悪い真似すんじゃねえっなに前まで触らせてやがるんだ!そんなおれなんか、今ここでぶち殺して…」
「だから!!マルコはまること闘っちゃダメ!!」
「…エース…」

本気で怒ったエースには絶対逆らえないと、マルコがしっかり尻に敷かれているところも見せつけられ、シャンクスはさらに頭に血が昇り、まるこは、ふん、と鼻で笑った。
それを感じて、マルコはまた、ぎりぎりとまるこを睨みつける。

「もう!ダメだ、って言ってるだろ?」

ギュッとエースに抱きつかれれば、それを振り払うことなどマルコにはできない。
反対に、シャンクスが抱きついてきたのを盛大に蹴り飛ばしたまるこは、マルコに向かって舌なめずりして中指を立てた。

「まるこも!挑発すんな!!」

びしり、と今度はチェストのガラス扉にひびが入るのを聞き、マルコが動けなくなるのも仕方がないのか、と普段は隠されているエースの実力を、まることシャンクスは悟る。

膠着状態になった四人が動けず、少し固まっている間に一触即発の危機的状態は去った。
マルコが小さくため息を落とす。

「じゃあ、いったいどうしたら良いってんだよい…」
「う…とにかく、自分同士が傷つけあうのはよくねえよ。おれが見たくない」
「そうはいっても…おれが二人いるわけにはいかねえんだよい。なんとかして決着付けないと…」


その時、静かに扉が開いて、男がまた一人入って来た。

「私が決めてあげようか?」

肩を越えて波打つ、銀の髪。年老いているようだが、たくましさを誇示している肉体。
穏やかだが自信に満ちた声で、この修羅場に乗りこんでくるのは、それだけの力を持っているからこそ。

「「「「あんたまで出てくんな!余計、ややこしい!!」」」」


四人から一斉に罵声を浴びせられても、冥王シルバーズ・レイリーは、ピクリともせずに微笑んでいた。





「くだらない争いだ…くだらないルールのせいでな。キミなら100人いても私は愛せるよ」
「るせえ!触るんじゃねえよい、種馬じじい」
「レイリーさん、おれのまるこに色目使わないで!まるこも何恥らってるんだよっ」
「まあ、落ち着け、シャンクス。くだらないことはくだらない決め方が一番だ。おお、いいものがある」

片隅でさっきから被害を受けていたバーチェストに歩み寄り、スナックが積み上げてある中から、一つ選び出す。

「今日は11月11日だから、これがいい。何の日か知っているかね」
「もやしの日だろい」
「え?鮭の日だろう?ナミュールが今日取ってきて丸焼きにしてくれるっていってたぜ?」
「何言ってんだよ。色気ねえ奴。ペアーズデイ、恋人の日じゃねえか。なのにおれとまるこの邪魔しにどかどか来やがって…」
「下駄の日にふさわしく、それで蹴られたいようだねい…人前で撫でまわすのやめろよいっ」
「………ポッキーの日だよ。だからどちらが残るか、ポッキーゲームで決めればいい」
「「「はぁ?!!!」」」

シャンクスとまることマルコの顔に、くっきりと(このエロオヤジ!!)と書かれているのを見て、エースは戸惑う。

「え?なに?…ポッキーゲームって…」
「おお、キミは知らないのかね?じゃあ、わたしが教えてあげるから、これを咥え…」
「エースにおかしなことするんじゃねえ!!下がれ、エース。1メートル以内に入ったら妊娠するぞい」
「男でも妊娠するようなゲームなのか?そんな…」
「ほら、誤解された。キミは過保護すぎるよ、マルコ…そんな大変なことじゃないだろう?単なるゲームさ」
「そんなゲームで人の命かけさせようって言うのかよい…」
「なぁ!なにさせようってんだよ、マルコに!!おかしなことなら、力ずくでもさせないぜ」
「大したことじゃないよ。こうして咥えたポッキーを両方から食べて行って、目をそらしたり、口を離した方が負け。簡単だろう?」
「……それって、最後まで両方口も目も離さなかったらどうなるんだよ」
「勝負がつくまでやりなおしかな?キス付きで」

