高1の冬。今年くらい初めてできた彼氏と初詣に行きたい。私はずっと新年とかクリスマスは家族で過ごしてきたんだけど、今年は…彼氏の水戸洋平と、神社に初詣に行くんだ。高校生になったんだからそれくらいいいよね。不機嫌なお父さんの隣で私はお母さんにネイルアートしてもらう。マニキュアくらいなら塗るけど、ネイルアートってしてもらったことないから少しだけ不安と緊張。洋平、笑わないかな。
そんなこんなで、1月1日昼1時。初詣客で賑わう私のうちの近くの神社。いいって言ったのに洋平はわざわざこっちに来てくれるらしい。私は学校近くのとこでいいって言ったのに。
白い息を吐きながら行くと、鳥居に寄り掛かって煙草をふかす、オールバックとリーゼントの中間みたいな黒髪を見つけた。私はくすくす笑いながら駆け寄る。大勢の人混みの中、何故か際立つ水戸洋平。オーラかなぁやっぱり。

「遅れてごめん」
「おー、あけおめ。別に俺も今来たとこだから」

嘘ばっかり、そんな赤い鼻して言われたって。こういうささやかな優しさが好き。お互いの吐く息は水蒸気になって、私たちの間を取り巻く。「今年もばっちりだね、髪型」そう言って笑うと「ったりめーじゃん」と彼は煙草を携帯灰皿に入れて火を消した。私が買ってあげたやつ。

「甘酒配ってる。貰う?」

洋平は鳥居の先を指差した。私は首を横に振る。「ごめん私飲めない。洋平貰っていいよ」「そ?あ、みかんも貰える」「あ、みかんは欲しい!」私たちは歩き出す。いつも人の少ない神社に、近所から詰めかける家族たちでもう敷地内定員オーバー。甘酒とみかんをゲットした私たちは、そのまま流れに乗って参拝列へ。途中はぐれそうになって、洋平は私の手をとってくれた。すぐ離すのかと思ったら、列に並んでも手は繋がれたまま。今更だけどすごく照れる。

「手ぇつめてーの」
「うん、今日手袋してないから」
「そういやいつもしてんのに。なんで?」

洋平が繋いだままの私たちの手を自分のブルゾンのポケットに突っ込んだ。ので、私は1人さらに照れたりする。っていうか手袋しない理由が、あなたに滅多にしないネイルアートしてもらった爪を見てもらいたいから、とは、言えません。言えないよ、そこまでバカじゃない。

「な、なんでだろー、気分?」

適当に返すと「はぁ?」と洋平は眉をしかめた。「………」私は寒さと恥ずかしさで赤くなっていく頬を隠すために、洋平がいる方とは逆向きに顔を少し背けた。

「………」

数秒の沈黙のあと、

「きゃっ」

変な声が出た。
私は首筋に手を当ててばっと振り向く、今、この人、首筋にちゅーしたんですが!

「な、なななっ」
「俺のためにお洒落してきてくれたんでしょ?ありがとな」
「わ、わかってるなら聞かないでよ…!」

洋平はニンマリと微笑みながら、繋がれたままの手をずぼっとポケットから出した。洋平の方を向くと、彼はじっと私の指を見つめていた。

「……っ」

すると彼はいたって真面目なまま、私の反応に構わず私の指先―――爪にひとつひとつ口唇を落としていく。「ち、ちょっと洋平、」私の声に前の人や道行く人数人がこっちを見たから、私は俯いた。ちびちびと進む列の速度がいじらしい。もっと早く進めばいいのに。

「っ、」

最後に額にキスをして、洋平は目線を合わせた。

「なんで隠してたの?」
「だ、だってなんか、恥ずかしかったから…」
「すごいかわいいと思うけど」

洋平は笑った。「…ほんと?」私が首を傾げると、「うん、すげー細かいし凝ってるし、色も似合ってる。つーかお前めっちゃ爪キレイなのな」と感心したように彼は言う。「今はそう見えるかもだけど、これなくしたらそんなことないよ」私はそう言って苦笑する。

「そんなことねーよ。それに、俺が言ってんの形だから」
「………」

顔が熱い。もうやばいんじゃないかな、私。

「…ありがとう」

あのね洋平、私が爪の先まで気にするのはね、あなたがこうしてちゃんと見てくれるからだよ。

いつしか私たちの番になって、財布から10円玉を出して2人で賽銭箱に投げ入れる。でっかい鈴みたいなの鳴らして、二礼二拍一礼。柏手合掌の最中、不謹慎だけど洋平の方をちらっと見てみた。すごく真剣にお願いしてたから、何だろうって気になった。あれかな、お母さんが真面目に仕事しますようにとか…赤点が減りますようにとか?あ、桜木君のことかな。…ありえる。

「何お願いしたの?」

私がそんなこと考えてるうちに、同じ疑問を洋平に尋ねられた。「何だと思う?」私の願いは1つしかない。洋平はふん、と鼻で笑ってから、「なんだろなー、痩せますようにーとか、おこづかい増えますようにーとか?」「バカ。それも思ったけどそれだけじゃないの」
思ったのかよ!と笑われながら、鳥居までを歩く。途中、またみかんをひとつ貰えた。やった。

ほんとはわかってるくせに。

「今年も洋平と一緒にいられますようにって、お願いした」

そう言うと、先を歩く洋平はくるりと振り返る。

「ふうん」
「…なにその顔は」
「甘いな。俺なんか"ずーっと一緒にいられますように"ってお願いした」
「………」
「なに照れてんの?」

照れてない、とは言えず、私は押し黙るしかない。あーあ、またこうやってしてやられるんだ。いつも、いつだって私の先を行く。

私のことちゃんと想っててくれてるんだよね。

「洋平」
「おう」
「好き」

目の前で洋平が立ち止まって振り返る。私は目をそらさないでちゃんと見た。ちょっと見開かれた彼の瞳の中に自分がいる。

「…だから、甘ぇよ。俺なんか超大好き」
「、ばか」

洋平の顔が近付いて、目の前が暗くなる。私は目を瞑った。

それじゃあ改めまして。

「「今年も、よろしく。」」






ブルー・クロウ・スター
いつだって君が、私を見ていてくれるから。
私は今日からまた、強くいられるよ。



20081224
20100101
※2009年の年賀状企画にて50名の方に送らせて頂いたペーパーの大幅加筆修正版です(゚ω゚)





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