「え、あ、その、これは…っ」 動揺しすぎて拾い上げたボールをまた落としてしまった。 運悪くそれはキャプテンの足元の方へと転がっていく。 何を言われるだろうかと内心ひやひやしていると、ボールを拾ったキャプテンは子供のような笑顔を浮かべた。 「ハハッ、やっぱり三井だ。」 「え…?」 予想外の反応に目をぱちぱちさせていると、キャプテンはゆっくりとこちらに近づいてきた。 「久しぶりじゃん、三井。」 「あ、はい、お久しぶりッス…。」 元気そうだなー、なんて呟きながら指先でクルクルとボールを回している。 目の前のこの人が何を考えているのか全く分からなかった。 もともと人の心を探るなんてことは俺が一番苦手なことだ。 耐えきれずに核心に触れてみた。 「俺のこと軽蔑してないですか?」 そう言った途端、キャプテンは手を止めて俺のことをじっと見つめた。 ほらよ、と声を掛けてこっちにパスをする。 「お前まだバスケ好きなんだな。」 その言葉を聞いてかつての記憶が徐々に蘇ってきた。 そうだ、この人はこういう人だった。 キャプテンのくせにキャプテンっぽくなくて、どこかふわふわしてる不思議な人。まともに会話が成り立たなかった気がする。 「今の三井スゲー楽しそうにバスケしてたからなんか安心した。よかったわ。」 キャプテンはゆるりと微笑んで言った。 どうやらさっきシュートしているところを見られていたらしい。 「すいません、勝手にボールとか使っちゃって。」 「何言ってんだよ、お前だってバスケ部だろ。」 そんな風に言われると余計申し訳ない気がして、言葉に詰まってしまった。 しばらくお互いに黙っていると、キャプテンが口を開く。 「またバスケやれば?」 「や、それは無理です。バスケ部の人たちには散々迷惑かけてるし、嫌われてんのも分かってるから。」 バスケの推薦で大学に入って、期待の新人と頼りにされ1年のうちからスタメンにしてもらったにも関わらず、勝手に消えた自分を部の人たちが良く思っていないということはどこからか耳に入っていた。 「別に部活じゃなくてもいーじゃん。こうやって空き時間とか好きなだけやれよ、俺が許すから。」 「い、いいんですか?」 「おう。ただ昼休みとか放課後は部活のヤツらが使ってるから、それ以外な。」 この人は神様なのかと錯覚しかけた。 有難うございます!と神様もといキャプテンに深々と頭を下げる。 「んな大したことじゃないって。じゃあ俺授業あるから行くわ。」 そう言ってキャプテンはにこっと笑ってから歩き出した。 「あ、あと遅くなったけど、俺は三井のこと軽蔑とかしてないからね。」 最後に言い残してその後ろ姿は見えなくなった。 遅すぎんだろ、とこっそり悪態をついていると、いつの間にか消えていたらしい宮城が姿を現した。 「よかったね、三井サン。」 「見てた?」 「うん。」 宮城はまるで自分のことのように嬉しそうに笑った。 「宮城、俺しあわせ。」 「じゃあ俺もシアワセ。」 たった数日の間に宮城もバスケも取り戻せるなんてこんな幸せがあっていいのかと思いつつ、今はただこの緩む口元を抑えることができなかった。 [管理] |