くそったれ、と吐き捨てるが、他に解決策を思いつくわけではない。
マルコは頭をかきむしり、シャンクスに絡みつかれているまるこを忌々しげに眺めた。

自分とまったく同じはずだが、そうは思えない。
おれはあんなになよなよしてねえよい、と舌打ちが出るが、ふっと、その差異が引っ掛かり、頭脳が動きだす。

よし、たぶん負けねえよい。

浮かびそうになった笑いは押し殺し、顰め面のままで顎をしゃくる。

「こんなとこで、ぐだぐだしてたくねえよい…ケリ付けようじゃねえか」
「…おう」
「まるこっ、そんなゲームでおれとの関係を賭けるのかよ」
「他に何か方法を思いつくのかよい?」
「じ、じゃんけんとかっ」
「あほう」

止めようとする赤髪の手を振り払い、まるこがマルコの前に立ち、好戦的な光を瞳に浮かべて、咥えていたポッキーの反対側に噛みついた。
鏡で見慣れているような、でも、どこか違和感のある顔を間近にとらえ、二人の間に火花が散る。

「では、良いかね?…ファイト!」


冥王の合図で、いきなり、マルコはがつがつ、とポッキーを食べつくし、まるこの唇に噛みついていった。
驚きで見開かれたままの、同じ色の瞳を睨み据え、後頭部に手をあて逃げられないよう固定し、咥内を荒らす。
何千何万回ともつかぬ、エースとの濃厚な交わりで、鍛え上げたスキルは、あっという間に、まるこの息を上げさせた。
わずかに口にあったポッキーまで、執拗に舐めとられ、自分の弱いところも知り尽している自分に責められ、思わず小さな吐息が漏れる。

シャンクスの怒号と、エースの悲鳴が同時に上がり、まるこの瞳が、ギュッと閉じられた。



勝ち誇った顔つきでまるこの頭を突き離し、冥王を睨み据える。

「見てたな?こいつが目をつぶったよい。おれの勝ちだ」

振り返り、怒りで震えているシャンクスにも勝利を叩きつける。

「おまえが飼い慣らしてた方は、犯られるのに馴れちまって、本来の力をそがれちまったんだろい。残念だな。不死鳥はペットには向かねえんだよい」



うつむいて、唇を押えていたまるこが、ようやく顔を上げ、シャンクスを見る。
何か、いたいけのないものを傷つけ、後悔しているのだ、と、雄弁に語る視線でしばらく見つめ、ごしごし、と手荒く自分の口元を拭い、まるこはシャンクスの傍に歩み寄った。

「…シャン……今まで大事にしてくれてありがとう。悪かった、よい…」

最後の接吻をするのをマルコは小さな舌うちだけで堪え、目を反らして、しばらく待ってやった。

それ以上の見苦しいあがきを見せず、まるこを手放し、シャンクスはなんとか微笑みを浮かべる。

「幸せになってくれ…」
「おれは消えるんだ。もう、忘れろよい」

諦めと痛みが滲む笑みを口元に浮かべ、シャンクスはかぶりを振る。
そのしぐさを見て、まるこの顔はさらに苦痛を浮かべた。

自分が演じる愁嘆場にそれ以上耐えきれないマルコが、やや、荒っぽく肘を掴んで引くのにおとなしく従い、部屋を出て行きながら、また、まるこはぽつり、とつぶやいた。

ごめんよい、忘れてくれ。

それを漏れ聞いたエースは、まるで自分が傷つけたか、傷ついた気がして、胸がかきむしられた。





いつも馴染んでいるブリッジよりは小ぶりな、黒モビーの主制御室。操艦するマルコの横でエースは、まるこの様子を伺っていた。
モニターには遠くなるレッドフォースが映され、それを見ているまるこはこちらに背を向け表情を隠している。

「…なあ、マルコ…ほんとうにまるこ消去するのか?……」
「…それが決まりだからねい」
「でも、おれやだよ。どんなまるこでも、死ぬのは嫌だ」
「あいつとおれはおんなじなんだから、単に死ぬのとは違うだろい」
「それでも…マルコにまるこの気持ちを一緒に入れるわけにはいかないんだろ?」

そう、それが問題だ。
同じ遺伝形質、能力が与えられていても、後の経験と記憶が脳内のシナプスを強化し、性格を作る。
そのプロセスが違う、という事は、厳密にいえば、違う人間なのだ。
マルコにまるこの記憶を注入したら、一つのからだに二つの人格が宿ることになる。
マルコは長い間更新されて来た身体が体験した記憶を、覚醒時にメモリーとして流しこまれているので、強固に性格や反応回路は出来上がっている。
そこに、エースではなく、シャンクスを愛する人格を入れても、けして融合しない。
肉体的な存在、としては、同じものでも、メモリーを移さずまるこを消去したら、それは一つの個性を殺すことになるのだ。

