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5月22日
大好きな人の大切な日。

一年前のこの日はまだ三井サンがバスケ部に戻ってきたばっかで、その上IH予選の真っ只中。
お祝いどころじゃなかったし、第一誕生日を知ったのもずーっとあとの話だった。

だから二人で迎える初めての誕生日。
大事にしたいんだけどサ、やっぱり今年もIH予選とだだ被りでキャプテンはまいっちゃってるワケでして。
しかもこの時期って中間テストも重なるからサイアク。
三井サンは三井サンで大学も一人暮らしもまだ慣れないみたいだし、一緒にいられるかどうかも怪しいぐらいだよ。

なんでこの時期に生まれてきたのって思うと溜息出るんだけど、それすら可愛く感じてなんか笑っちゃう。
変なの。



『 ふたりごと 』





「え、アヤちゃんもっかい言ってくれる?」

「だーかーらー、土曜日の部活のあとに勉強会をするの!何度も言わせないでよ、もうっ。」

目の前のアヤちゃんはとてもめんどくさそうな顔をしている。
何度も言わせてごめんよ、でも信じられなくて。

「で、でも、その日は前から夕方で上がりだって部員に伝えてあったしさ、急に変えない方がいいんじゃない?それに勉強会をするほどでも…−」

バシィ

「イッテェ!」

アヤちゃんの鉄拳が炸裂した。

「どの口が言ってんのよ、どの口が。去年赤点軍団にいたのはあんたでしょ。」

「でも…っ」

「もう学務の先生に頼んで教室は借りてあるから。よろしくね、リョータ。」

にっこりと笑顔を残して去っていく女神。
ち、チクショウ、逆らえない…。

「…ごめんね、三井サン。」

盛大に肩を落として、ボソッと呟いた。

なぜこんなに勉強会を拒否しているかというと、土曜の夕方からは大事な大事な予定があったから。
来たる日曜日の三井サンのお誕生日を祝うべく、土曜の部活が終わり次第デートの予定だった。
一緒にプレゼント選んで、一緒に誕生日を迎えて、三井サンちでヘブンタイム…になるはずだったのに。
なんのために俺がキャプテン権力で部活を夕方までにしたと思ってんだよー!
なんてアヤちゃんには言えないけれど。


『もしもし』

「あ、三井サン、今ヘーキ?」

『うん、どした?』

「あのね、誕生日のことなんだけど、実は土曜日の部活のあとにバスケ部で勉強会することになっちゃって…本当にごめん。」

『…そっか。でも仕方ないだろ、俺は全然平気。』

三井サンは明るくそう返したけど、喋り出すまでの間の長さでバレてるよ。全然平気じゃないこと。

「ずっと約束してたのに本当にごめんね。勉強会終わって行けそうだったらそっち行くし。」

『いーから、そんな無理すんなって!俺は誕生日当日に一緒にいられるだけで嬉しいから。』

「…うん。」

『その代わり最高の誕生日を期待してっからな。』

最後まで気丈に振る舞って、三井サンは電話を切った。


そして勉強会当日。
バスケ部全員出席とはいえ、問題児なのは俺と花道と流川なワケで。
本気のリョータ君はさっさと自分のを終わらせて、アヤちゃんとマンツーマンで流川。手伝いに来てくれた晴子ちゃんが花道。
苦戦しながらも、なんとかアヤちゃん特製のプリントを全部クリアーできた。

「よし、じゃあ終わりにするか。」

そう声を掛けて、ちらっと教室の時計を見やる。
針は23時すぎを指していた。
今から片付けて家帰るとなると、あっちに行くのは無理だろうな。
重い足取りで家に向かった。

「はぁ。」

台無しにしちゃったよなぁと思うと溜息が漏れる。
とりあえず日付が変わるときに電話しよう。
そんなことを考えながら歩いていると、自分ちの前に黒い物体が見えた。

「え…。」

玄関の前でうずくまる人影。
顔を見なくたって分かる。

「…三井サン?」

顔をあげたその人は、困ったように笑った。


「ごめん、会いに来ちゃった。」


少し冷えた体を一旦ぎゅうっと抱き締めて。

「この時期でも夜は寒かったデショ、ありがとね。とりあえずうち入ろ?」

うん、と頷く三井サンを家の中へと連れて行く。
久々に会ったから、お互いの近況とかさっきまでの勉強会のこととか、部屋でしばらく話してた。


「あ、あと5分で誕生日だよ。」

「うん。」

「ホントはね、今日のデートで一緒にプレゼント選んで、誕生日になった瞬間にあげたかったんだけど…なんも用意できなかった。」

顔の前で両手を合わせて、ごめんなさいと呟く。

「いいって、そんなの。」

「だから明日一緒に買いに行こ、三井サン何が欲しい?」

三井サンはしばらく悩んだあとに、突然こっちを指差した。


「みやぎ。」


「え、俺?」

驚きながら尋ねると、コクンと頷く。

「いやそんな、誕生日にあげるもんでもないじゃんか。俺なんてもう身も心もアンタのもんだし。」

「俺は宮城がいればそれでいいの。」

そう言われてぎゅうっと抱きつかれると困ってしまう。
やれやれと思いながら頭を撫でていると、急に三井サンの携帯が騒がしく鳴り出した。

「誕生日メールだ。」

時計を確認すると、針はちょうど12時を指している。

「お誕生日おめでとう。」

「ありがと。…あ、一個欲しいもん思いついた。」

「なになに?何が欲しいの?」

身を乗り出して聞く俺の手を握って、三井サンは口を開いた。



「19歳最初のちゅーをもらってほしい。」



「…他の奴にもらわれても困るんだけどサ。ホントにそれでいいの?」

「うん。」

少し赤くなった頬に手を添えて顔を寄せる。

「だーいすき。」

そう耳元で囁いてから、ちゅっとキスを落とした。

「ありがとう。///」



目の前ですごく嬉しそうに笑うこの人が、俺には世界で一番可愛くて愛しく思えた。
きっと神様もビックリしてる。
こんなに可愛い生き物は、今世紀最大の突然変異。


「…なんか、アンタの誕生日なのに俺の方が幸せな気がする。」

「じゃあきっと俺はその100倍幸せ。」

「そういうこと言っちゃう?」

笑顔で顔を見合わせて、思いっきり抱きついた。


きっと神様もビックリしてる。
世界一幸せそうな二人に。
世界一幸せが似合う二人に。

お誕生日おめでとう、19歳の三井サン。



おわり ◎



あきゅろす。
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