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「もー、急に教室出てっちゃうンだもん、びっくりしたじゃん。」

隣を歩く宮城は少し不満げにそう言った。
文句を言いたいのはこっちだっつーのに。

「とりあえずついてこい、話はそれからだ。」

「どこ行くつもり?」

「誰もいないところ。」

一先ず人目のつかないところに行かなければまともに話をすることさえできない。
俺にはしっかり見えてる宮城も他の人には見えてないんだから、客観的に見たら俺は独り言を言いまくってる変質者になりかねないんだ。

「おい、もっと早く歩けよ。」

「へいへい。」

のんびり歩く宮城の腕を引っ張ってやりたかったけど、それこそ周りの目には怪しい人物に映ってしまうだろうと考えて、ぺしっと軽く叩くだけにした。



「え、ここ…。」

「仕方ねーだろ、ここしか思いつかなかったんだから。」

ギィっと音を立てて扉を開く。
懐かしい匂いに少し目眩がした。
大学なんて人が多すぎて誰もいない場所なんてそうそう思いつかない。高校と違って屋上だって開放されてない。
案の定この体育館には人の気配すらなかった。

「アンタ体育館いつぶり?」

「んー…もう分かんねーや。」

きっとそれほど昔じゃないけれど、バスケをしていた自分は遥か遠くに感じられた。

「そっか…。」

「まぁ、そんなことは今はいいの。お前急に登場すんのやめろよな!」

本題に入るやいなや声を上げると、宮城はしれっとした表情を浮かべた。

「急も何も俺んこと呼んだのは三井サンだよ。」

「は、呼んでねーし。」

眉間に皺を寄せてそう言い返すと、宮城はやれやれと溜息をついた。

「今朝も言ったじゃん、心の中で呼んだら飛んでいくって。」

「あ。」

そういえばそんなこと言ってたっけ、と今朝のやりとりを思い出し、それと同時にさっき教室で宮城のことを考えてた自分も思い出した。

「…スゲー機能だな、なんか。」

「魔法みたいなもんだよ、三井サンだけが使える。」

宮城はにっこりと笑った。それにつられて少しはにかむと、宮城の目がある一点を捉える。

「ん?」

ちらっとそっちの方向を見てみると、しまい忘れただろうバスケットボールが一つ転がっていた。
見つけた瞬間、無意識のうちに目を逸らす。

「三井サン、」

ボールの方へと駆け寄った宮城はこっちにパスを出した。

「久しぶりにやってみれば?」

「でも…っ」

「俺と一緒なら平気デショ?何も怖くないよ。」

宮城の言葉を聞いてボールの感触を確かめる。
静かにドリブルを始めてシュートをすると、ボールは吸い込まれるようにゴールへと入っていった。

「ナイッシュー!」

ぱちぱちと宮城の拍手が響き渡る。
まだ鈍っていなかった自分の感覚が嬉しくて自然と笑顔が零れた。

「よかった、入った。」

「アンタほんといい顔すんね。」

宮城にそう言われてやっぱバスケが好きなんだと実感する。
ゴール下までボールを拾いに行き顔を上げると、聞き覚えのある声がした。


「三井?」


「キャ、キャプテン…っ」

まさしく一番出会いたくない人だった。



あきゅろす。
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