マルコはため息をついて、ややこしい問題は先送りした。

「すぐには消さねえよい。あいつの中には、赤髪の情報が入ってるし…サッチあたりが聞き出したいだろうから」

そして、オヤジに報告して、判断をゆだねることになる。
あの、宇宙のように底なしの度量の持ち主は、この存在も、きちんと一人の人間、自分の息子と認めて、受け入れるだろう。

「モビーの中なら、秘密は漏れねえし、政府から監査が来やがっても、その時だけスリープさせれば、おれのスペアボディで通せるさ…」

明らかにほっとした色を浮かべるエースの顔を見て、こいつと来たのは間違いだったかもしれない、とマルコは少し考えた。
戦闘になるかもしれないところに一人で行かせない、と頑張られたので同行したが、エースが、もう一人のまるこを見れば、消去を嫌がることぐらい予想できたはずだ。
エースを危険な目に会わせたくなくて渋っていたのに、サッチも強硬に押してくるし、何より、エースがそうする、と望むことを制止できなかった。

マルコが一人で来ていたら、適当に言い訳を見つけて、帰りに存在を消去していただろう。
モビーの中に、自分がもう一人いるなんて、それも、エースは気にしていて、向こうはエースに惚れていない自分がいるなんて、ややこしくなるにきまっている。

エースの気持ちも時間も、ひとかけらだってほかのやつに取られたくない。
それがたとえ自分であっても。

その為には、断固として闘い、絶対にエースの中にある自分の位置を守る。

マルコは、まだ、離れてモニターを見ている後姿を気にしているエースの、あごを掴んで無理にこちらに捻じ向け、忘れさせるために最高のキスを贈った。





レッドフォース号のブリッジでも、離れていく黒モビーの姿を追いながら、シャンクスはレイリーと酒を酌み交わしていた。
勝負に負け大切な恋人を攫われて、さぞや意気消沈している、やけ酒…ではなさそうだ。
二人とも、いたずらが成功した少年のような、ニヤニヤした笑いを浮かべている。

「行ったな…まずは作戦成功、か」
「マルコ一人で乗り込んできたらどうしようと思ったけど、エースも一緒なら、勝ったも同然だね」
「悪い男だな。純情なエースが同情して味方につくようにメロドラマまで演じて見せたか」
「ひっでぇな、レイリーさん。おれほんとに振られて傷ついてんだよ?ずっと大事にしてたのにさぁ」
「まあ、鳥にも帰巣本能があるのかもしれんな。しかし、大本はおまえの悪趣味が悪いんだろう」
「悪趣味はあんたに仕込まれたんだよ。大体最初に…」

と、たわいもない言い争いをしている背後の扉があき、小さな金髪頭がのぞいた。

「…リィ?……怖い人、もう、行っちゃったかよい?」
「おお!もう大丈夫だよ、マルコ。いい子だったね、さあ、おいで…」

すぐに扉まで行き、小柄な少年を抱きあげる。10を幾つか超えたかどうか、という子供も、明らかにマルコのコピーだった。
こわばっていた顔は、優しく触れられる頬が赤くなり、撫でられるたびに、背中やうなじから力が抜け、ふにゃん、と厚い胸にからだをあずけるころには、すっかり安心して、甘えを滲ませる顔つきに変わっていた。

「マルコがちゃんと一人でも我慢してじっとしていたから、見つけられなくって、すごすご帰っていくぞ。えらかったな、強い子だ…」

ちゅ、と頬やまぶたにキスを降らせ、互いに抱きしめあうふたりをシャンクスは横目で眺め、厭味をぶつける。

「危ないって思うなら連れて来なきゃ良いのに。そいつが見つかったら、本当に大騒ぎになるとこだぜ?」
「この子は、わたしと一緒に居たがってくれるんだ。こんな愛しいものをどうして置いて来れるかね?」
「…他にも二人マルコがいるんだろ?そいつらは子供だけ連れてっても怒らないのか」
「セカンドは働き盛りで、私のためにいろいろと動くのが楽しいらしくてね…あちこちに変装して出ては、公私ともに尽くしてくれるので忙しい。ファーストは落ち着いているから、今までに培った愛と信頼で、安心して留守を預けていられる」
「さっきの見ただろう?マルコ同士は、普通ケンカするんじゃないの?」
「それは愛の方向が違うからだ…私が愛してるのはマルコただ一人で、マルコも私だけを愛してくれる。からだは三つあっても一つの存在なのさ」
「屁理屈だと思うけど」
「そうではない。サードが愛されたいと強請ってくれるのも愛しく、いつまでもこのまま守っていてやりたい。セカンドが、私に尽くそうとしてくれるのが、嬉しくない訳はない。そして同世代になったファーストとの穏やかな時間もとても癒されるんだ。マルコが与えてくれる愛はどんな時でも素晴らしいものだ。それに私も応えるだけさ」
「オリジナルが聞いたら、憤死するぜ?」
「もちろん彼もすばらしい。マルコだからね。ただ、自分が持つ無限の愛情をただ一つの形にはめ込んでしまっている。もったいないことさ」
「でも、マルコは色々させようとしたら、怒るだろう?おれ、一日何回も蹴飛ばされたよ…」
「シャンクス。おまえは自分の好みや好奇心にマルコを添わせようとするから駄目なんだ。マルコは、ただ、マルコであるだけで良いとは思わんか?」
「まあ、そうだけど…でも、恥ずかしがったり、怒って泣きそうだったり、拗ねたりしてるのも、もう、めちゃくちゃ可愛いからさぁ。つい、これはどうかな?こうしたらどうなる?って思うんだよな」
「その結果、他に心を移されたのでは元も子もないだろう。次はすべてを受け入れて愛するんだな」
「…まったくなぁ…四皇会議の打ち合わせで来たサッチに、一目ぼれされるとは思ってもみなかったよ。絶対おれの方が男前なのに」
「余り閉じ込めすぎると、外から来るものへ過大に夢を抱くものだ…誤算だったな」
「おれ以外の男に免疫が無かったのかなぁ。ちょっと会って、優しくされただけなのに、それ以降ずっとサッチに会いたい、サッチの所に行くって聞かないんだぜ。もう、ガラスのハートは粉々だよ」
「それでも、結局はまるこの願いを聞いてやるしかあるまい。愛しているならな」
「先に惚れた方が負けってこと?ま、いったん言い出したことをまるこが引っ込めるはずもないし、仕方ないよ…」

ブリッジの外の廊下で、何か困った調子で大声を上げている大人の声と、その合間に甲高い小さな声が聞こえた。
それを耳にしたシャンクスは、満足そうににやり、と笑いレイリーを見た。

「だからさ、おれも次はレイリーさんを見習って、一から育てることにしたんだ」

廊下の諍い声は大きくなり、ばたん、と大きな音がして扉が撥ね開けられ、小さな丸裸の子供が駆けこんできた。

「こらっ!!ぬれ鼠で走り回るな!パンツぐらい履けぇっ」
「やあよい!!ルウはマルに触っちゃだめよい!!」

そのままの勢いで、シャンクスの腕の中に飛び込んできた子供は、おそらく三歳にもならないが、はっきりとマルコと分る特徴をもっていた。

「シャン!めっけよい!!」
「ああ〜、マルどうしたの。いい子でねんねしてたのに」
「どうしたもこうしたもあるか。昼寝させてる間に困った客との対応が済まなくて、目を覚ましたから騒がないように相手してやってたのに」
「そっかぁ、おっきしちゃったか。マルごめんなぁ。一緒に居なくて」
「勝手にどっかいくの、めっ!よい」
「ごめんごめん…でもどうしてはだかんぼなの?パジャマ着てただろ」
「ルウが悪いよい」
「おれが悪いわけないだろう!起きてぐずってるから、おとなしくなるようにケーキやココアやって、それも気にいらないから、おれ様の肉までやったんだぞ!」
「はだかんぼ、ルウがしたんだよい」
「おまえが喰いもんおもちゃにして、ぐちゃぐちゃになったから、洗ってやったんだろうがっ!」
「だぁめよい!」
「ああ、そうか、うんルウが悪い!マルはいい子だな〜〜」
「なんでだよ、お頭ァ!!噛まれるわ、蹴飛ばされるわで大変だったんだぜェ」
「だってこないだ約束したもんね、はだかんぼのマルに触っていいのは、シャンだけ〜って」
「よい!」
「マルはシャンのお嫁さんになるんだから、はだかんぼ触るのはシャンだけだよね〜」

ぷくん、と膨れたおなかに口を付け、ぶぶぶ、と鳴らしてもらい、キャラキャラと笑い転げている姿を見て、部屋に居るもの、シャンクスと膝の上のコロコロした子供以外は、全員の頭が痛くなった。


「…バカだよい…」

レイリーの腕に抱かれ、おとなしくしていたマルコが、ぽつ、とつぶやき、小さな声なのに、それは皆に聞こえた。

「おいおい、マルコ…」
「あいつ、バカだよい」

今度ははっきりと聞かせるための声を出し、少年のマルコは子供のマルコをいやそうに見下した。
その声で初めて、自分以外におとなではないものがいるのに気がついた子供マルコは、怖がって、シャンクスにしがみ付く。

「シャン…あれ、いじめコ?」
「大丈夫、怖くない。シャンが苛めさせないから」

冥王レイリーが笑いだした。

「あっはっはっ…そうだな、マルコ同士は相容れないらしい」
「うちのマルをバカにするなら、おれが相手だぜ?」
「…バカの相手はしないよい」
「ならいい、え、ちょっと待て!誰のことをバカって言ったんだ!!」
「バカって言われてるのに気が付かないバカだよい」
「おやおや、マルコ?相手をしないんだろう。ほっておきなさい」
「ちょ!レイリーさん!!」

ぷい、とそっぽを向いた少年マルコを宥めるように、また背中を撫でてやりながら、レイリーは立ち上がる。

「本来顔を合わすことはないんだから、マルコ同士が仲良くなくてもいいんだが…エースではないが、マルコが傷つけあうのはいただけない」
「出来るだけ会わさないに越したことはさそうだな。レイリーさん、今一体マルコ何人いるの?」
「そうだな…私が把握しているだけなら…」
「レイリーさんが上手く、黄猿や青キジもマルコを好きなのを煽って、あいつらにもマルコと暮らし始めさせてくれたから、マルコのコピーを傍に置いてるのが、お互いばれたら困るってことで安全になったものな。でも、他にも嗅ぎつけて欲しがってるやついるんだろ?」
「クロコダイルの所はもう、10年以上になるな…後は、ルーキーの中でも、トラファルガー・ローが青キジの隙をついて、クローンにする細胞芽を奪ったのを、さらに、麦わらが一目ぼれして持って行ったらしい。ほとんど抱き枕か、空の散歩用らしいが…」
「ローのとこはいなくなったのかい?」
「いや、抜け目なくスペアを作っていたようだな」
「と、すると…今のとこ10人か。広い宇宙全体で10人だから、大したことないよな」
「さっきも言っただろう?私はマルコが100人いても愛せるよ」

にやり、と、互いのマルコを腕に納めて、強い意志を持った目が光を強める。

違法だとか、モラルだとか、そんな枷に縛られたりしない、欲しいものを手に入れることに躊躇わない、海賊の顔。
相手の腕の中に居るマルコも眺め、お互いに自分のマルコの方がいい、と思う程度には、骨抜きにされてはいるが。

モニターには、ワームホールでジャンプを始めるため、粒子光を纏いだした、黒モビーが、徐々に霞んでいくのが映っていた。
こうした短い接触だけでも、次にいつ会えるかなど分らない。マルコ本体は、積み重ねた経験と記憶がある限り、エース以外に振り向きもしない。
コピーが傍にいなければ、恋しさで気が触れてしまうだろう。

混乱を招くと解っていても、自分の本当の望みを掴み取る。
そして、トラブルすら、踏み越えていくのだ、掴んだものを離さないために。その為に強さを得たのだから。


「今後問題が起こるのは、あのクジラの中でだろうね。他は、そう出会うことはないだろうから…」
「おれ達の所のマルコは大事な箱入り息子だけど、本来の場所に行けば自由に飛びまわるがいいさ」



不死鳥の無事を祈るなんて、おかしいけれど、本当に傷つけたいわけじゃないんだぜ?
と、混乱の元凶たちは、自分たちのせい、という言葉は棚にあげて、彼らのおっさんアイドルの平安を願った。



「しかし、さっきのマルコ同士のキスは見事だったな。一度しか見れなかったのが残念だ」
「レイリーさん?うちのマルでさせようとか思うなよ。この子は、無垢に育てて、今度こそ、真っ白いウエディング着てもらうんだからな」
「まだ悪趣味が諦められないか。それが今回別れるきっかけだと言うのに…」






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